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果てなき世界へ(R)

 てっきり、因縁つけられてボコられるのかと思った。木屋町とかで歌ってたら、実際、たまにそういうことあるし。百八十五もあって、ちょっと着崩れた黒いスーツに真っ赤なネクタイ、なんてカッコのイケメンに、いきなり目の前に立たれたらなあ。あの時の矢部さん、どう見てもヤ(ryにしか見えなかったもん。今でも見えないけど。
 それが、垢抜けしない埃だらけの街宣車に乗って、憲法九条を守れとか、学費を無償にとか、働くルールを確立せよとか、若者に仕事をとか、弱い者いじめの政治やめよとか国に向かって訴えるのが仕事だっていうんだから、かなり笑える話だ。後で聞いた所によると、全国に三十二万人もいる一般のボランティア党員(?)とは違って、その政党から給料を貰って働く「専従」ってやつらしい。
 「まあ、そういうわけやから、興味があったら連絡してきてくれ」
 その変な「選挙の人」はにっこり笑って、ビラを置いて行った。たまたま名刺を切らしてたとかで、ビラの隅っこにサラサラと連絡先を書いていってくれた。細くて長い指先と、ナイフのような横顔で。
 それまで、あんまり政治とか選挙とか興味なかった。ミュージシャンとして、「ラブ&ピース」のメッセージは常に発信していきたいと思っていたけど、不思議なことに、それが有権者としてこの国の行く末に誠実な関心を持って、一票を入れるということとリンクしていなかったんだと思う。
 渡されたビラをうちに帰ってよく読んだ。難しくてよくわからない所とかあったけど、他の候補者や政党の意見もよく見聞きして、今回は投票に行こうと思った。
 そして、このビラをくれた矢部さんという人が、強い印象として残った。


 

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