Top/69-488

勝利の行方

時事ネタ。某おっさんナマモノ。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

最終レースが終わって、検量室。今日はいつもより、蛍光灯の明かりが白い。
目の奥にちりちり焼き付いてしまって、やりきれない。
だけど、泣きそうだなんて認めるのも、それはそれでやりきれない。
「おー、へっこんでんなぁー、まーっさよし!」
「……ぐ」
後ろから頭をぐりぐりされて、またげらげら笑われて、その声と行為で、その人がだれかなんて容易にわかる。
だから逆にますます振り返りたくなくて、がっくり肩を落とすように前にのめりこんだ。
自分の、赤い勝負服のボディが目に入る。あー、と思う。
これじゃない。
これじゃなかった。
「目黒、メダリスト強かったなー。届かねーわあの脚出されたら」
「……。」
「しかも外目だもんなー、キッツイキッツイ」
「……やめてよ、マジで」
「何でー、だー?おいおい」
「あーもう、マジでちょっと、あんたねえ、ノリさん」
悔しいし情けないし、なのにこの人が頭から手を離さないし。動けやしない。
さっきは勝った。それで、バカにしてるわけではないのはわかるけれど、
でも本日の大一番で本気勝負の末に負けた相手に、どんな顔が出来るってんだ。
おめでとうと言いたいけど、そうじゃないんだよな。
またやられちまった、だけなんだ。

「そりゃそうだけどさあ……」
「や、でもな。うん。マジ最後は、あの子の脚に賭けただけよ」
「……って、俺だってそうだよー」
「たはは、俺ぁ道中おまえの背中目標にしてたけどな!ごくろーさんっ」
「やられた……」
だまって頭を垂れていると、ぐしゃぐしゃとその人が髪をめちゃくちゃにする。
声と、多分あの顔と同じくらい、笑っているような仕草だ。
あの後最後のレースで勝ってもさ。また今年もあれに勝てなかった、ってことが。
どんどん自分の中に溜まっていくんだ。
力は互角だったと思うから、余計に。
だからほんのちょっとだけ、少しだけなのに、やられてしまったことが悔しい。
最後少し遊んでしまっただとか、外によれただとか、でもそれより隣の気配がグングン伸びてきたこととか。
思い返したら、多分今夜は眠れない。
「……ま、そんでも、俺もな」
ぐりぐり、指で頭のてっぺんをつつかれている。
少し痛いくらいに。
それでも抵抗しないけど。
「おまえらがもうちょっとくるかも、伸びるかも、ってビビってた。最後、マジ覚えてない」
「……あー!悔しー!」
「だからさー、またアレか?アレか?って、思ってたりして」
「……ナニ」
「ナニて、アレだよアレ」
同着、って。目を閉じたら、三年前のその時のことを思い出した。
いやこの人とはそれ以外にもまた、何故かお互い全力、死力を尽くした結果、決着つかずのことがあったりして。
奇妙な縁だと思った。長年やってればあることだけど、でも、でも今回はやられちゃったよ。
いやもう、今回も。何度も、何度目だ、もう。

「俺ぁよ」
ぐり、と脳天あたりの痛みが、重みに変わる。
「……おまえとだったら、それもいーなーって」
「……。」
ぐりぐり、肘だ、これは。
小柄でも、全体重を掛けられて、後ろからのしかかられていたらさすがに重い。
「何度でもよ、やろーぜマサヨシ」
「……」
「来年もやろー。再来年も、あと」
「ちょっと、アンタどこまで現役なの」
「バカやろ、まだまだ俺が現役最強ダローが!わかったろ!」
かかかかか、と甲高い笑い声が、ほとんど耳の傍で聞こえる。
「おまえが勝つまで、だな」
「え」
「おまえに負けたら引退だ、わ」
だから来年もやるぞ、って。なんというかこの人らしいというか、本当に。
一瞬、大歓声の中、この人と真っ直ぐ突っこんでいくイメージが浮かんだ。
ああ、あんたとだったら、それもいい。
それも、いいな。
「あー。悔しい」
でも、やっぱり。

「来年だ来年、くそー」
「だろーな」
「勝ちたい」
「おう、勝て勝て」
肘も耳も痛い、痛いけど。痛いんだけど。悔しいし、情けないけど。
でも、来年また戦いたいなとは思った。
この人に勝って、その先に行きたい。
そのシーンを、思い描こうと思った。だから顔が上げられなかった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

だがいい勝負だった。


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP