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旅路に歌と橘を

昇天、六代目三優亭円樂×桂唄丸

74の続き、退院後のお話となっています
ぬるめのエロシーンありますが、本番はしていません

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

とある温泉地、とある旅館の一室にて。
「全くもう、今回ばかりはひやひやしましたよ」
いつもの毒はなりを潜め、安堵にゆるんだ表情で円樂は呟く。
桂唄丸何度目かの入院、今回は少し長かったものの、無事に高座と昇天に復帰することが出来た。
「いや、樂さんには心配かけたね。沢山見舞いに来てくれてありがとうよ」
歴代名人のカセットテープを見舞いに持って来たりと、円樂は足しげく唄丸の病室に足を運んでいた。
その見舞いのうちの一回、円樂は衝動的に自分の気持ちを吐露してしまう。
信頼のおける噺家仲間以上の、恋慕の情を抱いているということを。
そして、唄丸も同じ感情を抱いていることがわかった。
円樂は、墓場まで持っていくつもりであった思いを伝えられただけで、もう十分すぎるくらいだったのだが。
互いの残り時間が見えて来たからこそ、唄丸も素直になれたと言えるだろう。

「あたしからの、ささやかなお礼だ。ひとつゆっくりしていって頂戴」
そう笑いながら唄丸は円樂の盃に酒をなみなみと注ぐ。
おっとと、などと言いながら、円樂は実にうまそうにそれを飲んだ。
唄丸が知り合いから教えてもらったというこの旅館は、建物、温泉、料理、酒、もてなし、どれをとっても素晴らしかった。
素晴らしい景色を眺望できる露天風呂につかり、粋な柄の浴衣に袖を通したふたりは、料理に舌鼓を打ち、旨酒を酌み交わしながら、話に花を咲かせた。
一時期は食事を摂れなくなり体を壊した唄丸だが、療養のかいあって今ではうまそうに刺身なんか食べている。
円樂はそれをにこにこと嬉しそうに眺め、酒を飲む。
ああ、これ以上の肴があるかい。

「いやあ、本当に美味しかった!ご馳走様でした」
「そいつぁ何よりだ。あたしはもう一風呂浴びてくるけど、樂さんはやめときなね。アンタちょっと飲み過ぎだよ」
旅館の仲居さんが布団を敷いてくれる傍らで、そんな会話をする。
「そうですね、あんまり美味しいからって少し飲み過ぎました。先に寝ちまってたらごめんなさい」
「構わないからゆっくりお休みなさい。明日は少し早い電車に乗るからね。じゃあ行ってくるよ」
布団を敷き終えた仲居さんと共に、風呂道具を持って唄丸も部屋を出ていった。
敷かれた二組の布団の内の一組にたまらずもぐりこむ。
思いが同じだったからって別段どうこうなる訳じゃないんだ、一緒に居られるだけで幸せだ…そんなことを考えている内に、円樂は心地良い眠りに落ちていった。
もっとも、その眠りはすぐに破られるのだが。

「し、師匠?!」
「何だい」
「何だいじゃないですよ。あちらに布団があるじゃあないですか」
眠気が一瞬で吹っ飛んだ。風呂から戻った唄丸が円樂の布団にもぐり込んできたのだ。
「人肌恋しい季節になってきたね」
「まだ八月ですよ」
「全く五月蠅いねえ。あたしゃ年中冷え性なんだ、あっためとくれ」
予想外の展開に頭の処理が追いつかない。くらくらするのは酒のせいだけではないだろう。
どうにも私の心臓は、このお方に振り回されてばかりだ。
「…師匠、こんな風にされると、私はどうにも勘違いしてしまいます」
「勘違いじゃないよ。あたしも樂さんのことを慕っているんだ」
夢でも見ているんじゃないのか、円樂は己の理性が崩れる音を聞いた気がした。
「冥土の土産に、こういうのも悪かないだろ」
唄丸は楽しそうにくつくつと笑いながら言う。

思いを通わせたその後のことは考えないように、考えないようにしてきたというのに。
もうどうなっても知らないぞ、ジジイ。
焚き付けて、煽ったアンタが悪いんだ。

「唄丸師匠」
円樂は唄丸の細い体躯を自分の方に引き寄せる。
「三途の川で、舟が沈んで溺れちまうくらいの土産を持たせてあげますよ」
耳元でそう囁くと、円樂は唄丸を抱き締めた。
硝子細工を触るように、壊れないように、そっと。かつ、強く。
かつて、これほどまでに心を砕いた抱擁をしたことがあったか。
今まで抱いたどんな女にも、したことがない。

