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R.S.3_LxM 16

玉座には、誰もいなかった。
「行くのですか?」
扉の付近で声がする。
ミカエルは振り返ることなく、薄く笑った。
背後からまわされる冷たい腕。
首筋に感じる息。
「好きになさるがいい。」
目を閉じて答える。
できる限り、冷たく。
髪を払い、うなじを露にする。
そう・・・咬むのなら今のうちだと言うように。
少し俯き、より咬みやすいであろう姿勢をとる。

「・・・行くがいい。」
吸血鬼というよりは、伯爵として。
人に魅せられた、滑稽な者として。
絞り出すような、その声で。
「太陽の王となる貴方へ、一つだけ言葉を贈ろう。」
振り向いたその目を、見つめながら。
「太陽の光は強すぎて、時に暗い影を生み出すだろう。」

ミカエルがゆっくりと頷き、そして微笑む。
もう、何も話すことは無かった。
心からの感謝を込め一礼すると、彼は城を出た。
その姿を窓から眺める。
馬車に乗り、駆けて行く。
見えなくなった時、伯爵はカーテンを閉めた。
もう、彼は帰らない。

玉座にもたれるように座り、上を向く。
固く閉ざしたその目は、溢れそうになる何かを堪えていた。

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