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Give Me A Reason

∞高炉、艦長×黒服弟。青.年.編Ch.ap.ter3付近。
わんこ可愛い30歳がどこかへ行ってしまった不具合。
エロありですが、どうもエロくなってくれないので困る。

時系列的には69-386「Interlude」から続きます。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 その艦が発した閃光は唐突に消え去り、ブリッジからの視界は見慣れた闇に戻った。
 最後まで脱出を呼びかけ続けていた艦長が、コンソールに拳を叩きつける。
「……敵旗艦、インフラトン反応消失。撃沈です」
 オペレーターが掠れた声で絞り出すように報告した。
 いつものように歓声を上げるクルーはいない。
 沈黙したブリッジに、空調の微かなノイズだけが低く流れた。

 その夜、私はあの艦が——おそらくは意図的に——残したICUデータから算出した敵勢力の戦力予測を提出に艦長室を訪れた。
 各居住惑星にはその自転に応じたローカルタイムが存在するが、航宙中の艦船が使用する銀河標準時は人類が「テラ」で暮らしていた時代と同じ24時間に設定され、艦内には擬似的な昼と夜が作られる。
 人類発祥の惑星がほぼ忘れ去られた現在に至っても人間の体内時計が変化していないのは、考えてみれば不思議な話だ。
 埒もないことを考えながら型どおり入室許可を求めようとして、ここが軍所属の艦ではないことを思い出す。
 中途半端に開いた扉から灯りが漏れている。眠っているわけではなさそうだったが、数度のノックに反応はなかった。
 一瞬迷ったものの、失礼します、と声をかけた後ドアを開くと、ユーリ艦長はいつからそうしていたのか、背中を丸め、グラスの中で揺れる酒を硬い表情で見つめていた。
 戸口に立った私に気づくと、目で椅子を示す。
 勧められるまま腰を下ろした私に、艦長は濃い色の酒を満たしたグラスを手渡した。
 刺激臭一歩手前の強い香りが鼻をつく。おそらくネスカージャあたりで仕入れた安酒だろう。
「すまんが、少しつきあってくれ」
 今日の戦闘の戦死者に短い祈りを捧げ、艦長と私は不味いラムを呷った。

「覚悟はしていたつもりだったが、やはりきついな」
 二杯目を干した艦長が目を閉じて天井を仰ぐ。
 クェス宙域での遭遇戦で交戦し、脱出勧告を受け容れることなく戦死したヤッハバッハ艦隊の指揮官は、ユーリ艦長の旧知だった。
 あの国は征服した地域をその戦力ごと帝国に取り込み、版図を拡大してきたらしい。
 被征服民を使い捨ての駒として扱うよりは人道的な措置ともいえるが、その体制に抵抗しようとする者は、かつての同朋と血みどろの同士討ちを強いられることとなる。
 小マゼランに戻ってくるなり、その事実を、一番堪える形で見せつけられたのだ。
 もしもかつての仲間——こちら側に残してきたという大切な人たち——が敵となって立ちはだかったら。
 単純にして深刻なその不安が、艦長の焦りを呼んでいる。
 先のネスカージャにおける内戦が、ユーリ艦隊の働きによって理想的な形で終結したのは事実だ。だが、あれは彼にとって何のゆかりもない星系の出来事だった。ここでの私が当事者ではなく傍観者であるように。
 この先、今日のような事態が続いたとしたら、この男はいつまで冷静さを保てるのか。
 彼が感情に引きずられて判断を誤れば、どういうことになるかは明らかだ。
 場合によっては艦長を実力で排除して本国に帰還する、というオプションも私は想定していた。おそらく、ネス・バーズラウもロエンローグ卿から同様の指示を受けているだろう。

