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振動×剤然(530 -10)

そんなに親しい者でさえ見間違えるほど自分に似た男が居ると言うのは正直少々
気味が悪い。しかしそれがこの花形医師の信用篤い優秀な人材である事は何となく
嬉しいものでもあった。

「すみません話題を変えましょうか。時に振動先生、江北医大の救急の体制は――」
剤然はきゅっと表情を引き締めて背筋を伸ばした。

外科と救急はしばしば患者を受け渡す関連部署ではあるけれど、自科の日常に忙しく
互いの現場の実情にまで踏み込む事は少ない。それぞれの第一線で働く医者どうし、
真摯な情報交換が始まった。
体制を語れば互いの科の違いが浮き彫りになる。担当シフト以外は計画を立てようも
無く、飛び込んで来る重傷軽傷の患者を次々と捌く救急と、個々の患者の状態に
合わせ綿密にチームをスケジューリングして取り組む外科。彼らは相手を羨むよりは
それぞれに避けられない苦労を思い遣る。

食事をしながら会話は弾み、詰まるところ医者とは頭を使いつつも結局は体力頼みの
仕事だという事でふたりの意見は一致を見た。そして、人員・時間・施設や設備
すべてに制限が有る中で患者の命を預かる重責はどこに居ようと変わらず、
いつ何が起こるか判らない緊張感と、不測の事態に対応できるキャパシティを備えて
いなければならない職責の重さを受け止めながら、それこそがやりがいを生む面も
あろうと頷き合う。

すっかり意気投合した彼らは、最終ののぞみの時刻までもう一軒飲みに回る事にした。

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