Top/S-44

522の続き

お言葉に甘えて、続きです。暗いです、二人とも…。

  1. ++++++++

先日の一件以来、里美は材前のことを意識的に遠ざけていた。
といっても仕事は仕事と割きり、個人的な感情は混入させないのは
当たり前である。

あの夜。
里美は逃げるように部屋から出て、どうやって自宅に帰ったかも
わからないほどだった。
次の日、審判を受けるような気持ちで職場に赴き、
そしてあの男と会った。
材前は今までと全くかわらない笑顔でまっすぐに歩いてきた。
すれ違い様に「おはよう」
その口元の微笑み。なにもなかったかのような。
瞬間里見は足下から崩れ落ちるような喪失感を感じ、
返事もできないままに廊下を曲がり、自室に立ち返った。
椅子にすわり、肘をたて、両手に顔を埋める。
小さな震えが全身を覆った。

何かが喪くなった気がした。
わからないが、自分の中の何かが消えた。

里美は結局、どんなに言い繕うとも、保守的で弱い男だった。
それを潔白と位置付けた。
材前という男に、自分は汚されたのだと、そう思いたかった。
自分の中の悪を認めたくなかったのである。
ちっぽけな、正義感気取りの…
「俺はずるい男だ。材前………!」

里美とすれ違ったまま、全く速度を落とさずに
材前は人形のような無表情でロビーを横切っていた。
しかし、ふいに唇が小さくわななく。
たまらずトイレに駆け込むと、個室に入りドアを閉めた。

里美の青ざめた顔が忘れられなかった。
自分に気付いた時のあいつの顔。
一番会いたくない人間に会ってしまったかのような。

一度堰を切ってしまうともうダメだった。
次から涙が溢れてきた。理由のつけられない涙。
声を殺して泣く。こんな屈辱は初めてだった。
どうして、この僕が、こんなところで、あいつのために泣かなくてはいけないのだ。

瞬間、怒りにまかせ壁を蹴りつけた。
空虚な音が響き、余計に材前をみじめにさせた。

今まで自分の中でねじ伏せてきた不安、悲しみ、怒り、弱さが
歪な形で溢れ出そうとしていた。
そんな自分は嫌だ。
材前は血の滲むほど、人さし指を噛みしめた。

  1. ++++++++
     終わり。

    530さん。
    振動先生かっこいい&56リンガルが可愛すぎます!

3103ン伏せ字忘れました!ごめんなさい!!バカバカ!!


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