ゆず 左×右
更新日: 2011-05-01 (日) 19:25:38
※生投下につき嫌いな人はスルーお願いします。
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| 冬至の日に風呂に入れる果物の左×右
| しょーもないパラレル注意
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| __________ |  ̄ ̄ ̄V ̄ ̄| 四年前前某ラジオ番組でやったドラマが元ネタだってさ
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| | |> PLAY. | |  ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ソンナモトネタダレモシラネーヨ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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三年に一度のその年が、再びやってきた。
箒にまたがり窓ガラスを突き破って颯爽と登場……などということもなく、玄関の
チャイムがしつこく三度鳴って魔女の来訪を告げる。
裾が擦り切れ始めたスウェットとジャージパンツのだらしない姿でドアを少し開くと、
見慣れた懐かしい顔が僕の目に飛び込んだ。
「や、久しぶり。元気だった?」
「おお、久しぶり」
くしゃっとした人懐こい笑みが、突然の訪問者への警戒心を一気に解いていく。
「彼」に会うのは、実に三年ぶりだ。
北河というこの男は、彼の言葉を借りて言うところの、魔女だ。そしてその言葉に
嘘は無く、実際彼は魔法を使う。
三つ数えるだけで、北河は今まで散々僕の願いを叶えてくれた。三年ごとに僕の
誕生日に現れては、何でも願いを叶えてくれる魔女。六つのときは菓子の山、その次は
ペット、十二のときは意味無く憧れたパソコンで、十五のときは気になる可愛い
あの子のハート。
まったく、傍から聞けばちゃんちゃらおかしい話だ。
けれど三年に一度だけ、一度も欠かすことなく現れる彼は、すでにそういう存在と
して僕の中に刷り込まれていた。
「まぁ立ち話も何だしさ、とりあえず部屋に上がろうか」
「それはお前が言う台詞か」
だから、調子よく笑う彼が何の前触れも無く訪れたことは、僕にとっては不思議でも
何でも無いことだった。
とりあえず座卓の前に座り、ウーロン茶と一日賞味期限の切れた饅頭でティータイムを
過ごすことに、両者共に異存は無かった。
北河にせっつかれて、僕は特に代わり映えの無い近況をぽつぽつと話した。その割に、
こちらから尋ねることには「魔女には秘密が多いものなのよっ」だのぬかしてろくに
答えもしない。フン。お前の話など、頼まれたって聞いてやるものか。
思ったことを心のままに伝えたところ、案の定北河は分厚い唇を尖らせた。
「何だよー、それ。冷てぇ」
「冷たくねぇ」
「それよりさ、本題、本題」
北河はそう言って、にっと笑った。「あなたの願い、叶えマス」どこぞの悪徳業者の
キャッチフレーズのようだ。
「……はぁ」
「何よ? ノリ悪いなー」
「いやさ、考えてみたら俺、ほんとの意味でお前に願いを叶えてもらったことって
ない気がするんだけど」
目の前のミスター魔女が使う魔法には、玉に致命傷のとんでもない欠点があった。
三秒。
それが北河の魔法の全てだ。たった三秒で彼の魔法は効果を失ってしまう。山積みの
菓子は目を輝かせているうちに消え、仔犬は手を伸ばした途端いなくなり、パソコンは
電源を入れることすらなく、可愛いあの子にはデートに誘った瞬間そっぽを向かれた。
「ちょっと、アナタ俺の魔法を否定する気?」
「正直、……してもいいと思ってる」
わざとらしく神妙な面持ちを浮かべてみれば、思ったとおり北河は頬を膨らませる。
「ひどっ!魔法だよ、魔法。 珍しいんだよ、そうそうお目にかかれないよ! 俺を
否定するってことはヤンバルクイナを否定するのと同じことになるのよ!」
