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I'm Still Here

∞高炉、艦長×黒服弟。青年編Chapter4付近
69-386、69-388、69-398の続き

※襲い受け系エロあり。苦手な方は回避願います

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 ユーリ艦隊の監察官としての任を終え、グンニッツの空間機甲艦隊司令部に戻った私を待っていたのは、不在の間にたまった書類仕事の山だった。
「まったく。いいかげん押しつけられるいわれのない仕事は断るとか人に振るとかいうことを覚えてくださいよ中佐。我々は実戦部隊であって事務方じゃないんですから」
 私の留守中、各方面からの問い合わせの波状攻撃に遭っていたらしい副官がデータをまとめながらぼやく。
「悪いな。『できません』は言うな、というのが先祖代々の家訓なんだ」
「中佐が言うと冗談に聞こえないんですが」
 つきあわされる我々の身にもなってください、と大げさにため息をついた副官に苦笑する。
「ありがとう、あとは自分でやるから。手伝わせてすまなかった」

 手元のモニターに目を落とすと、画面の端に表示されたニュースのヘッドラインは、相変わらず有事特別措置法の是非を巡った連邦議院と星間連合議院の対立を伝えている。
 現実的な危機がすぐそこまで迫っているというのに、彼らはいつまで呑気に主導権争いを続けているつもりなのか。

 ロンディバルト連邦国を中軸とした対ヤッハバッハ戦略を謳った有事特別措置法案の提出。その第一報を聞いたのは、レンミッターのα象限艦隊司令部——我々の小マゼラン威力偵察の結果報告を受けて行われた臨時会議の席上だった。
「まいったね、こう来たか」
 遠からず来るであろう侵攻に備えた戦力糾合の布石として、私の調査報告書を各国に公開したロエンローグ卿が、心底呆れたという口調で言った。
「……エルメッツァと同じだな」
 紛糾する議会の中継をしばらく眺めていたユーリ艦長は、そう呟くと作戦室を出て行った。
 あとには重苦しい沈黙と、無言の私たちが残された。
 ロエンローグ卿は空を睨んで考え込んでいる。
 ルフトヴァイス司令が頭痛を堪えるようにこめかみを揉んだ。
 ファラゴ少将は眉間に皺を寄せ、腕組みをして瞑目している。
 プラメール大佐は腹立たしそうにモニターを睨めつけたまま動かない。
 こんな状態でヤッハバッハに対抗できるつもりでいるのか。ユーリ艦長はおそらくそう続けたかったのだろう。
 そしてそれはその場にいた私たち全員の意見でもあった。

 かつて小マゼラン最大の勢力を誇ったエルメッツァ星間国家連合は、ヤッハバッハの力を甘く見積もり、単独でその侵攻に対抗しようとした。
 挙げ句、最初の会戦でその戦力のほとんどを失い、その後はまともな抵抗もできないまま、無条件降伏に近い形であの国に吸収されたという。
 だが首脳陣の無知に高い代価を払わされたとはいえ、エルメッツァはそれでもまだましなケースといえるのかもしれない。

 惑星ザクロウを目指し、ゼーペンスト宙域からカルバライヤ・ジャンクションにゲートアウトした時のことだ。
 空間通商管理局からダウンロードした航路図がモニターに表示された瞬間、ユーリ艦長をはじめ小マゼラン出身のクルーたちは一様に画面を見つめて息を呑んだ。
 彼らの動揺の理由がわからずにいた私たちに、艦長は無言で画面に十年前のチャートを重ねてみせる。
 その意味を理解した私たちも声を失った。
 一見何もない、ただの小惑星帯に見える宙域に、かつては人の住む惑星があったのだ。
 そしてその空白地帯は一箇所ではなく、星図上のあちこちに点在していた。
 これが、エルメッツァとネージリンスが膝を屈したあとも最後まで抵抗を続けたものの、結局はヤッハバッハに併呑されたカルバライヤ星団連合が辿った末路だった。

 各国がばらばらに事に当たっていては、十年前の小マゼラン諸国と同じ轍を踏むことになる。そのことはロンディバルト側も重々承知しているだろう。
 政治家たちにとっては、それでも目前に迫った危険より戦後の勢力図のほうが重要ということなのだろうか。
 この戦争に「戦後」があるとすれば、だが。
「手詰まりだな。ワイマーのおっさんが議会の方をなんとかしてくれない限り、現状俺たちが戦術レベルでやれることは何もない」
 ロエンローグ卿が両手を上げて言った。
 ルフトヴァイス中将が疲れた顔で頷き、その日の会議は解散となった。

