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雪の蛍

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

九曲長神R 田和場×登坂

寒くて目が覚めた。まだ部屋は暗い。腕を伸ばして眼鏡を探すと一気に鳥肌がたった。
体を起こすとくわえタバコで外を眺める田和場さんが見えた。窓が開いている。
なるほど寒いわけだと合点して、そこらに脱ぎ散らかされた服を引き寄せた。
「寒かったか」
窓枠で灰を落としながら田和場さんが尋ねる。
「たうぜんです」
トレーナーをかぶりながら不機嫌に答えたが、田和場さんはそうか、と言うだけで謝るそぶりも見せない。
そういう人だから仕方ないと思いつつも体は冷えていた。
ひとつ身震いして、田和場さんのジャケットを 羽織ると開いている窓に近づいた。
田和場さんの頭越しに外を覗くと、いつの間にか街の屋根屋根はすべて雪化粧してい た。
曇り空と雪のせいで、夜だというのにぼんやり明るく見える。
「積もりましたね」
この景色を見ていたのか、と考えながらもどうでもいいようなことしか言えなかった。
田和場さんのタバコの火が蛍のように明滅した。
「どうにも画にならんよなあ」
両手の親指と人差し指でフレームを作りながら先輩はぼやいた。
高い屋根や低い屋根 がひしめく住宅街、たわんだ電線からは風が吹くたびに雪がこぼれた。
「田和場さんは人物写真の方が得意ですもんね」
田和場さんは難しい顔をして景色を睨み付けている。長く伸びた灰が窓枠の雪の上に落ちた。
「ただ、この先避けてばかりはいられんからなあ」
この先、という言葉になぜだかどきっとした。
映画を観たあとにぱっと劇場の電気がついたような、そんな味気なさを感じなが ら先輩の後頭部を見つめた。
頭越しに見える景色も、どうにもならないものだった。とりたてて興味を引くものもない。
ただ、部屋が冷えきるのも厭わずにこのつまらない風景を眺めていたこの人の胸中は気にになった。
田和場さんは立ち上がり、ひとつ伸びをすると寒そうに窓を閉めた。風雪がガラスを叩き、部屋はいよいよ冷え込んだ。

「こりゃあますます積もるな」
小さくなったタバコを灰皿で揉み消しながら田和場さんは呟いた。
一台の車が窓の外を横切り、地面に轍を残した。風がやみ、雪はますます眺めを白くする。
「では、明日になったら雪合戦をしましゃう。曲木にすごい雪玉を投げさせさえすれ ば、我々の大勝利です」
中指を立てて提案すると田和場さんは、
「お前はなにと戦っているんだ」
と、呆れ顔で言った。

雪は夜のうちに雨に変わり、結局雪合戦は出来なかった。どこも等しく白く染めぬい てきた雪は煤や泥の混ざったぬかるみになっていた。
本当にたった一夜のことだった。田和場さんの家から見たあの雪景色は、昼間の相貌すら私に教えることなく消えた。
その後田和場さんはあの家を引き払い、私も足が遠退いたこともあいまって、二度とあの風景を見ることはなかった。
どう切り取ったところで感動のない風景だった。けれど、毎年雪が降る季節になる と必ず、あの雪の日の窓際でタバコの火を明滅させていた彼の頭越しの雪景色が目の前にちらついてしまう。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • 素敵なものを読ませていただきました! -- 2013-06-26 (水) 20:09:15

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