「どういう理屈だよ」
妙なテンションの北河はとりあえず放置して、僕は少し温くなったウーロン茶を飲み
干した。
そうこうしているうちに夕方になり、夜になり、北河は僕のアパートに一泊していく
ことになった。
二人でレトルトのカレーを頬張りながら、北河の要望で普段はゲーム以外にあまり
使われないテレビのチャンネルをバラエティー番組に合わせた。
ブラウン管の中では、最近になってタレントに転向した元プロボクサーが、
お決まりの「ちょッちゅね」を繰り返している。三年前、彼が地方の銀行に強盗未遂を
起こしたことは、いつのまにか笑い話に昇華されていた。
「ヤマちゃんも立派になっちゃったよねー」
テレビ画面を見つめてしみじみと北河が言う。落ちぶれた元ボクサーが今の人気を
取り戻すのに、僕ら二人は遠まわしながら一役買っていた。試合後のインタビューで
トンでも失言をしてしまったボクサーの過ちを取り消させるために、北河の魔法で
三秒だけ過去に飛ばしてやったのだ。
「でもわざわざ過去に行っといて『ちょッちゅね』は無ぇよな」
「まあ結果的にはよかったんだし、いいんじゃね?」
「まーなー」
このボクサー崩れのおかげで、僕は三年前に大金持ちになるという夢を棒に振ったの
だけれど、まあそれはもう過ぎた話で、今はどうでもいい話だ。
「おかわりある?」
綺麗に空けたカレー皿を掲げ、魔女はのんきに言った。
まっすぐにこちらを見つめてくる目から、僕はふいと視線を逸らした。
正直、僕はこいつが気に食わなかった。いや、それは正しい表現じゃない。
物心つくころからの知り合いといえば聞こえはいい。けれど、実際にこの男と共有
した時間は、三年に一度の幾日かだけ。トータルしてしまえば一月にも満たないのだ。
その北河がさも当たり前のようにここにいることが、北河がこうしてここにいることに
何の違和感も覚えないことが、僕には気に食わなかった。
すぐにいなくなることは分かっているのだけど、それを考えることは余計に僕の
胸をざわつかせた。それがまた気に食わない。
――北河という男の波長は、不思議なくらい心地よかった。
知らない間に心の隙間にするりと入り込んでは、いつのまにか無くてはならない
存在に変わってしまう、そんな風な。
そうなることに、僕は少し怯えていたのだ。僕は人と関わることにあまり積極的な
人間ではなかったから。
北河という男の居場所を心の中につくってしまうことが、僕は怖かったのだ。
食後、冷蔵庫から発泡酒ではなく取って置きの生ビールを取り出してふるまう。少し
湿気たピーナツをつまみに、僕たちは昼間以上にくだらない話で盛り上がった。
「大体さ、何でお前『魔女』なんだっつの」
「その話はもう聞き飽きたっつの。魔男とかかっこ悪いじゃん」
「間男だしな」
「何か今いやな漢字当てたっしょ」
じろりと向けられた眼差しは、あえて無視した。
「いやさ、他にもいろいろ言い方あるだろ? 魔法使いとか魔道師とかさ」
「魔道師ってゲームじゃあるまいし。こーちゃん忘れちゃったの?」
「何が」
「最初に魔法使って見せたときさ、あんたが言ったんだよ。『魔女みたいだ』って」
「はぁ。つうか理由ってそれだけかよ」
「忘れてるとは思ってたけどさ、やっぱ忘れてたんだ」
「覚えてるわけねーじゃん。俺三歳だろ、三歳」
「俺も三歳だったけど覚えてるもん」
「当時の俺としてはどーでもいいことだったんじゃねぇ?」
「ひどっ」
ぎゃははと笑い合い、放っておかれたテレビ画面が味気ないニュース番組に変わった
頃、北河はぽつりと呟いた。少しろれつが回ってない彼は、酒のせいか少し饒舌になって
いた。
「ね、こーちゃんは俺に会えなくて寂しくないの?」
突然の言葉に、僕は当然のように面食らった。
「何だよ、お前は寂しいのかよ」
「うん、寂しい。俺は井和沢に会えなくて寂しいよ」
てっきりおちゃらけた答えが返ってくるものだと思ったけれど、その僕の予想は見事に
裏切られた。
彼の顔は、寸分の隙もないほどに真剣そのものだった。
「……何だよ」
おかしな話だ。三年に一度きりという約束事を決めたのは、北河の方のはずだった。
