ふたり旅
更新日: 2013-12-13 (金) 16:06:03
40年前の牛寺才最 鉄王(英訳)
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「実にすがすがしい気分ですなあ伍朗さん」
「そうですなあ玄太朗さん。空気までおいしいような気がしますねえ」
「本当にそうですなあ」
緑の山が迫るロッジ風のホテルの一室で、静玄太朗と霧島伍朗はソファに身を沈めながら、すっかり羽を伸ばしていた。
「それにしても、テンコの奴はどこへいったんでしょうねえ?」
テンコとは、宇宙人タイタニアンと戦う二人のお目付け役である典子のことだ。
危機が迫っている時でさえ軽いノリの玄太朗たちが悪いのだが、学級委員のように口うるさい彼女が今日は不在である。鼻歌の一つも出ようというものであった。
「なんでも、国家警備機構本部でタイタニアン対策の会議があるとか言ってましたよ」
「そりゃあ大変なお仕事ですねえ」
「いやいやまったくですなあ」
自分たちもその組織の一員であるのに、二人はおどけて帽子を取った。
伍朗が備え付けの茶を淹れる。玄太朗より5歳年上の伍朗だが、こういうときは妙にかいがいしく見える。
さっそく茶碗を口に運びながら玄太朗が言った。
「俺時々思うんだけどね、アイヤンキングって何者なんだろうね?」
アイヤンキングとは、彼らの、というか主に玄太朗の戦いを助ける謎の巨大人である。
「宇宙人かな? ロボットかな?」
伍朗はゴリラのように両手を挙げ、ガオーと言いながら玄太朗の腹をくすぐりにかかった。
ひとしきり笑いころげた玄太朗だったが、身をよじって籐の椅子に逃げるとまた言った。
「宇宙人でもロボットでもねえだろう」
「どうしてそうはっきり言えるんだよ?」
伍朗が首をかしげる。
「だってよ、妙に人間くさいじゃねえか。俺はあいつは人間だと思うね」
テンガロンハットの下で、玄太朗はにやりと確信に満ちた笑みを作る。
「じゃあさ弦の字は、いったいどんな人間だと思うんだい?」
「わっかんねぇな。アイヤンキングは水がエネルギー源だってくらいしか津島博士から知らされてねぇし。博士ったら、いっつもそういうところいい加減なんだから参るよなぁ」
彼らを派遣した国家警備機構の上司のことである。
「確かにね。あのお人は毒の成分がよく分かんないのに解毒剤を作っちゃうようなところがあるからね」
伍朗は笑い、それから人差し指を立ててトレードマークの赤い登山帽のつばを格好付けた様子でくいと上げた。
「俺はこう思うね。アイヤンキングは実はたくましくて強い高潔な紳士でね、時には詩でも読んじゃうような教養も持ち合わせていて、
人のかたちに戻ったらありとあらゆる女のひとがメロンメロンになっちゃうくらいの絶世の美青年で、でも本人は大事なひとを心の中にたったひとりだけ秘めてるような色男なんだってね」
べた褒めする伍朗に呆れた風で、玄太朗は肩をすくめた。
「ほーう、ずいぶん奴に肩入れするじゃねえかよ。アイヤンキングが頑張ってるときはお前、いつもどっかで伸びてるくせに」
「そりゃあ……まあね。じゃあ玄太朗はどう思うんだよ?」
口ごもった伍朗に水を向けられ、玄太朗は腕を組んだ。口をへの字にすると、精悍な彼の顔は途端にきかん気の強い子供のように見える。
「俺はそうは思わねえなあ。あいつはドジで間抜けで弱くてよ、その証拠に、俺が助けてやることのほうが多いじゃねえか」
「ずいぶんなことを言うねえ、ひどいなあ弦の字は。お前だってアイヤンキングに助けられたこともあったと思うけど?」
不満そうに伍朗が言うと、
「そりゃあ、たまにはそういうこともある! でもあいつは絶対、足下に子犬でもいたら泡食って飛びのいて、そのせいで足滑らせて敵にぶん投げられちまうような奴だ」
間違いない、というように、玄太朗がうんうんと頷く。
「うーん……」
伍朗はちらりと玄太朗をにらんだが、すぐに明るい顔に戻ってぽんと手を打った。
「でもそれってさ、心根がとっても優しいひとってことだよね? そうだろ? 戦いの中でも子犬を助けるなんてさ。いやあ、シビれるねえ!」
「そうかなぁ? 俺そんなこと言ったかな?」
玄太朗はとぼけてみせる。
「あっ、誤魔化すなよ弦の字!」
「誤魔化しちゃいねえよ」
「あっ、分かった! 照れてんだな?」
「バカ! 照れるも照れないもねえ!」
「またまたー! 顔が赤いよ、よっ、色男!」
はやし立てる伍朗を、玄太朗がひっぱたいた。
「うるせえ! お前なんか大好きな水でも飲んでろ!」
「飲むよ、はい飲みますよ」
拗ねて茶をがぶ飲みする伍朗を優しい目で見ていた玄太朗だったが、やがて彼の隣に座りなおし、取りなすように言った。
「まあ、そんなことはどうでもいいよな。今日はお前と久しぶりの二人っきりの夜なんだ。風呂にでもゆっくり浸かって、キューっと一杯飲ろうじゃねえか」
「いいねえ! これだから俺は弦の字が大好きだよ」
喜んだ伍朗が玄太朗に飛びついて肩を抱いた。
「よせやいバカヤロー! 気持ち悪いじゃねえか!」
そう言いながらも腕を振り払おうとせず、玄太朗は相棒だけに見せる人なつこい笑みを顔中に広げた。
霧島伍朗は知らない。
アイヤンキングのピンチの時に、静玄太朗が「俺たちは二人で一人前だ」とテンコに語って全力で駆けていったことを。
そのときの表情は、伍朗のピンチを知ったときのものと寸分違わぬものであったことを。
知らないのかもしれない。
知っているのかもしれない。
どちらでも構わないのかもしれない。
二人の旅はまだ続くのであった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ホトンドホンペンソノママナンダゼ…
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