K76星
更新日: 2013-02-24 (日) 18:11:29
売る虎・獅子虎兄弟+零
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「…っ…!」
零は岩壁にしたたかに叩き付けられ、背中を預けたままずるずると崩れ落ちた。
獅子は零に打ち込んだ拳をそのまま、少し様子を見ていたが、零が立ち上がる気配が無いのを見てゆっくりと拳を下ろした。
「よし、休憩だ」
そう言い残すと、獅子は空を見上げ、両手を高く上げて飛び去った。
その後姿を睨みながら、零は呟いた。
「くそっ、こいつが無ければ、あんな奴…!」
テクタ―・ギアに覆われた拳を握り締める。
師匠だって? 訓練だって? 売る虎の星を追われた今、そんなものが何の役に立つってんだ!?
傍らに誰かの気配を感じて零は顔を上げた。
「今度はあんたか」
明日虎の顔を見て、零はうんざりしたように言った。
「怪我は無いか?」
「ねぇよ。こいつのおかげでな」
皮肉たっぷりにテクタ―・ギアに覆われた手を振ってみせる。
「いっその事、ぶち殺してもらいたいもんだ。これじゃ生殺しもいいとこだぜ」
「そんな事を言うな。これはお前を鍛える為の訓練だ」
「俺は売る虎の星を追放されたんだ。もう売る虎戦士じゃない。いくら鍛えたって意味ねぇよ」
投げやりな零の態度に、明日虎は溜息をついた。意味はある。だが、まだ彼にそれを伝える時ではない。
「お前には、まだ戻る場所がある」
明日虎の言葉に、零が声を荒げた。
「戻る場所? ふざけんな! 俺は追放されたんだ! 邪魔者の犯罪者だから追っ払われたんだ! 今更どの面下げて戻れってんだ!?」
そう、彼は“追放”されたのだ。故郷が“滅亡”したのではない…
明日虎の表情が曇る。
心の奥底に封じ込めた忌まわしい記憶に、綻びが生じる………
光の差さない牢獄。足枷と鎖。屈辱にまみれ、強いられた服従。自分を取り囲む下卑た嘲笑。
――いい声で啼くようになったじゃねぇか、王子様よ?
――そろそろ味を覚えてきたようだな
――感謝しろよ、俺達がたっぷり可愛がってやったおかげだぜ?
――これからも犯りまくってやるからな。どうだ、嬉しいだろう?
――そうそう、お前にはもう帰る故郷(ほし)なんかねぇんだからよ
――俺達が木っ端微塵にしてやったもんな、クックック…
また伸びてくる幾つもの手。
無理矢理体を開かせられ、そして…
「止 め ろ !!!!!」
「…何だ?」
怪訝そうな零の声に、はっと我に返る。
「いや…何でもない」
胸の裡に湧き上がるおぞましさを辛うじて嚥み下し、明日虎は顔を背ける。
「なあ…前から気になってたんだけど」
零が口を開く。
「左足のそれ、一体何なんだ?」
「!!」
何気ない零の言葉が、明日虎の胸を鋭く抉った。
マグマ/チック/チェーン… 囚われの日々の、消せない証。
これがある故に、獅子が生きていると知らされた後も、会う事を長くためらった。
そして漸く再会した時、獅子はこれについて何も聞かなかった。聞かずとも悟っていた。
獅子は只明日虎を抱き締め、唇を噛み締めて涙を流し続けた。
長い沈黙の後、明日虎は低い声で答えた。
「烙印だ」
「はぁ?」
「俺は一生、これを背負って生き続ける」
「…訳分からねぇ」
呟く零の脳裏には、獅子に同じ質問をした時の記憶が甦っていた。
問うた言葉が終わるか終わらぬかのうちに、いつもの“訓練”のそれとは明らかに違う、凄まじい一撃を食らった。
「その事は…二度と言うな!!」
そう言う獅子の拳と唇が震えているのを、零は確かに見た。
さすがの零も、この時ばかりは返す言葉が無かった。
後悔――その感情を、零は認めようとしなかったが、小さな痛む棘となって心に残った。
ふと、明日虎が顔を上げた。
「獅子兄さんだ」
その目線の先、空の彼方から飛んで来る影を、零も認めた。
「またかよ…」
吐き捨てるように言って、零は立ち上がった。
「零」
明日虎が言った。
「お前は、苦しみを力に代える事が出来る。今の過酷な日々に意味があると分かる時が、きっと来る」
「そいつはどうも」
言い捨てて、零は地に降り立った獅子の方へ歩いていく。
今の零には、明日虎の言葉の意味を、獅子と明日虎の苦悩を全て理解する事は出来ない。
いつかそれを知った時、零は真の「光の戦士」になるのだろう。
明日虎は対峙する零と獅子に背を向け、K76星を後にした。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
初投下です。お眼汚し失礼しました。
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