いつか来る時のために
更新日: 2013-11-06 (水) 10:37:43
夢想大蛇2Uのスサナ夕両片想い(?)でWナ夕会話。スレの話題を拝借しましたがもはや別物です。
多分七章陣地が舞台で機械(とスサ様)が思い詰めすぎのシリアス。
ほぼ妄想設定ですがネタバレ注意。一応救いらしきものはありますが人型は死にます。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「キミが、未来のボク?」
少年はそう言って、まじまじとナ夕の顔を覗き込んだ。
「へえ、こんな風になってるんだ。体は全部作ってもらったの? すごいね」
ナ夕は反射的に少し身を引いた。無遠慮な視線にさらされて居心地が悪い。
髪や肌などの色合いこそ違えど、少年の顔立ちや体つきはナ夕によく似ている。
……いや、ナ夕が彼に似ているのだ。彼の姿を模して作られたのだから。
かつての自分がどんな風だったのか、気になってはいた。だがまさか、実物と対面する日が来ようとは。
「キミは、もう知ってるの? ボクのこと」
「うん。ボクはこの先一度死んで、生き返って、キミになるんだよね」
彼はこともなげに頷いた。拍子抜けするほどに平然とした態度だった。
「信じるの? こんな話」
「まあ、急に言われても、って気持ちはあるけど……でも、現にキミがいるからね。キミがボクだっていうのは、見ればわかるよ」
彼は微笑む。ナ夕もその点については同感だった。彼の持つ魂は、間違いなく自分のそれと同じものだ。
「キミがどうして死んだのか、聞いた?」
「ううん、別に。もう決まってることなら、詳しく聞いてもたいして意味ないから。ヘンに身構えて、逆に失敗したくないしね」
あっさりと言い放つ。
考えても無駄なことは簡単に切り捨てる、徹底して割り切った考え方。それは、ナ夕にとっても非常に馴染み深いものだ。
だがその発言は、ナ夕の心に不可解な痛みをもたらした。
「ボクが聞いた話の通りなら、気をつけていれば避けられるはずだよ。
教えてあげようか? そうしたら、死なずに済むかも」
「え? いいよ、そんなの。だって、一度気をつけて助かったって、もう絶対死なないとは限らないよね。
死にたいわけじゃないけど、死なないためにやりたいことを我慢し続けるなんて、ボクは嫌だな」
彼の言葉はどこまでも単純で明快だ。その潔さが、なぜか無性に腹立たしく感じられた。
「そんなの、わからないよ。この一回を乗り切ったら、後は大丈夫かもしれない」
「ヘンだな。どうしてそんなこと言うの? 死ななかったら、ボクはキミにならないのに」
「それは、そうだけど」
指摘されて口ごもる。
自分でも、なぜこんな気持ちになるのかわからない。ただ、目の前の少年に自分の命を軽視されることが耐えがたい。それが結果的にナ夕の存在に繋がるのだとしても。
「キミが、死んだら」
内から突き上げる感情のままに、口が動いた。
「キミが死んだら……スサ丿オが、悲しむ」
ああ、そうか。
口に出してようやく、腑に落ちた。
そのせいで自分は、こんなにも苛立っているのだと。
「……でも、生き返らせてくれるんだよね? なら、問題ないと思うけど……別に、そこで終わりってわけじゃないんだし」
彼は釈然としない様子だった。ナ夕が何を問題にしているのか、いまいち理解できていないようだ。
彼は知らないのだ。彼が一度死んで蘇ったことが、あの男にどんな影響を与えたのか。
ナ夕も知らなかった。今も完全に理解できてはいない。共にしてきた時間の中で、少しずつその心に触れ、おぼろげに感じ取ったに過ぎない。
「違うんだ」
小さく首を振る。
「スサ丿オは、多分、ずっと……後悔してる。キミを死なせたことも……ボクを生き返らせたことも」
また、どこかが小さく痛んだ。
さすがに彼は驚いた、というよりは、信じられないような顔をしていた。
「どうして? よくわからないな。スサ丿オはキミが嫌いなの? そんな風には見えなかったけど」
「それは、違う……と思う、けど」
特別に目をかけられている自覚はあった。他者に比べれば段違いの信頼を受けているのも事実だろう。
だが、以前からスサ丿オの態度には不自然な壁があった。
時折見せる、理由のわからない拒絶。偶然気がついた、ナ夕を見る時の険しい顔つき。なるべく悟らせないようにしていたようだが、一度気づいてしまうと全てが気にかかった。
最初は、ナ夕の何かが気に入らないのかと思った。
けれども、弱いのが不満なのかとひたすら敵を倒しても、昔の自分と違うのが嫌なのかと昔のことを聞いてみても、核心を突いた手応えは得られなかった。隔意が薄まる様子はなく、かといって失望された様子もなかった。
そのうちに、少しずつ感じ取れてきた。彼の険しい視線はナ夕ではなく、ナ夕を作り出した彼自身に向けられているのだと。
ただ、何が彼をそうさせるのかについては、まったく見当もつかなかった。
「恨んでいいって言うんだ。ボクは生き返らされたことを恨んで当然なんだって。どうしてなのかな? 恨む理由なんて何もないのに。こんなに感謝してるのに。