「師匠、アンタやっぱり痩せ過ぎです。もっと体重増やしてください」
「そういう樂さんは大分丸くなったねえ。色んなところが」
腹の贅肉をつままれる。分けてあげたいと心底思う。
「酒をしこたま飲んでたせいかね、あったかいよ」
「もっとあたためて差し上げますよ」
そう言うと、円樂は唄丸の唇を塞いだ。
舌を滑り込ませると、驚いたように体が跳ねた。―――やりすぎたか?
「師匠、嫌だったらきちんと拒んでください。…このままでは、私はどこまで行ってしまうか、わからない」
「大口叩いといて今更何言ってるんだい。こうなりゃ好きなだけ付き合いますよ。もっとも、老いぼれだからね。どこまで相手できるかわからないけれど」
「…本当に、いいんですね?」
「くどい!男に二言はありません」
そう言うと、今度は唄丸の方から口づけてきた。
―――ああ、このお方の覚悟を疑うなんてのは野暮な与太郎のすることだね。
合せられた唇を割って舌をすくい上げ、絡め取った。唾液の水音が小さく響く。
この人を、どろどろになるまで甘やかして、気持ちよくさせたい。
円樂は、唄丸の浴衣の帯に手を掛ける。

「唄丸、覚悟!」
いつものように茶化しながら、浴衣の帯を解く。そうでもしないと、とてもじゃないが心臓が持たない。
「こんな骨と皮、今更見たって楽しかないだろ」
されるがままに浴衣を脱がされながら、半ば呆れたように唄丸は零す。
円樂は掛け布団を脇にやり、唄丸を組み敷く体勢になった。
細い体躯が、薄くつけられた室内灯のもとに照らされる。
「楽しいですよ、とっても」
耳元に口を近づけながら低く囁く。息がくすぐったかったのか、唄丸の体が小さく跳ねる。
耳に、広い額に、頬に、口に、首に、何度も唇を落としていく。その度に一々反応する唄丸が愛しくて仕方が無い。
温泉に入る時に見た時は思わなかった、思わないようにしていた劣情が首をもたげる。
「…ちょっと、あたしだけ真っ裸で馬鹿みたいじゃないか。樂さんも御脱ぎよ」
「黒いお腹がそんなに見たいだなんて、ンもう唄丸さんったら物好きねぇ」
シナを作って冗談を言いながら浴衣を脱いでいると、渋い顔をしてアンタにだけは言われたくないよと零された。
二人とも生まれたままの姿になり、視線を合わせる。この状況が何とも滑稽で、どちらともなく笑い出した。
円樂は再び唇を重ねると、舌と舌を絡めていく。
唇を離し、首筋、鎖骨、腕、薄い胸板、腹にも口づけの雨を降らせた。
重ねた肌からお互いの体温が混ざり、どんどんと火照っていくような錯覚を抱く。

「っ、はあ、女の気持ちがわかるようだね。こりゃあ噺に役立ちそうな土産だ」
ああ、このお方の頭の中はいつだって落語のことでいっぱいだ。
そういうところも敬愛してやまないのだが、今夜は。今夜だけは。
「落語のことも、他のことも、何も考えないでください。私のことだけ見ていてくれませんか」
円樂は、唄丸の目を見つめながら懇願する。我ながら女女しい頼みだと内心苦笑した。
「何だい、樂さん。落語に妬いてるのかい?」
目を細めながら、唄丸は実に楽しそうに笑った。そうだ、妬いているのだ。老人を夢中にさせる落語に。
「そうです。どうにも悋気が強くってね。今、この瞬間だけでいい。―――岩男さん、アンタのすべてを私にください」
「殺し文句だね。…あい、わかった。アンタのことだけ見ていますよ。泰道さん」
まっすぐ目を見られながらそんなことを言われたら、もう止まらなかった。

円樂は唄丸に口づけ、口の中を蹂躙していく。唄丸の耳に届くように、わざと大きな音を立てながら。
絡めた指と指が時折思いがけず強く握られ、唄丸の良いポイントが段々とわかってくると、そこばかりを執拗に攻め立てた。
長い口づけの後口を離すと、最早どちらのものともわからない唾液がつ、と一筋垂れた。
「樂さん、若いね。先代の意思を継いだかのように馬並みだね」
そんな円樂を恨めしそうに見ながら、唄丸は円樂の昂ぶりにその細い指を添える。
今度は円樂が体を跳ねさせる番だった。ゆっくりと撫でられ、刺激に思わず声が上がりそうになる。
「師匠こそ、よくおっ起ちましたね。生涯現役は落語だけじゃなかったとは、いや流石です」
この齢できちんと勃起していることに少し驚いたが、自分の愛撫に感じてくれているのだと思うと胸がいっぱいになった。
腹から、太腿、ふくらはぎに何度も唇を落とし、屹立に手を添えると手でゆっくりと愛撫し始めた。