 だが私の頭の中には、会議の最中にふと浮かんだ、確実な答えは決して得ることのできない問いが住み着いたままになっていた。
 ——もし兄が生きていたら、この状況をどう見て、どう対処していたのか。
 兄が死んだ年齢を追い越してなお、私は兄の背中に追いつけずにいる。

 ユーリ艦長がふらりと現れたのは、急ぎの仕事があらかた片付いて一息ついた頃だった。
「中佐と酒が飲みたくなってな」
「その割に、手ぶらですか?」
 ばつの悪そうな顔をした艦長に笑ってみせると、机の上を手早く片付け、自室へ案内する。
 ちょうど奮発してペイキュラーの十年物を買ったところだ。一人で飲むのもつまらない。

 勿体を付けて封を切ったペイキュラーをロックグラスに注ぐ。
 一嘗めして、ユーリ艦長は頬を緩めた。
「うまいな」
「そうですか。それはよかった」
 それきり、しばらく会話が途切れる。
 ふわりと立ち上る芳香を楽しみながら、私は切り出されるであろう話を待った。
 わずかに逡巡する様子を見せたあと、ユーリ艦長は意を決した表情で口を開いた。
「バーゼル・シュナイツァーという男を知っているか?」
「ああ、気付いておられたのですね。バーゼルは私の兄です」
 予想通りの質問に、答えは滑らかに口から出た。

 彼がその事実を確認したがっていることは知っていた。
 私が今日までそれを彼に伝えなかったのは、かつて私たちの間にあったことを知られたくなかった、という理由ももちろんある。
 だがそれよりも、私たちが兄弟だったことを知れば、彼は私の中に兄の残影を探すだろう。それが怖かったのだ。
 どんなに足掻こうと、私は兄にはなれない。
 兄に近づこうとすればするほど、それは私には不可能だという現実のみがはっきりと見えてくる。
 努力に意味がないとは思いたくないが、どんなに努力しようと決して埋めることのできない才能の差というものは、確かに存在するのだ。

 グラスに視線を落としたまま再び黙り込んだ彼は、いま何を考えているのだろう。
 艦長は、私の知らない兄を知っている。
 兄は、私の知らない艦長を知っていた。
 ただそれだけの単純な事実が、何故こうも胸を締めつけるのか。
 テーブルに置こうとしたグラスが天板にぶつかり、耳障りな音を立てた。
 私は何かに憑かれたように立ち上がった。はす向かいに座っていた艦長の肩を掴み、ソファの背に押しつける。
「私を、抱きに来たのでしょう?」
 吐息が感じられる距離で、驚きの表情を隠せない彼の目をのぞきこんで笑う。
「酔っているのか」
 そう言った彼の喉が息を呑むように上下したことに私は満足した。
 薄い唇に唇を重ねると、歯列を舌でこじあけ、口中に残るペイキュラーのフレーバーを嘗め取る。
 すぐに身体の芯に火が点り、腿の下に感じる熱に彼もまたそうであることを感じる。
 男の身体は悲しいほどにわかりやすい。

 唇を離し、部屋の奥のベッドを目で示す。
 これではまるで男娼ではないか。
 自嘲しながら服を脱ぎ捨て、ベッドに腰掛けて靴を脱いでいる彼の足下にかがみ込むと、勃ちあがりかけたものに唇を這わせる。

 小マゼランで艦長と関係を持ったことには、とても公にできる手段ではないとはいえ、艦長の心理状態の安定のため、ひいては自身と艦隊の安全のため、というエクスキューズがあった。
 だが今私がしていることに、正当な理由をつけられる要素は何もない。