 見極めなければならない。
 この男は本当にお偉方の見立て通り、私たちが命運を託すに足る存在なのか。
 そして、兄が自らの命を賭して為したことに値する人物なのか。

 私の視線に気づいているのかいないのか、しばらく黙り込んでいた艦長が、ぽつりと言った。
「人が光の速さを超えるようになって、それは本当にいいことだったのか……」
「は?」
 奇妙な問いに戸惑った反応を返した私に、艦長はわずかに笑って付け加えた。
「俺に、星の海の渡り方を教えてくれた人の言葉だ」
 その人はすでにこの世にはいないのであろう。戻れない時代を懐かしむような口調に、私はそう思った。
 直後、その表情が厳しくなる。
「自分たちが今見ている星の光は、すべてはるかな過去のものだ。中には、すでに消え去った星もある。それが昔の姿のまま見え続けるなんて拷問だ、とな。俺は今になってようやくあの言葉の意味がわかった気がする」
 艦長は血を吐くように言った。
 滅びた国が、滅びる前の姿のままで自分の敵として存在している。
 故郷の宇宙が、見慣れた星が、懐かしい顔のまま牙をむく。
 その現実から逃げ出してしまえばまだ楽だろう。遠くの星で、目と耳を塞いで。
 だが目の前の男がそれを選択することはなかった。彼は帰ってきたのだ。失ったものを取り戻すために。
 芽生えかけた同情を押し流すように、何杯目かのラムを一気に呷る。
 強すぎるアルコールが喉を灼いた。

 空いたグラスをテーブルに置いて艦長室を辞そうとした時、立ち上がった艦長の姿勢がくたりと崩れた。
 とっさに手を伸ばし、受け止める。
「……すまん」
 私の肩に額を押しつけ、わずかに震える声でそう言った艦長は、年齢に似合わない迫力を漂わせたいつもの彼ではなく、道を見失って途方に暮れている少年に見えた。
 声だけではない。痛いほどの力で私にしがみついているその腕も小刻みに震えている。
 人の体温に安心したのか、震えは次第に収まっていった。
 これが私でなくネスだったら抱きつきがいもあったろうに。そんなことを考えながら、自由になった右手で艦長の背中をさする。
 と、私を閉じ込めた腕に再び力がこもり、柔らかい感触が唇を塞いだ。
 それは数秒のことだったのだろう。
 だが唇が離れたあと吐き出した呼気は、半ば固形に感じられるほど熱かった。
 アルコールでぼやけた頭で明らかにおかしいこの状況をどうにか整理しようとした末、導き出された結論に愕然とする。
 なんてことだ。私はこの男に欲情している。
 不意に戻った理性に頬をはたかれ、かろうじて正気を取り戻した私に、艦長が熱を含んだ声で訊いた。
「男と寝たことが?」
 今ならまだ、酒の上での笑い話ということで片がつく。酔っ払った艦長に抱きつかれてキスされた、などという話はクルーたちの格好の酒の肴だろうが、なんなら飲み過ぎで記憶が飛んだことにでもすればいい。
「……昔」
 なのに何故、私は馬鹿正直にそう答えたのか。

 その相手が十年前自分を大マゼランに逃がした男だと知ったら、彼は一体どんな顔をするだろう。

 再度重ねられた唇を自然に受け入れてしまった瞬間、固く封じ込め、墓の下まで持っていくつもりだった記憶の封印が綻びたのがわかった。
 衝動に操られるように、歯列を割って入り込んできた舌を自ら求める。断続的に身体を走る電流とともに、女性との行為では使うことのなかった回路が再び繋がり、蘇る。
 兄が死んだ後、私が男と関係を持つことはなかった。別に兄に義理立てしたわけではない。必要がなかったのだ。
 当たり前だが、男と男は本来セックスするようにはできていない。ひととき温もりを得たいだけならば、好きこのんで面倒なことをする理由はないのだ。
 艦長にしても、別に男が好きなわけではないだろう。たまたま今、ここにいたのが私だったというだけのことだ。
 私は男を愛したのではない。兄を愛したのだ。ずっとそう思っていた。
 だが、触れた肌から伝わる体温が心地いいのは何故だろう。

 首筋から鎖骨に這う唇を感じながらしなやかな筋肉のついた背中に腕を回すと、幾条もの大きな傷跡が指先に触れる。
 あの収容所で過ごした十年間、たぶん彼は文字通り自らの身体すら武器にして、仲間たちを守り切ったのだ。
 その経験から下した判断の結果、彼らの安全を確保するための保険として計算ずくで私を求めたのだとしても、それを責める権利は私にはない。

