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泣きたい時は君と

てぃーぶいけーで再放送中の、懐ドラ『俺/た/ち/の/朝』より
押ッ忍×抜け作 エロはないけど最終回のネタバレあり

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「母さんが死んだんだ」
真夜中、チャイムも鳴らさずにやってきた男はそう言った。
「俺の帰る家が、なくなっちまったよ」
きっと、病院から走ってきたのだろう。汗を垂らす逞しい肉体から
消毒薬の匂いが立ち昇るのが、抜けにはひどくミスマッチに思えた。
「ドテラを着てくるから、待っとれ」そう言った自分の声が、どこか遠くで響く。
「抜けさぁん、出かけるの?」
「お前は寝てろ」
寝ぼけ眼の繋ぎを布団に押し戻し、パジャマの上にドテラだけ羽織る。
二人は、母屋の大家を起こさないようにそっと出た。

「馬鹿だなお前は」
由比ヶ浜に出て、初めに飛び出したのはそんな言葉だ。
押ッ忍は呆けたような顔で、隣の抜けを見ている。ミサコさんのように
微笑んで「大丈夫よ」なんて背中を撫でたりできない、
自分の可愛げのなさを後悔した。だが、時すでに遅く。押ッ忍はしっかり
聞きとって「どういう意味だよ」と返事をしていた。

「妹さんはどうした。なんでそばにいてやらないんだ」
抜けはポケットに手を突っこんで、深く息を吸い込む。
夜の海は暗く、一寸先も見えない。まるで今の押ッ忍と同じだなと、抜けは思った。
「だって、京子は……俺がいなくたって……」
「そりゃ、しっかり者って事にしとかなきゃあ、
 お前が逃げる言い訳がたたんものな。
 ……それでも男か!!」
てっきり怒鳴るかと思ったが、押っ忍は大きな体を丸めて、砂浜に体育座りするだけだった。

「なんだ、カーコさんにゃ強く出られても、わしにゃ無理か」
押っ忍は黙って、寄せては返す波を見つめていた。
暗いというよりは、黒い海辺。遠くに漁船の明かりがぼんやりと浮かび上がるのを、
二人、眺める。
「なあ、抜け……お前、いい奴だなぁ」
押ッ忍がだしぬけにそんな事を言ったものだから、抜けはたじろぐ。
「俺を本当に叱ってくれるのなんか、お前だけだよ」
「なんだ、気持ち悪い奴め」
「カーコはうるさいだけで、本当の事なんか言ってくれねえからなぁ。チュウだって、俺に
 気を遣ってる。……二人とも、優しいんだ」
そう呟く押ッ忍の横顔が、あまりに寂しそうで。
抜けはふと思った。

――こいつは、周りが思っているよりずっと、弱い人間なのかもしれない。

社会はとても息苦しい。大学を卒業して、会社に入って、週に六日働いて、
結婚して子供を作って、あとは酒とパチンコで憂さ晴らし。
上手くやるのが上手な抜けでさえ、たまに逃げ出したくなる時はあるのだ。

「親孝行……できなかったな」
押ッ忍は下を向いて、目元を袖でぬぐった。
「何がメロンだ、何が入院費だ、そんなことより、元気なうちにもっと顔を見せりゃよかった。
 店を手伝えばよかった、一緒に暮らせばよかった、
 ……っ、父さんから、守ってやりたかった……!!」
声を殺して泣く幼なじみのそばに、抜けはそっと腰を下ろす。
肩を抱きよせてやると、押ッ忍はとうとう、わんわんと声を上げて泣きだした。

彼は誰よりも『まともな大人』になりたくて、ことさらに男ぶって見せる。
偉そうな物言い、堂々とした態度。だが押ッ忍は、本当はまだ子供でいたかったのかもしれない。
ならせめて、自分はそれを責めないでいてやろう。
抜けは密かにそう決めた。