 自ら後ろを解している間に、幾度も受け入れたそれは馴染んだ硬度を取り戻した。
 私をベッドに引き上げて覆いかぶさろうとするのを制し、仰向けにさせた彼の上からゆっくりと腰を落とす。
 滑らかで熱い感触が次第に深く私を満たし、自分がこれを渇望していたことに今さら気付いて心の中で嗤う。
 私をそういうあさましい身体にしてしまった男を見下ろすと、眉を寄せ、わずかに不安げな表情を浮かべた彼は普段より幼く見える。つい忘れそうになるが、そういえば彼は私より四つも年下なのだ。
 その顔に十年前見た映像の中の少年が重なり、私は自分の非合理な衝動の理由を唐突に理解した。
 私は彼の意識から兄の存在を消し去りたかったのだ。それが行為の間だけだとしても。
 だが私は一体、兄と艦長と、どちらに嫉妬しているのだろう。

 父と母が宇宙船の事故で死んだ後、私は兄に依存し、兄を求めた。
 兄は私のために二重の禁忌を犯した。
 だが、私は兄に抱かれることで兄を縛り、支配しようとしていたのではないか。
 今になって、時々そう思うことがある。
 私が兄を愛していたのは確かだが、その底にあったのは、優秀すぎる兄に対する劣等感や憎悪だったのではないか。
 最初にその可能性に思い至ったとき、寒気がした。それは間違いなく真実だったのだろうと思えたからだ。
 愛情の対義語は憎しみではなく無関心だ、というのはあまりにも言い古された言葉だが、行き過ぎた愛が簡単に憎悪へと転化するように、この二つの感情は実はとても近い存在なのかもしれない。

 では私はユーリ艦長を憎んでいるのか?
 彼と出会ってから、私がそれまで規定していた私自身はゆるやかに壊れていく。
 だがそれは決して不快ではなかった。
 彼が私を抱きながら別の方向を見つめていることが辛いのか?
 身体のみの繋がりであろうとかまわない。
 私の下で顔を歪め、乱れた呼吸をつくこの美しい男は、今だけは、私のものだ。
 忘れたい。
 忘れさせたい。
 忘れたくない。
 矛盾しているのかいないのか、もう何もわからない。
 私の中で暴れる肉の楔だけが今存在するただひとつの事実だった。
 腰骨を掴まれ、下から激しく突き上げられる。
 犯しているのか犯されているのか。
 この奇妙な満足感は征服感なのか被征服感なのか。
 切れぎれの思考が撹拌され、膨れ上がる光に押し流される。
 ひどく敏感になった内側にじわりと熱を感じた直後、私の中でも堰が切れた。

 滴り落ちた汗が自分の放ったものと混ざるのが見えて、私はようやく我に返った。
「何に怯えている」
 下になったまま、私の顔をじっと見ていたユーリ艦長がそう訊いた。
 私と彼を繋いでいたそれが次第に柔らかくなっていくのがわかる。
 目を逸らし、無言で身体を離そうとすると、温かい掌が頬に触れる。
「何もかもひとりで背負おうとするな。潰れるぞ」
 指先で目尻を拭われ、先程落ちたのが汗ではなく涙であったことに気付く。
 ずるりと彼が出て行く感触に、未練がましい吐息が漏れる。
 疲労感で重くなった身体から不意に力が抜け、重力に従って崩れ落ちた。

 半身を起こし鎖骨のあたりまで飛んでいた精液を拭っている艦長を、横たわったままぼんやりと眺める。
 ユーリ艦長を常に覆っていた、触れれば灼かれそうな緊張感がすっかり影をひそめたのは、やはりあの緑の髪の娘の存在が大きいのだろう。
 私には彼と快楽を分け合うことはできても、彼女のように彼を癒やすことはできない。
 本来彼の隣にいるのは彼女であるべきなのだ。彼女が彼の実の妹でなければ。
 ここでも私は出来の悪い代用品にすぎない。改めてそれを思い知らされたようで、また気分が重くなる。
 ——嫉妬ばかりしているな、私は。
 寝返りをうち、目を閉じてため息をつく。
 ユーリ艦長が寝転がったのか、背中側でベッドが軋んだ。

