Top/69-375

after race and after...

今回のGP終わって気がついたら書いてた。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「あー…」

この感覚は久々だった。
かつてあれほど経験したことであるが、この黒いレーシングスーツを纏ってからは初めてのことで、更に連続完走、連続入賞記録が途絶えたとあってはマスコミもそう簡単に放してはくれない。
『久々のリタイアだけど、どんな気持ち?』
どんな気持ちだと?俺はただこう答えた、クソみたいな気分だよと。
それを聞いた若い女性のレポーターはショックを受けた顔をしていたが、隣にいたベテランのレポーターから「彼はいつもこんな感じだから気にするな」とフォローされているのを尻目にさっさとチームのモーターホームに戻った。
そうだ、これが俺なんだ。誰にも文句は言わせない。
チームクルーに労われそれに応えつつドリンクを煽る。
横目で見た画面では、若い二人のドライバーが心底嬉しそうにはしゃいでいた。
セブとのポイントが開いてしまった上に、フェルナンドどころかルイスにも追い越されてしまった。
胃がチリ、と痛くなるような感覚は確かに久々だったが、だからと言って忘れもしない。
好きなサーキットで好成績が出せなかったのは残念だが、次のモンツァで挽回するしかない。
フェラリスタだらけのあの国で勝ったらそれは面白いだろう。ティフォシ達の怒号を想像して少しだけ笑えてきた。
画面からは“いつもの”ドイツ国歌が流れている。
真ん中で気持ち良さそうに空を仰いでいるセブの隣で、あの予選から2位にまで上がったスペイン人のドライバーが目についた。
…そういや、何であいつはこんなにもつまらなさそうな顔をしているのだろう。
確かに1位ではないし、セブとのポイントもまだあるが、本来ならば笑っていてもいいはずの立場である。
レポーターとして上がったディヴィッドにセブとルイスがシャンパンをぶっかけて、そこでようやく笑顔を見せた。
まあ、あいつもきっと色々複雑なんだろう。考えたってフェルナンドの気持ちなんて分からないし、次のレースのことを考えた方が良さそうだ。
もちろん、飲んだ後で。