「はあ、人の陰茎ってこんな風になっているんですねえ」
まじまじと唄丸のそれを見つめながら、感動したように円樂は言う。
唄丸は時折びくびくと体を震わせながら、そんな野暮なことはいうもんじゃないと上ずった声で窘めた。
「気持ちいいですか、師匠」
「見りゃ、わかんだろ」
「いや、わかりませんね。顔を隠されちゃあ」
顔を覆っていた腕を優しくどけてやるとその表情はもうすっかり蕩けていて、円樂はまたぞくりと身を震わせる。
「もっと気持ちよくなってください」
そう言うと、円樂はそっと鈴口に音を立てて口づけ、そのままゆっくりと咥え込んでいった。
唄丸は大きく体を震わせ、甘い声を上げた。唾液をたっぷりと塗るように、顔を上下に動かしてやる。
「っ、いけません樂さん。こんなことしちゃあ」
「男に二言はない、ですよね?気持ちよくなかったらやめますけれど、お顔を見る限りそんなことは無さそうですね」
円樂はにっこりと笑うと、また口淫を再開する。口づけの時とはまた違う、いやらしい水音が響く。
時折口を離し、唾液で濡れたそれを手で愛撫してやる。眼を閉じ、快楽に身を委ねている姿がどうしようもなく愛おしい。
本当に悪い奴だ、腹黒、などと喚く声が聞こえた気がするが、全て笑いながら受け流す。
甘い声でそんなことを言われても、私を煽るだけですよ、師匠。

唄丸が目を開けると、満足げな笑みを浮かべ、実に楽しそうに手淫している円樂の姿が目に飛び込んできた。この野郎。
「止めとくれ」
ぴしゃりと唄丸に言われると、円樂は素直に手を止めた。
「すみません、痛かったでしょうか」
それとも、調子に乗り過ぎただろうか。さっと、表情が翳る。
「立ちなさい」
「は」
思わず、間の抜けた声が出る。もどかしそうに唄丸は続ける。
「わからない人だね。やられっぱなしは性に合わないんだよ」
皆まで言わせんじゃないよ、この与太郎。早くしなさいと毒づかれ、円樂は大人しく立ち上がった。
めまいがしたのは、酒のせいでも、急に立ち上がったせいでもないだろう。

円樂のそれを前にし、きちんと正座をしてことに及ぼうとするのが少しおかしかった。
恐る恐る、といった風に口を近づけると、ゆっくりとその中に収めていく。
「師匠っ…、気持ちいい、です」
勝ち誇ったような表情で、唄丸は円樂を上目づかいに見る。やっぱりわかって煽っていやがるな、このジジイ。
始めはぎこちなかったものの、やがてコツをつかんだのかストロークが深くなる。
円樂が唄丸の頭を撫でると、鼻にかかったような甘い声が漏れ、円樂は思わずぶるりと震えた。
快感、興奮、罪悪感、背徳感、すべての感情がない交ぜになった身震いだった。
まずい、このままだと感極まって果ててしまいそうだ。
円樂は唄丸を自分の屹立より離し、折角だから、といって座って向かい合った。
唾液まみれになった互いの陰茎を近づけると、手でまとめて上下にこすり合わせる。
「ふっ、ん、中々悪くない、じゃないか……はあ、あ」
唄丸は、もう嬌声を隠すことも忘れているようだった。
いつも大勢の人間に向けられて発されるあの色ある声音を、今自分は独り占めしているのだ。
それが男をたまらなく興奮させた。
「そいつぁ、何よりです。ふっ、私も気持ちいい、ですよっ…」
絶頂が近い事を知りつつ、この時が終わるのが惜しく、押し寄せる快感の波に円樂は必至で耐えた。

「―――あたしはもう、達してしまいそうだよ。最後に、どうか口づけをしてくれないか。泰道さん」
「私も、っそろそろ………最後だなんて、やめてください。いつでもして差し上げますよ」
円樂は唄丸を愛おしそうに見つめながらそう言うと、もう何度目とも覚えていない口づけをした。
優しく、激しく舌を絡めながらも、手の動きは休めない。もうどこから水の音がしているのかわからなくなっていた。
飛びきり甘い嬌声が上がったかと思うと、唄丸は絶頂を迎えた。
その声を聞いてしまったら、もう駄目だった。
「―――ッ」
間もなく円樂も絶頂に達した。
お互いの吐き出した精が混ざり合って零れ、ひどく熱く感じた。