 兄さん、あなたが命と引き替えに救った男は確かに大物だ。

 私が「抱かれる側」であったことは態度から見て取れたのだろう。どちらがいいか、などと野暮な質問をされることはなかった。
 繊細に動く指に擦り上げられ、私は呆気なく果てた。
 放ったものが後ろに塗り込められ、身体を繋げる用途では久しく使われていなかったそこをゆっくりと解される。
 彼の愛撫は意外なほどに丁寧だった。
 腕の中の相手がたしかにそこに存在することを確認しているかのように。
 私が反応を返すと、彼はわずかに安心したような表情を見せる。
 周囲から否応なく押しつけられる期待という重圧の中で正気を保つために、彼はセックスという手段を必要とするのかもしれない。
 「英雄」を演じ続けなければならない男の中に潜む、怯える少年。それが彼の本質なのだろうか。 

 ぬめりを纏って後ろで蠢いていた指が抜かれ、入れ替わりに圧倒的な大きさがみしりとそこを押し広げる。
 熱い。
 鈍い痛みと、内臓を押し上げられるような圧迫感に息が詰まる。
「辛いか?」
「いえ、だい、じょうぶ」
 大きく息を吐き出し、なんとかそれを根元まで身体の中に納める。
 そのほうが楽なのは経験上確かだ。
 ゆっくりと動き始めたものの存在感に意識が浸食されていく。
 身体の奥を満たされる感触に、深い吐息が漏れる。
 そう、私はこれを知っている。

 熱にうかされた頭の中に呼び声が聞こえた。
 ——飛ぼう。遠くへ。どこまでも遠くへ。

 閉じていた目を思わず開き、艦長の顔を見る。
 今の声はおそらく幻聴の類だったのだろう。
 だが、やや余裕を失った彼の表情が何故か、なくした宝物を泣きながら探している子供のように見えて、私はわずかに首をかしげた。
 この人は一体いくつの顔を持っているのだろう。
 理解したと思った途端、また別の彼が姿をあらわす。
 彼の裡には底の見えない深淵がある。
 めまぐるしく色を変えながら揺らぎ、覗き込めば引きずり込まれそうなそれは、危険ながらひどく魅力的に思えた。
 
 滑らかな先端が敏感な部分を掠め、びくりと背中が跳ねた。
 戦闘の趨勢が決したときいつも見せる表情で、艦長が微かに笑う。
 腰椎から脳天に突き抜ける衝撃に揺さぶられ、思わずその背に爪を立てる。
 自分のものとも思えない声が、意志とは関係なく浅くなった呼吸に混じって漏れる。
 瞼の奥に二度目の閃光が奔ったのと、艦長の短い吐息とともに私の中に埋め込まれたものが大きく脈打ったのは、ほぼ同時だった。

「私には、この威力偵察の結果を本国に持ち帰る義務があります」
 どうにか息が落ち着いたあと、少し掠れてしまった声で私は艦長に告げた。
「覚えておいてください。もしもあなたが自分を見失って我々の戦略に不都合をもたらすようなら、私はあなたを殺します」
「心得ておこう」
 ひどいピロートークもあったものだな、と剣呑な笑みを浮かべたユーリ艦長の顔は、見慣れた歴戦の0Gドッグのものに戻っていた。

 と、何かを問いたげな表情で口を開きかけた艦長が、私の顔を見て言い淀む。
 彼が何を尋ねようとしたのか私は察したが、口に出すことはしなかった。
 それを彼に告げるべきではない。少なくとも、今はまだ。

 痺れた頭に眠気が柔らかくまとわりついてきて、私は重くなった瞼を閉じた。
 遠くから、インフラトン・インヴァイターの作動音が聞こえる。
 この人が探しているのは、人が光速を超えて遠くへ飛び続ける、その理由なのかもしれない。意識を手放す直前、そんな考えがふと脳裏をよぎった。

 二日酔いの頭痛と、全裸の自分と、同じく裸で寝息を立てている艦長に、私がいろいろな意味で頭を抱えたのは数時間後のことである。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

最初は「やらないか?」「はい喜んで!」くらいのノリで書き始めたはずなのに、なんでこう無駄にめんどくさい方向に話が転がってしまうのか。

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