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振動×剤然(530 -9)

530です。また2レス使わせていただきます。

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振動にそっくりな「聡見君」とやらは、難波大で第一内科の助教授を務めていると
言う。剤然とは学生時代からの同期でもあるそうだ。
「いつもよれよれの白衣を着て、いわゆる研究バカでもあるんですけどね、」と
外科医は続ける。
地道に抗ガン剤の研究を続ける一方、臨床では読影に長け、しょっちゅうCTやら
MRI画像を携えて外科を訪ねて来るのだと。
「聡見君の『意見を聞かせてくれ』だの『相談に乗ってくれ』って言うのは、
結局は『君が切ってくれ』って事で――」
どうやら剤然の豊富な症例に、その男は大きく貢献しているらしい。

「聡見君」のエピソードを語りながら、剤然は時折視線を揺らし、笑いを噛み殺す
ような仕草を見せる。同僚そっくりな相手に、当の同僚の話をしている事が
面白くて仕方ないようだ。
何か言っては振動の顔を窺い、ひとり勝手に笑っている剤然。
彼が繰り返し謝る通り失礼千万な話ではあるのだが、振動には何故かそれが不愉快
ではなかった。
相手の様子が、知人に似た振動の顔をただ面白がっているだけというより、とても
楽しげだったからかも知れない。
同僚をおもしろおかしく肴にする冗談めかした口調ながら、言葉の端々に彼が
「聡見君」に寄せる信頼が垣間見えた。剤然は同僚という言い方をしているが、
学部からの同期生であれば、彼らはきっといい友人同士でもあるのだろう。


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