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急局長刃R
田和馬×登坂
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

あの人の指は、いつも少し冷たかった。冬休みの合宿で、いつも誰の手が一番暖かいか比べあっていたが、その時に一番冷たいのは田和場さんだった。わたしと、子供のような体温の珊瑚は大抵一番暖かい。Rはロボットなので関係ない。
「タバコを吸うと、どうしてもな」
白くなった指先を握ったり開いたりしながら、くわえタバコで田和場さんは言う。
「じゃあ止したらいいじゃないですか」
「それは無理」
感覚がなくなるほど手先が冷たくなることより、タバコが吸えない方が辛い、と言って田和場さんは煙を吐いた。
「酒を飲めば少しは暖かくなるな」
不健康な人だ。

冬場は注意が必要だ。部室でくつろいでいる時など、油断していると首筋に手を突っ込まれる。さすがに驚いてひゃあなどと叫ぶと、首の手はそのままににやにやと笑われる。
「おー、ぬくいぬくい」
あちらはぬくいだろうが、こちらはたまらない。首筋を冷やされて全身に嫌な寒気が回る。しかも、手を離されてもなかなかその寒気は抜けないのだ。冷えた首筋を手で擦っていると、田和場さんは懐からコーヒーの缶を出して両手で握りながらちぇっ、もう冷えてやがると不満そうに言って、湯気すら出ないコーヒーを飲み干した。ストーブはつけてあるのだから、そちらで温まればいいのにと思う。
寒さは足の裏を通って芯まで静かにやってくる。床は最後まで温まらないのだ。観念してストーブにあたりだした田和場さんの横に腰を下ろした。田和場さんは不精して、ストーブを使ってタバコに火をつけようとしている。悪戦苦闘して、もはやライターを使った方がいくらか早いくらいだ。そのさなかにも片方の手はせんべいでも焼くかのように時折平と甲を返しながら火にあたっている。
「だいぶあったかくなった」
得意気に見せる手を握ってみると、それでも私の方が少し暖かい。火にあたったせいか、平生よりも乾いてカサカサしている気がした。ふっふっふと笑って見せて
「この勝負、わたしの勝ちですね」
「なんだとこの野郎」
田和場さんはまた、私の首もとに手を突っ込んできた。しかし、流石にさっきよりは暖かいためほとんどその攻撃は効かない。だーいじょうぶと言うと、タバコをいじっていてまだ温まっていない方の手を入れられて飛び上がる。ストーブの赤い火の前でふざけあい、顔だけは熱くなった。後輩や他の先輩の前で、首に手をいれる遊びは、したことがない。

ある時は突然口の中に指を突っ込まれた。それは、部室に寝袋をしいて寝ていた夜だった。舌に冷たく苦いものが当たる感覚で目が覚めた。寝ぼけていて何が起こっているかは良くわからない。その間、ただひたすらに舌を嬲られていた。指でいじられているんだとやっとわかっても、特に何かできるわけではない。
「あいふうんれす?(なにするんです?)」
と聞くのが精一杯だ。暗い部屋、なんの明かりもない中でほぼ無心に舌を弄られるのはなんだか不気味な気がした。何より、意図が見えない。
田和場さんは質問に答えず、ただいきなり喉の奥までぐっと指を入れてきた。
強制的に襲ってくる嘔吐感をぐっとこらえて咳き込むと、指はやっと舌から離されて、
「お前が口あけて寝てるからだ」
と理不尽なことを言われた。舌にはまだ苦味が残っていた。
それは、田和場さんの指に染み付いて離れないタバコの味だ。以来、田和場さんがタバコを吸うのを見る度に、何となく口の中が苦くなる。

体を触られる度、指の冷たさだけが肌に残る。しかしそれも最初だけで、次第にしっとりと感じるくらいに指先は温まっていた。もしかして興奮しているんです?と聞くと
「黙れ」
と言われて頭を叩かれた。否定しないのは図星だからに違いない。なんだかおかしくなって笑っていると、どうにも嫌なところを触られてひゃあと声が出る。不覚!渋い顔をしているとくっくっと笑う声がして、
「お前、同じ声出すのな」
と、今度は頭をくしゃくしゃと撫でられた。その時あの人がどんな顔をしていたのか、ちゃんと見ておけばよかった。

つくつくほうしが鳴いて夏が終わり、長袖をタンスから出すようになるとふと、あの人の指のことを思い出す。どんなささいな思い出より、肌で記憶するのはあの指の温度だ。わたしにとって秋冬はあの指の季節だ。
あの指に触れられなくなってからも、別段何か感傷に浸ったり、胸を痛めたりなどはしない。けれど、あの人のあの冷たい指は、少なくとも、嫌ではなかった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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