なのに、ダメなんだ。それ以上は何も言ってくれなかったけど、ずっと自分を責めてるのがわかるんだ。
それを見てたら、なんだかすごく苦しくて……体はどこもおかしくないのに、壊れそうになるんだ。だから、」
時間を遡り、かつての“ナ夕”を目にしたほんの一瞬、彼の顔をよぎった表情。
それだけで、わかってしまった。彼が、どれほど痛切にあの少年を救いたいのか。今のナ夕が存在しなければ、彼はどんな手を使ってもそうしたのだろう。
けれども、彼はナ夕を選んだ。己の未練に一瞬で蓋をして、平静を装った。今後何が起ころうとも、その選択がどれほど彼の後悔を深めようとも、彼は己の決心を貫き、苦悩など表に出すまいとするだろう。
そうすることが彼なりのナ夕への気遣いなのだということも、なんとなくわかってきた。心に壁を作るのも、彼の抱えた苦い感情に触れさせないための配慮なのだと。
けれど、それに気づいてしまった今、彼のその優しさこそが辛かった。
「もし、ボクが……キミが、死なずに済む方法があるなら……」
そうしたら、何か変わるだろうか。彼は自分を傷つけなくてもよくなるだろうか。
実際にそうなったとして、どう歴史が変わるのかはわからない。今ここにいるナ夕は、最初から存在しなかったことになって、誰の記憶からも消えてしまうのかもしれない。
それならそれで、別にいいような気がしていた。
「……やっぱり、よくわからないや」
しばらくの沈黙の後、少年はぽつりと呟いた。口調が少し神妙なものに変化している。
「スサ丿オはいつでも、誰よりも、絶対に強くて……自分を責めたりするなんて、考えたこともなかった」
その気持ちはよく理解できた。かつてのナ夕も同じだったからだ。
強い者が傷つかないのではない。強くなるほどに負う傷も増え、その痛みを乗り越えた者が更に強くなれる。それを教えてくれたのは、ここへ来て出会ったお節介な人間や仙人たちだった。彼らがいなければ、これほど多くのことには気づけなかっただろう。
「キミはボクのはずなのに、ボクが考えもしなかったことをいっぱい考えてるんだね。
……そっか。ボクはこの先、こんな風になるんだ」
「え?」
耳を疑った。それではまるで、ナ夕の思いとは逆に、己の死すべき運命を受け入れているようではないか。
「言っとくけど」
ナ夕の戸惑いに気づいたのか、少年はまっすぐにナ夕を見返した。強い意志のこもった瞳だった。
「ボクはそう簡単に死ぬつもりはないし、自分が死ぬなんて思ってないよ。死なないために逃げ回りたくはないけど、何があったって全力で戦う。
逆に聞くけど、キミはそれでいいの? 生きる権利をボクに譲って、そのまま消えるつもりなの? ボクにはそっちの方が、よっぽど信じられないな」
「ボクは……」
問われて、考えた。
自分のせいでスサ丿オが苦しむのを見たくなかった。昔の自分を見殺しにすることが心苦しかった。
自分の存在が二人を不幸にする。そう思ったら、苦しくて、嫌で、それならばいっそ、自分が消えさえすれば、誰も苦しまなくて済むのだと……
そこまで考えて、気づいた。
彼らのため、ではない。
自分はまた、己の弱さと向き合いたくなくて、全部なかったことにして逃げ出そうとしていただけだ。
消えてしまえば、全てがなくなる。この苦しさからも、解放される。だから。
「……違う」
心に浮かんだ言葉が、そのままこぼれ落ちた。言いたいことがうまくまとまらないまま、それでも何か言わずにはいられなくて、ただ続ける。
「そうじゃない。ボクが消えればいいなんて、そんなはずない。
嬉しかったんだ。命をくれて、傍に置いてくれて、何度も助けてくれて、恩返しだってまだ全然できてない。
苦しくても、後悔しても、それでもボクを生かすって決めてくれたんだ。そうやって生かしてもらったおかげで、いろんなことがわかったんだ。
今さらそれを、ボク自身が無駄になんて……そんなこと、したくない……絶対にしない!」
そうだ。彼は決して逃げようとはしなかった。どれほど後悔しても、ナ夕自身に恨まれる覚悟をしてさえ、ナ夕を生かすことを選んだ。
全てを飲み込んだ上で、かつてのナ夕を“殺す”覚悟を彼が決めているのならば、すべきことは彼の前から消えることではなく、その覚悟も、後悔も、共に背負っていくことではないのか。
「……ああ、よかった。この“ボク”が自分から死にたがるなんて、ありえないよね」
少年は清々と笑った。
「キミはボクよりも弱いけど、強いね。ヘンだな、弱いのに強いなんて」
不思議と彼は楽しそうだった。ナ夕が新たな命を授かってから得てきたものの片鱗を、彼も感じ取れたのかもしれない。
複雑な気持ちだった。ナ夕が生きたいと願うことは、この少年に死んでくれと言うのと同じことなのだ。
けれどももう、生を譲ろうという気にはなれなかった。
今のナ夕にできることは、目を逸らすことなく、かつて自分だった存在の行く末を見届けることだけだ。
「ねえ、ボクたちはまだもう少し、一緒にいられるんだよね?