熱い息を吐きながら余韻に浸った後、風邪を引くといけねえと言いながら浴衣を着直して同じ布団にもぐり込む。
円樂の腕の中に抱かれた唄丸は、間もなく規則正しい寝息を立て始めた。
本当に、今にも壊れてしまいそうな心もとなさだ。
だが、確実に今私の腕の中で心の臓を動かし、息をし、体温を共有している。
本当に、これ以上の幸せがあるものだろうか。
円樂は満ち足りた気持ちで眠りに落ちていった。
もっとも、その眠りはしばらくして破られるのだが。

「樂さん、起きなよ。風呂に行くよ」
「へえ、師匠。おはようございます……なんです、まだ五時じゃないですか」
寝ぼけまなこをこすりながら、抗議する。
「老人の朝は早いんだよ。第一、汗かいちまったのはアンタのせいなんだからね。背中のひとつくらい流しなさいよ」
そう言われ、昨晩の出来事が鮮明に蘇って来た。眠気が一瞬で醒める。
「はいはい。おじいちゃん、お風呂に行きましょうねえ」
照れ隠しに、いつもの大喜利でのように冗談を言いながら布団から抜け出、湯を浴びに行くのであった。

これまた絶品の朝食を摂り、東京へ向かう電車へ乗り込んだ。
ボックス席が丁度空いていたので、向かい合って他愛もない話をしながら心地よい振動に揺られる。
ふいに会話が途切れ、円樂と唄丸は窓の外の景色を眺める。
ぽつんと、唄丸が呟いた。
「三途の川で溺れるには、まだまだ土産が足りないね」
そう言うと、唄丸は円樂を見据えながらくつくつと笑うのだった。
ああ、こりゃあこのお方はまだまだ元気そうだ。

楽しそうに笑う男の隣にある車窓の景色が、後ろへ後ろへ飛びすぎる。
風と共に流れてゆく萌える山々は見慣れたいつもの着物の色と重なり、身震いする程美しかった。

■後日潭■

「この歳になって益々色気が出て来たというのも、何というか少し複雑だね」
女の演技に益々色気が出たと最近評判の唄丸であるが、素直に喜ぶことが出来ないようだ。
「見ているとぞくぞくしますよ、師匠」
『土産』を持たせる度、噺に益々艶が出てきているのを最も間近で見ている男が悪びれもせずにそう言う。
「ふん、相変わらず若いね。血圧上がりすぎてあたしより早く逝っちまうんじゃない」
「いやいや、芸に益々磨きがかかるのは素晴らしいことですよ、師匠」
「…そうかい」
「ゲイだけにね」
まんざらでも無さそうな色を浮かべていた唄丸だが、小声で囁かれた碌でもない洒落に見慣れた渋い表情になる。
「…座布団剥がしに山田くんを呼んで来ようか」
「そいつぁ歓ゲイし難いですねえ」
「いやだよ、くだらない」
二人は顔を見合わせ、秘密を共有する子供たちのように笑った。

自分はこのお方を見送らねばならないだろう。
その瞬間は想像もしたくないが、確実にやってくる。
三途の川で溺れる位沢山土産を持たせるから、どうか向こうで笑って待っていて欲しいと円樂は思う。
それまでに、絶対にアンタを超えてみせる。
アンタが思わず惚れ直しちまうような名人になってみせるから、首を洗って待ってろよ、ジジイ。

リアリストであると自負している男であるが、この時ばかりは名前も知らぬ、姿も知らぬ神に祈るのだった。
願わくば、少しでもこの幸福な時間が続いて欲しいと。
強いていうなら、落語の神か。

(了)

円樂さんがどうにもヘタレになってしまいましたが、師匠のお身体を心配しているからこそ、ということでひとつ…
ふたりのいつものやりとりを見られる日を、首を長くして待っています
スレ占拠、途中でのナンバリングミス、大変失礼いたしました

  • まさかこのお二方に萌える日が来ようとは・・・。新しい世界への扉を開けてくださってありがとうございます♡ -- 2015-07-04 (土) 00:23:14
  • 読み応えある紫緑をありがとうございます。最高です! -- 2016-07-12 (火) 13:53:11
  • ありがとうございます。寿命が伸びました。なるべく長くお二人が一緒にいるお姿を見ていたいものです… -- 2017-02-09 (木) 20:43:19

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