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ベガの消失

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  一郎×イカモノ料理人
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ※ニアホモ、ジャシンメイキュウねたばれ注意ダゾ
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ テケリ・リ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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内原富手夫が瞬きをする一瞬、目を閉じ、開くとそこは見慣れぬアパートの一室だった。
しかしそこは生来の暢気さがなすものか、特に驚いた様子もなく部屋を見回している。
雑然としたダイニングテーブル、整頓されてない本棚と書類の山。ここ最近見ることの
無かった人間の生活臭さに思わず富手夫は微笑んだ。
「ママ?」
突然鈴の音のような声がして、強烈なショックとともに富手夫は振り向いた。
そこには一人の少年が不安そうな瞳で立っていた。
「僕はおまえのママじゃない」
富手夫は答えながら今にも飛び付かんばかりの子供ー外道イチローから後ずさる。
「お兄ちゃんはママでしょ?この前ママの顔がお兄ちゃんになったの見たもん」
「だから、」
自分でも納得がいっていない事をなんと説明すればいいのか。
確かにイチローの母親と富手夫はナイアルラトホテプであり、一言で言えば<二重存在>であり……
頭を抱えた富手夫の鼻に腐った油と化学調味料の臭いが届き、彼はその端正な顔をしかめた。
見ると、イチローの手にはコンビニの袋が下がっている。臭気の原因はそれらしい。
「なんだ、それは」
「え?晩ごはんです」
富手夫の眉間の皺が深くなった。
「かしてみろ。なんだこれは……」
イチローの父親である<新宿>一のガイド、外道棒八はさぞ仕事忙しいのだろうが育ち盛りの子供には
あまりに酷い食生活だ。すっかりスイッチの入った富手夫は弁当をキッチンに置き、冷蔵庫を開いた。

「はは、やはりな。いかにも男やもめの冷蔵庫だ」
冷蔵庫には大量のビールと、賞味期限が一ヶ月前に切れた卵、表面が少し溶けたレタス、
あちこち芽を出したジャガイモ、干からびたタマネギ、不健康そうな葉をヘタから生やしたニンジンがあった。
「一応野菜があるだけマシだな」
そう言いながら富手夫は冷蔵庫の横のゴ●ブリホイホイからゴ●ブリを二匹取り上げた。
「それってまさか料理に使うんですか?」
雰囲気の変わった富手夫に何かを感じたのか、イチローは丁寧な言葉遣いになっている。
「ああ、お前の人生がひっくり返っちまうモノを食わせてやる」
富手夫は口の端を吊り上げた。
先ほどまで唐揚げ弁当だったそれは、富手夫の神技で何かよくわからない塊になった。
ニンジンは葉だけ使われ、鄙びた皮は鳥肉とゴ●ブリと共に鍋に放り込まれた。
富手夫がゴ●ブリをすり潰すのを横で見ているイチローが目を回している。だんだんと芳しい匂いが満ち、
大きな音を立ててイチローの腹が鳴った。元コンビニ弁当は、今や黄金色のコンソメスープと香ばしい薫り漂う炒飯となった。
「ほら、出来たぞ」
「わあ、いただきます!」
イチローは元気に言うと顔を突っ込みかねない勢いで食べ始めた。
使った調理器具を洗っている富手夫の耳に、掻き込むように食べる音と美味しい美味しいという呟きが届いた。
人間のこの感情表現の豊かさはいいものだ、と自らの心臓を取り出しても大した反応のなかった夢見るクトゥルーを思い出して
富手夫は少し笑った。
「あーもう終わっちゃった!」
「速いな」
「ごちそうさまでした!」
愛らしい仕草で言うイチローに、富手夫はこんどクトゥルーにご馳走様をさせようと思った。
クトゥルー。
暢気に料理などしている場合ではなかった。富手夫の料理以外はぼんやりした脳をフル回転させる。
自分はルルイエにいたはずなのに何故、どうやって、ここ、外道家へ?戻れるのか?クトゥルーは知っているのか?
それとも主犯はクトゥルーなのか?
「これ今日図書室で借りてきたの、お兄ちゃんも一緒に読も!」
薔薇色の笑顔をしたイチローに呼ばれるままにソファに腰掛けた。測り知れざる永劫のもとに死を越ゆるものとの
生活も富手夫の能天気さは変えられなかったようだ。

「ああ、僕も見たことあるな、この本」
高学年むきの宇宙の解説書だった。本を手に取り、パラパラとめくる。
「あ!この星座!」
イチローはこと座のあたりを指差した。
「ここらへんの星が消えるのをママが見せてくれたんだよ」
イチローは富手夫の太ももに覆いかぶさるようにして、富手夫を見上げた。
「僕ほんとに寂しかったよ、ママ」
ゾッと富手夫の首筋に震えが走った。赤くちかりと光ったイチローの丸い大きな瞳への悪寒とあともう一つ。
その時玄関から鍵の音が聞こえた。

「パパだ!」
「まずい」
駆けて行ったイチローをよそに流石の富手夫もこの説明のできない事態に慌てた。
「クトゥルー、居るんだろ。僕を早く連れていけ。さもなきゃあのガキのレバーで作ったパテを食わせー…るぞ」
言い終わる前に潮の香りが鼻をついた。懐かしのルルイエだ。
「流石のお前もヨグ・ソトホートとナイアルラトホテップの子供は食えないか。」
嘲笑を浮かべながらイカの様な触腕の無数に生えた顔のあたりを見やる。
巨大なクトゥルーが少し動いたように見えた。
「え?ああ、確かに食べごろは過ぎてたな」

下劣で残酷な事をあっけらかんと言ってのけた富手夫だったが、その少し前の自分の言葉に眉を顰めた。
ナイアルラトホテップの子供。それは取りも直さず富手夫の子でもある。不本意だが。あの子供が自分を呼んだのか?
あれに触られた時に走ったのは悪寒とーー官能だった。ヨグ・ソトホートの血がなせるのか?
富手夫は頭を振って思考を止め、キッチンへ向かった。
「海ユリは要らんと言っただろうが…ダイオウグソムシは充分あるな。おやオニアンコウがある」
こいつの腸を乾燥させ、ふりかけにでもすればコンビニ弁当でも少しはマシになるか、などと考え富手夫は再び頭を降った。
「あの子供にあてられたか?おい、僕はお前のシェフであって出張コックじゃないんだぞ、クトゥルー。もう御免だからな」
富手夫が料理を始める。
しかしその音は外に響くことは無く、今日もルルイエは海深く静かに鎮座している。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ナンバリングミス、長時間のスレ占拠大変申し訳無い
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) 支援ありがとうございました!
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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  • ご馳走様クトゥルー……たまらん、かわいい。 -- 2014-01-15 (水) 01:43:34
  • ありがとうございます……夢にまで見たCPなので本当にうれしいです……! -- 2014-01-31 (金) 01:25:51

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