「なあ、押ッ忍よ。お前、泣けるんだな」
鼻水をすすりながら、海を見ている押ッ忍に、抜けは出来る限り優しい声をかける。
「わしゃ、お前が泣いたり、怒ったりしとるのを見るのが好きだ。
 まあ、つまり……あれだ、素のお前を見るのが楽しいっちゅうことだ。
 だから、泣きたいんだったらわしの所に来い。こんな面白いモン、チュウやカーコさんに
 見せるなんざ、もったいない」
押ッ忍は「なにを言うんだ」と言いつつ、涙目で笑った。

次に押ッ忍の涙を見たのは、彼がヨットで大海原に出て行く時のことだった。
久しぶりに押しかけてきた男は、大家が丹精込めて作った鍋をぺろりと平らげ、
思い出話に花を咲かせたあと、抜けを夜の散歩に誘ったのだ。
「ミサコさんのとこ?俺も行こっかな~」
鼻歌まじりでついてこようとするツナギを大家に押しつけると、
抜けは下駄を突っかけて出た。
「おう、待ったか」
「いや。……お前まだ腹は入るか」
「誰かさんが鍋を平らげたおかげでな」
「いい屋台を知ってるんだ、行かないか」
そう言って押ッ忍が歩いて行ったのは、江ノ電の踏切だった。
親切そうなおやじが、ラーメンを作っている。押ッ忍は「これも食え」と
自分の味玉を抜けのどんぶりに入れた。
「俺、もう日本を出ようと思うんだ」
「そうか」
正直に言って、抜けにはどうでもいいことだったので。
(遭難でもして人様に迷惑をかけなければ)
おざなりな返事をしてラーメンをすする。隣で同じくラーメンを食べている押ッ忍は
箸の持ち方も美しい。粗野を気取っていても、やはり鎌倉の坊ちゃんだ。
抜けは押ッ忍の隠れた上品さを、本当は好いていた。

「カーコがな」
「うん」
「カーコがな、俺のこと……本当は好きだったって、言ってくれたんだよ」
「そりゃ本当か。まあ、わしゃそうだろうと思っとったがな」
「でもな、俺の方はどうだか、自信がなかったんだと」
カーコが、押ッ忍とチュウの両方を好いているのは誰の目にも明らかだった。
繋ぎと二人、どちらが恋の競争に勝つか賭けていたのだが、金沢のお嬢さんが選んだのは、誠実なチュウの方だったのだ。
「……馬鹿だよな、俺は……お前が言ったとおり、本当に馬鹿だったよ」
「……」
「もっと素直に、なりゃあよかった……
 好きってのだけじゃ、駄目だったんだよ。やっぱり、俺は人を愛するとか、そんなことはできないんだ」
押ッ忍らしからぬ弱気な発言に、抜けはなにか言ってやろうと思ったが。
どんぶりに、ぽたぽたと涙を落としながら食べる姿に、口をつぐむしかなかった。
その代わりに、広い背中を撫でてやる。
「俺、あれほど好きになれる女を知らないよ。……俺には、カーコだけなんだ」
「そうか」
「でもな……でもな、チュウならいいって思えるんだ。チュウならきっと、カーコを幸せにしてくれる。
 カーコの幸せのために生きられる。あいつがカーコを幸せにしてくれるんなら、俺も幸せなんだ」

愛に破れた男は、それからすぐに海へ出て行った。まるで逃げるように。

やがて、外国の消印が押された絵ハガキが、抜けのもとに届いた。
そこには日本へ帰る予定の日付と、短いメッセージがあった。

『また、お前のそばで泣かせてもらってもいいだろうか』

「いいに決まっとるだろ、バカタレが」

抜けは絵ハガキを机の引き出しにそっとしまいこむ。
きっと、これからも押ッ忍は自分のところへ逃げてくるだろう。
海の上での孤独に耐えきれなくなったら。親友と、生涯でただ一人愛する女の
幸福を見るのが辛くなったら。そして、自分はそれを黙って受け入れるのだろう。
チュウとカーコが子供をもうけて、幸せな『家庭』を持つのを、横目で眺めながら。

それでもいいと、抜けは思っている。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

このドラマ、カプ萌えの宝庫すぎる。
お目汚しでした!

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