「バーゼル大佐に初めて会った日」
 背中がぴくりと震えたのが彼にも伝わったのだろう。安心させるように両腕で抱き込まれる。
「当時一緒に旅をしていた0Gドッグが、『俺とユーリ、どちらがいい艦長になると思う?』と大佐に訊いた」
 背中から伝わる体温が心地いい。
 私はしばらく、このままこの腕に甘えていてもいいだろうか。
 ユーリ艦長は、背後から私を抱えたまま、聞かせるともなくぽつぽつと話し続ける。
「踏んできた場数も、度胸も、艦長としての能力も、そいつの方が格段に上だったはずだ。だが大佐は『ユーリ君だろう』と言った。自分の限界を知っていて、人の力を借りることを恐れないから、と」
 戦術シミュレーションで兄にこてんぱんに負かされたあと、言われた言葉が脳裏をよぎる。
 ——自分の目と頭だけで答えを出そうと焦りすぎるのがお前の欠点だよ、ダンタール。自分以外の誰かの視点で状況をよく見てごらん。まだ他にいくらでも、打てる手はあるだろう?
「その評価が本当に正しかったのかどうかはわからない。だが、もし俺があいつのように自分の力のみを信じて走っていたら、今生きてここにいることはなかったはずだ。大佐の言葉は、結果的に俺と仲間たちを救ってくれたのだと思う」
 艦長の言葉には、兄への素直な敬意と感謝が見えた。
 消えない棘が胸を刺す。すでに手の届かない場所へ行ってしまった兄に、私は決して追いつくことはできない。
「私は兄のようにはなれません」
 我ながら女々しいな、と思いながら口に出した呟きに、予想外の返事が返ってきた。
「『できません』は言わないんじゃなかったのか?」
「!?」
 思わず振り向いた私は相当驚いた顔をしていたのだろう。ユーリ艦長は喉の奥で笑いながら種を明かした。
「案内してくれた副官から聞いた」
 中佐にあまり無理をさせないでくださいよ、と釘を刺された、と艦長は続けた。
「あいつらがお前についてくるのは、お前がバーゼル・シュナイツァーの弟だからではないし、俺もお前に大佐の代わりを求めているつもりはない」
 不意に強く抱きすくめられた。
 首筋に噛みつくような位置で低い声が囁く。
「俺にはお前が必要だ。こんなところで脱落してもらっては困る」
 腰にぞくりと響くその声に、身体の力が抜ける。
 どうしてこの人はこう息をするように人の心を捕まえるのか。愛してなどいないくせに。
 軽く睨みつけると、艦長は不意に表情を改めた。
「バーゼル大佐はあんなところで死ぬべき人ではなかった。彼だけじゃない。死ぬべきではなかった大人が、子供だった俺を死なせないために死んだ。だから俺は生き続けなければならない。何があろうと、どれだけ無様な真似をさらそうと」
 先程までとは別人のような、どこか切羽詰まったものさえ感じさせる鋭い目で発せられたその言葉に、私は彼が抱える危うさの正体を見た気がした。
 決して反故にすることのできない、恩ある死者たちとの約束。
 それは彼の意志を支えているものだが、同時に彼にかけられた呪いでもある。
「生き続けて……何をするんです?」
 この戦いが終わったら、あなたは生きる目的を失ってしまうのではないか。
 私の問いにはそんな不安が滲んでいたのだろう。
 ユーリ艦長はあっさりとそこを飛び越えてみせた。
「そうだな。すべて片付いたら、宇宙の果てでも探しに行くことにするか。——見てみたいんだ」
 少年の表情で笑ったユーリ艦長につられてこちらも微笑む。
 ああ、やはり私はこの人が好きなのだ。兄の言葉が彼に残した影響も含めて。
「おかしいか?」
「いえ、その時は私もお供させてください」
「ああ、ついてこい。必ず」
 契約の印のようにくちづけられる。
「俺にはお前が必要だ」
 耳元で繰り返されたそれが、 文字通りの意味でしかないことはわかっていた。
 だが、私は今ここに生きていて、この人に必要とされている。それで十分だった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

兄さんが生きてるうちは年齢差のせいもあって埋もれていたコンプレックスが、年を経るにつれて表面化する的な。
やたら優秀な兄とそこそこ(実力差が自覚できる程度に)優秀な弟、という関係は実に美味しいと思います。
でも「兄を支配し云々」というのはたぶん思い込みによる記憶の自己改変。

しかし本編での出世の速度はともかく、エクストラモードで見る限り、実は初期状態でのパラメータ総量には言うほどの格差はなかったりします。
得意分野に特化した兄と、あれもこれもと頑張りすぎた結果器用貧乏になっちゃってる弟、というあたりが世渡り能力というか要領の差なのか。

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