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オリジナル 死にネタ 一人称
ノマあり 子供あり

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

目の前で元恋人が救命処置を施されているのを、俺はただ見ているしかなかった。
右手には怯えたようにすがりつく娘。
慌ただしく行き交う看護士たち、何度も薄い彼の胸に電気ショックの器具を押し当てる医師。
ピーーーーーーー。
長い電子音が彼の命の終わりを告げる。

「2018年1月8日午前2時23分、ご臨終です」

衣服を整えられベッドに静かに横たえられた彼の脇で泣きつかれて眠ってしまった娘を抱き抱えながら考える。
なぜこんなことになってしまったのだろうと。
なぜ彼は死んでいるのだろうと。
今日彼に会いに来たのは結婚の報告の為だった。
彼が背中を押してくれたから、自分は子持ちで彼女と結婚する気になったのだ。
だから報告するべきだろうと。
彼になついていた娘も3か月ぶりに彼に会えることを楽しみにしていた。
4ヵ月前に突然俺と娘の暮らす田舎にやって来た元恋人。
たった1ヶ月ですっかり娘を手懐け、彼を忘れられず今の恋人との結婚に踏み切れずにいた俺の未練を断ち切り去っていった。

『あなたが生きる未来が明るいものであるように』

去り際の彼の声が木霊する。
ふ、と目をあげるとサイドボードにハードカバーの冊子が置いてあった。
表紙の文字にはdiaryとある。
娘をそっと壁際のソファーへ横たえるとふらふらとその冊子を手に取りページを捲った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2017年9月1日
医者から余命宣告。ドラマみたいでなんか笑える。体の痛みはフィクションじゃないし笑えないくらい痛いけど。
死ぬ、と言われて真っ先に浮かぶのがあの人の顔ってつくづく俺も未練がましいな。
もう2年も経ってしまった。
「昔の女との間に子供が出来ていたらしい、女が男と逃げて子供が育児放棄されていて見過ごせない。
引き取るつもりだが、君が受け入れられないなら別れてもいい。だが出来れば別れたくない。君を愛している」
これ突然言われて黙っちゃった俺の反応正常だよな?
別れたくないでも気持ちの整理がつかない、自分が納得できたら会いに行くって言ってそのまま2年。
本当は1週間で腹くくってあいつの子供一緒に育ててやる!って決心した。
けど突然の海外赴任の辞令で音信不通になっちゃってどこかホッとしたのは事実だった。
これって別れたことになるのかな?
なるよな。2年経ってるし。
でも逆に良かったかも。死ぬ人間が子育てとかしてたら残される子供が可哀想。
ああでも、どうせ死ぬなら、ちょっとだけでもあったかもしれない家族の形ってやつ体験しても許されるよね。

2017年9月2日
あの人の現住所はすぐわかった。
持つべきものは共通の友達。
医者に痛み止めいっぱい貰ったから上手く誤魔化せるだろ。
多少強引にでも押し掛け女房する。絶対。死ぬんだしいいだろ。
しかし住んでるとこ田舎過ぎてヤバイ。

2017年9月8日
なんで
(以下何か書いてあったようだがペンで塗り潰されて読めない)

2017年9月9日
仕切り直し。昨日日記は恥ずかしいから消しとく。消えるインクで書けば良かった。
当初の予定通り押し掛ける。ただし路線変更。
押し掛け友人だ。

2017年9月10日
潜入成功。久しぶりだったけど相変わらずお人好しというか優しいというか。
だから俺みたいなのに躓くんだよ。
あの人の娘はいい子だった。いい子過ぎて痛々しいくらいに。
まだ5つだもんな。早く彼女をお母さんにしてあげれば良いのに。

2018年1月1日
意外と生きられるものだ。年を越せると思わなかった。
あの人も娘と彼女と一緒に年越し蕎麦食べたかな?
娘ちゃんは蕎麦をふーふーしてやらないとだめな猫舌だけど、あの人や彼女は気づいてるかな?
娘ちゃんあの人に似ていい格好しいだから誤魔化そうとしてるんだよね。
でも一番のいい格好しいは俺か。
昨日も後輩に嘘をついてしまった。あの人とよりを戻して介護お見舞いを付きっきりでやってもらってる、なんて。
忙しい癖にこっちの心配ばっかしてる後輩を気遣って、なんていうのはただの言い訳だ。
俺の見舞いなんて、誰も来ない。
でも別にいい。来て欲しいのはあの人だけだから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこで日記は止まっている。
間の記述は田舎暮らしの取り止めない日常と日々の献立が書かれていた。
どれも知っている。
4ヶ月前からの1ヶ月間、彼と俺と娘とで過ごした日々だからだ。
彼と暮らす中で俺は今の恋人と付き合いながらも感じていた違和感が彼への未練だとハッキリと自覚した。
そしてこのまま彼とまた恋人になり娘と彼の3人でずっと暮らしたいと思ったんだ。
それは彼にもそう言った。
だが彼は笑って言ったんだ。もうそんな気はないと。
俺の娘は可愛いが、今後ずっと育てるとなると話は別だと。
笑って、いい友達になろうと言ったんだ、彼が。

『あなた今の恋人、とてもいい人ですよ。彼女となら、あなたは未来を生きられる』

年越しもそうさ君の推察通り三人で過ごしたよ。
娘は熱々の蕎麦をちびちびと食べていたさ。
熱いって言えなかったんだな。冷めてから食べようとしたのかずいぶん残した蕎麦は伸びきってしまっていた。
蕎麦が嫌いなんだと思ってた。

なあ君の後輩に、なんで会社に来たんだと言われた俺の気持ちがわかるか?
君は入院している、それは知っているだろう、毎日お見舞いに行ってるんだろうなんで会社に来たんだと言われたんだ。
君はあの1ヶ月はただの休暇だと言っていたじゃないか。
休暇が終わればまた社畜生活に戻るんだと。
君の今の連絡先を知らない俺は会社に行くしかなかったんだぞ。

君に結婚報告をしようと会いに来なかったら、俺は、君が一人静かにこの病室で息を引き取ったことを知らず仕舞いだったのか。
どこかで君が元気にしていると妄想したまま家庭を持ったのか。
知らなければ良かったのか。
君の痛みも悲しみも知らず笑っていれば良かったのか。
あの1ヶ月が夢のように幸せだったと爺さんになっても思い出して。
君は酷い男だ。だが俺がそうさせた。

「たとえ死に別れるとわかっていても最後まで愛し合ってそばに居させて欲しかった……っ!」

もう返事は返らない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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