何より彼は魔女だ。連絡一つ取らないのに、僕の居場所を見つけ出しては訪れる。僕に
会おうというのなら、この男はそれを思い立った瞬間に実行できるはずだった。
直球な台詞に少し照れながら彼にその旨を伝えると、北河は目線を合わせず、小さく
首を振った。
「違うよ。だって俺があんたの願い事を聞いてやれるのは、三年に一度きりなんだから」
「そんなの理由になんねぇと思うんだけど」
「なるよ」
妙に確信めいた言葉だった。
「だってさ、俺、それ位しか井和沢にしてやれることないもんね」
彼としては、出来るだけあっけらかんと、事も無げに言ったつもりなんだろう。けれど
僕は、その声に滲んだ、北河の本音に気づいてしまった。
きっと、北河もまた僕と同じなのだ。
誰の心にでも簡単にもぐりこめる男だと、勝手に思っていた。そうではなかったのだ。僕と
同じ、彼もまた何てことはないただの臆病者だった。
「そんなこと、」
無い、と言おうとして、僕はその先を言えなかった。そんなこと無い。それは確かなこと
だったけれど、それを彼に伝えてしまうことは、北河との距離を無遠慮に縮めてしまうのと
同じことだった。
「あるよ。分かってる。本当はそれだって嘘ってことも。だけど、三年に一度でも、たった
三秒でも、伊和沢の願いを叶えてやりたい。俺にはそれしか無いから、そうでも言わなきゃ、
伊和沢に会いに来る理由がなくなっちゃうから」
半ばやけ気味の北河の声は、少し痛々しい。自分でも何を言っているのかよく分かっては
いないのだろう、眉間にしわ寄せたままで取りとめも無く彼は喋り続けた。
僕の耳に残ったのは、最後の一言だけだった。
「俺は伊和沢のことが好きだ。……あんたのことが、好きだから」
ああ。やはり彼も同じだったのだ、僕と。
明日は三年前に考えていたとおり銀行に行って、三秒だけ現れる大金を
口座に振り込んで大儲けの予定だ。
そしてまた、三年後まで北河とはおさらば。彼はたった三秒だけの魔法を
使うと、いつも「これでもう用は済んだ」とばかりに姿を消してしまう。
そしてまた三年後にふらりと現れて、同じように僕の願いを叶えては去って行く。
三年に一度という決まりごと。
――だけど、本当にそれは確かなことなんだろうか?
気まずい沈黙の中で、僕はわざとらしさのぬぐえない声を上げた。
「……な、俺やっぱ願い事変えるわ」
「何?」
「一度しか言わないから、よく聞けよ」
「うん」
それは一種の賭けだった。
「三年に一度でも、たった三秒間でもなく、」
一番大事な言葉が喉につかえて、息を詰まらせる。
「じじいになって、老いぼれて死ぬまで、ずっと、一緒にいろ。他に何もいらないから」
砂っぽい、ひどくみっともない声だった。北河の顔をそっと覗き込む。彼は目を丸く
して、じっとこっちを見つめていた。
言い終えてしまった後になって、恥ずかしさが急にこみ上げた。耳が熱くなるのがやけに
はっきりと分かる。
「……1」
僕を現実に引き戻したのは、突然に響いた魔女の呪文だった。
「何かキモイな俺。今のナシにして」
「2」
当然、僕は慌ててそれを取り消しにかかった。彼は構うことなく最後の数字を口にする。
「ちょ、今のナシだって」
「3」
カウントが済んだその瞬間、北河は部屋の中からいなくなっていた。
魔女にだって叶えられない願いはあるのだろう。
何となくこれでよかったのだと思ったら、何故か涙が出た。
三年後、彼に合わせる顔があるだろうか。少し不安だ。
眠れない夜をぼんやり過ごした朝は、日の光がやけに目にしみた。
突然、騒々しく階段を駆け上る音が耳に入ってくる。
そしてそれが自分の部屋の前で静まったとき、僕ははっと顔を上げた。
――――チャイムが三回、ゆっくりと響き渡る。
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| | □ STOP. | |
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| | | | ピッ (・∀・;)
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