「あ、れ。キミ」
サーキットを出ようとしたら後ろから呼び止められた。普段なら無視してそのまま歩き続けるのだが、この声は知っていたから足を止める。
「…よう。まだ帰ってなかったのか」
振り返ると、やっぱりそこにはライバルのスペイン人がいた。
「チームと話してたから。お前も今帰り?」
「ああ。その……残念だったな、リタイア」
ライバルのリタイアは自分のプラスになるだろうに、フェルナンドは本当に残念そうに握手を求めてきた。
「まあ、こういうこともあるさ。レースだからな、次で挽回するよ」
「相変わらずだな、お前」
ふふ、とフェルナンドが笑ったあと沈黙が続く。
どうしたものかと思い、話しあぐねているとフェルナンドが妙に怖い顔をして聞いてきた。
「キミ、このあと何かある?」
険しい顔をしているから何を言われるかと思っていたら割と普通のことを聞かれて少し拍子抜けした。
「ああ、さっきディヴィッドからメールきて…やるかって」
「そう、やる…やるって!?」
「奢ってやるから飲みに来いって。何驚いてんだお前」
でかい目がこぼれ落ちるんじゃないかってくらい目を見開いて驚くものだからこっちだって驚く。全くスペイン人は表情豊かで見ていて飽きない。
「…で、お前行くのか」
驚いた顔からまた険しい顔に戻ったフェルナンドに当然のように頷いた。奢ってくれると言うのに行かない手はない。
すると更に彼の眉間の皺が増えたように見えた。
「やめとけよ。どうせあのオッサン下心あるって。お前酔わせてセックスに持ち込もうとしてるだけだって!」
「…何言ってんのお前」
あまりのフェルナンドの言い様に流石に腹が立った。俺とディヴィッドの関係を汚されたような気分になったし…正直、そんな展開になっても構わないと思っていた自分の心を暴かれたように思えた。
「馬鹿馬鹿しい。お前がそんなこと言うなんて思いもしなかった。じゃあな、フェルナンド」
吐き捨てるように言って踵を返すと、フェルナンドに腕を掴まれた。
「おい、離…」
「俺は嫌だった!」
突然大きな声を出されて慌てて周囲を探る。こんなところ誰かに見られたらまた馬鹿らしい記事を書かれるに決まっている。
幸いモーターホームが立ち並ぶ、更に奥まったところにいたため人はいなかったが、そんなことを考えているうちに腕を引かれて目の前にフェルナンドの顔があった。
「俺はつまんなかったよ、ポディウムにお前がいなくて!あんなガキ達じゃなくて、お前とポディウムに立ちたかった!俺は……」
そのまま、押し付けるようにキスされた。
「…俺は、やっぱりお前がいないと嫌だ」
「………」
「…な、何とか言ってよキミ」
険しい顔から途端に眉毛をハの字にして不安そうにするフェルナンドを見て、静止していた思考を少しずつ動かし始める。
「…いや、驚いて」
「俺だってこんなに気持ちをコントロール出来ないの久々で…お、驚いてる」
「…そっか」
……なあ、フェルナンド。俺たちは----
「----終わったんじゃなかったのか?」
俺がフェラーリを出されてから。俺がF1を離れてから。
俺たちは少しばかり恋人の真似事をした時期があった。俺が赤いスーツを纏っていたとき。お互いの心境を一番理解できた相手で、同じ年にデビューして、気が付くといつも隣にいて。
付かず離れずの関係が心地よくて、忙しいGPウィークの空いてる時間をぬって身体を寄せ合った。
いい成績のときも、悪い成績のときも。フェルナンドとのセックスは優しいばかりのディヴィッドと違って、お互いが必死でそれが何だかお互いを満たしていた。
でも、フェルナンドが俺のシートに座ることになって。俺はこの世界にいったん見切りをつけた。
その時に終わったと思っていた、この関係は。
「…終わってない、終わらせたくないよ。だって俺のライバルはお前だけだし、俺は……」
抱き締められて、囁かれた。
「俺は、キミが好きだよ…やっぱり」
涙声のような声に、あの時の記憶がフラッシュバックする。途端に疼き始める正直すぎる自分の身体に顔が熱くなった。
沈黙し続ける俺に痺れをきらしたのか、フェルナンドが身体を離しておずおずと確かめるように見詰めてきた。
「…キミ、顔赤い」
「うるさい」
ニヤニヤしているフェルナンドに顔を見られないようこっちから抱きつくと、正しく太陽の国、スペイン人らしく情熱的に抱き締め返してくれた。
この身体の熱さ、彼の体臭、全てが懐かしく愛しいように思えて少しの間目を閉じた。
が、すっかり忘れていたことを思い出したのでポケットからiPhoneを探り、フェルナンドの肩越しにメールを打つ。
「え、ちょっと…この状態でお前何してんの」
「メール打ってる」
「そりゃ分かるよ!何でこの状況でそういうこと出来るの!相変わらずお前情緒が無さすぎるだろ!」
「うるっさいな…ディヴィッドにメール打ってんだよ、行けないって」
「だからって………え、何もう一回言って」
ガバッと顔を上げたフェルナンドは、まるで散歩前の犬みたいに嬉しそうな顔をしていた。
「言わない」
「いや、俺の聞き間違いかもしれないじゃん、ディヴィッドに行けないってメールするって言ったの」
「聞こえてるじゃねえか…」
メールをちょうど送信し終えると、見計らったようにフェルナンドの厚めの唇が薄めの俺のそれと重なった。
さっきのような掠めるようなキスではなく、あの時のような…所謂、恋人同士のようなキスだった。
「なぁ、それってそういう意味だよな?」
「どういう意味だよ」
「ディヴィッドじゃなくて、俺といてくれるってことだよな?」
俺の手を握ってくるフェルナンドは必死で、でも心底嬉しそうな顔をしていて、あの時のように何だかよく分からないあまずっぱい気持ちになった俺は思わずぶっきらぼうに返してしまった。
「美味い酒用意しないと即帰るからな」
ベルギーで一番美味い酒を用意する、と絶対する、と言いながらフェルナンドは手を繋いだままモーターホームの奥から出ようとするから、慌てて後でホテルで落ち合おうと言うはめになった。
手を繋いで元チャンピオン同士が歩いてたら、マスコミが寄ってたかって最高に笑える記事を書いてくれるに違いない。
じゃあ先にホテルに行ってるから、絶対来いよ、来なかったらモンツァまで毎日恨みの電話するからな!と変な脅され方をして、フェルナンドは足早にサーキットを出ていった。後ろに待ち構えた大量のマスコミを引き連れて。
その後ろ姿を見ながら、くすぐったいような気がして唇に指をあてる。情熱的に吸われたせいか、そこは熱を持っていた。
らしくもなく動悸が早まるのを誤魔化すように、俺もサーキットのゲートへと走り出した。端からはマスコミに捕まりたくないように見えるだろう。
手に持っていたiPhoneが震えたが、それは明日の朝確認することにした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
シャンパンまみれのジャケットを着替えてwktkして待ってた先生が一番不憫。

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