その間に、キミの話が聞きたいな。代わりに、ボクの話も聞かせてあげるよ」
「……うん。本当はずっと知りたかったんだ、昔のボクのこと」
ナ夕はようやく、血の通わない顔にほんのりと笑みを浮かべた。
失った自らの記憶の代わりに、少しでも多く、かつての自分を知っておきたかった。
いつかその時が来ても、彼の存在を受け継いで生きていけるように。
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「一緒に戦いに行きたいんだけど、いいかな?」
二人並んでそう告げた時の反応は見物だった。ナ夕はつい噴き出しかけた。
ここへ来てからというもの、スサ丿オがこれほど動揺をあらわにしたのは初めてではないだろうか。もっとも、端から見ればいつも通りの厳めしい顔つきなのだが。
「汝らが、か?」
「うん。どっちがたくさん敵を倒せるか、競争するんだ」
「過去のボクと未来のボクとで力比べができるなんて、滅多にない機会だからね」
「直接戦ってみるのも面白そうだけど、数で勝負するのもいいかなって」
交互に言って、最後に「ね」と顔を見合わせる。
スサ丿オは小さく唸った。申し出の内容を吟味しているというよりは、彼らにどう接したものか決めかねているのだろう。気持ちはわかるので、二人は忍び笑いを交わしながら反応を待つ。
あれから、二人は色々話し込んだ。互いが今まで経験したこと、出会った人々、それぞれの考え方について。
これからのことについても話し合って、決めた。二人で存在できるこの貴重な時間を、目一杯楽しむこと。やがて来る別れの時に、少しでも未練を残さないために。
そうして、ナ夕は一つの決意を固めた。
スサ丿オが自分のために苦しむならば、その苦しみにとことん向き合い、いつか打ち勝ってみせようと。
たとえ拒絶されても、余計互いを傷つけることになっても、ずっと傍にいて、諦めずに何度でも伝え続ける。感謝していると。出会えてよかったと。後悔などしてほしくないと。彼が本当に己を許せるまで。
そして叶うことならば、彼が今まで独りで抱え込んできた痛みに触れたい。癒やすことはできなくても、傍らで共に耐えさせてほしい。彼の“右腕”として。
昔の自分から託された思いと、大切に思われている確信が、大きな力を与えてくれた。彼らに報いるためにも、胸を張れる自分になりたい。ならねばならない。
「……では、我が目付として同行する。それでよいな」
ようやく、渋々といった体で許可が出た。
二人は顔を輝かせた。どうせ誘うつもりだったのだ。たとえ彼の中で葛藤の末、「さすがに二人で野放しはまずい」との判断が勝ったのだとしても、この機を逃す手はない。
「もちろんだよ!」
「じゃあ、行こう! ほら早く!」
示し合わせたように両脇に回り、腕をとらえて引っ張る。触れた瞬間、腕にかすかな緊張を感じたが、あえて無視した。
「スサ丿オが審判だから、ちゃんと数えてね」
「我一人で両方をか? 無茶を言う」
「ダメだよ、自己申告は信用できないから。それに、ボクも何人倒したかなんていちいち数えてられないし」
「己が出来ぬことを二人分、我一人に押しつけるか」
「大丈夫だよ、だってスサ丿オなんだから」
「そうそう、スサ丿オならできるって信じてる」
「……ふ……くくっ」
思いきり無責任な言い草に、耐えきれなくなったように笑いが漏れる。二人のナ夕は視線を交わし合って笑った。
たとえこの状況が彼にとって居心地の悪いものだとしても、三人でいられるこの時間を、少しでも楽しく感じてほしい。共に過ごすことで、後悔が少しでも薄まるように。
「責任は持てぬぞ」
「まあ、もしダメだったら無効試合ってことで、再戦かな」
「別に何回やってもいいよね。その分楽しみが続くんだし」
くすくすと笑いながら、取った腕に体を寄せた。冷たい金属の体では体温を伝えることはできないけれど、一緒にいたいという思いが伝わればいいと思う。
見上げた顔は、いつもよりも穏やかに、二人を見下ろして微笑んでいた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
自分なりのハッピー(?)エンドと両手にナ夕(文字通り)をやりたかった。
機械の精神が急成長ってレベルじゃねーですが、こうでもしないと石頭は幸せになってくれない気がします。
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