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はごろも

これまた立て続けになって申し訳ありません。
ちょっとした小話。
某超次元サッカー。究極厨→三流さんで。まだ三流さんが敵勢力だったころ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「かえしてくれ」
薄墨を刷いたようにほの暗い空間に、声が波紋のように響いた。
さあさあと小雨の音が体に染みていくようだ。
「それはおれのだ」
正直、引っ込みがつかなくなっていただけだった。自分にとってさして価値のあるものではないし、
ただの落とし物だとわかれば捨ててしまえるような古ぼけた、ただのリストバンドでしかない。
年代の古い日本代表のエンブレムは経年の流れに耐えかね、その姿を消そうとしている。
「まるで俺が盗んだみたいな言い方だな。拾ってやらなきゃいずれゴミになってたぞ」
試している。「これ」がどれだけこいつにとって価値があるものなのかを知らなければ交渉もおぼつかないではないか。
「そういう意味で言ったんじゃない。誤解するな」
意外だった。思いっきり威嚇を飛ばしてくるのではないかと身構えていたが、
下手に出る不快さよりも落とし物を取り戻す方が重要度が上らしい。
つい遊んでみたくなった。
半開きになっていた窓から腕を出す。煩わしいと思うほどには雨は掛からない。
「これをおまえに返してやったとしたら、俺は何を得するのか教えてくれ」
本気ではない。頭のひとつでも下げれば茶化して渡してやるつもりだった。

しん、とした。
雨の音だけがわずかな救いのように続く。勢いはこころなしか薄らいでいる。
「正直言っておまえに得はない。が、おれは取り返さなくちゃいけない。それだけだ」
馬鹿正直に。これだから三流は。嘘でもおべっかを使っておけばいいものを。
そう思うものの、もしもこいつがそんなことをすれば自分は許すどころか軽蔑することを既に知っていた。
『 興が醒めた 』
心の内か。外に声として出したか。
「いらん、やる」
「返してくれるのか」
手を窓の内側に入れた。
目の前に伸びてくる白い腕。
「おい、いいのか」
「なにが」
「かえしてやると言ったのが嘘で、今から俺が思いっきり外に放り投げたらどうなる」
「考えてもみなかった」
「考えろ」
「計算しててもそれは返ってこないだろ。だったら手を出したほうが生産的だ」
それほどまでに大事か。リストバンドの内側に書かれた種類の違う幼い文字が目ににじむ。
「ありがとう」
初めてこいつに面と向かって言葉を送られた気がする。なんだこの浮かれたような寂しいような言いようのない感情は。
「雨が上がりそうだ」
練習が再開される。そう言うが早いか駆け出したのはこれ以上正面から顔を見られたくなかったからだ。

こんな時に限って神は怒濤のようにいたずらを仕掛けてくる。
同チームでツートップ。必殺技以外のシュートは得点が無効というルールを引っさげ、ミニゲームは幕を開けた。

点を取ったらその時点でゲームセット。極めてシンプルなルールのもとでは、展開はしばしば熾烈を極める。
特に、常に目を引く活躍を見せる者には人海戦術といえばいいのか、マークがきつい。
なかなかゴールへの道筋が書けない。意思疎通がストレスなくできるフォワードがいれば、と現実逃避が頭をよぎった頃。

「白竜!こっちだ」

停滞を剣が切り裂いたかのようだった。頭はからだよりも鈍かった。
戸惑いながらの蹴りをあらわすかのように勢いを持たずに浮いたボールはそれでも目的地へと着いた。
「おまえも上がれ!」
あまりにも予想しなかった展開に、周囲も頭が置いてけぼりを喰らったようであった。
いつも反目していた「あのふたり」が。
共鳴している。同じ次元で、同じ世界を共有していた。
今、この瞬間同じものを見、同じものを考えている。この瞬間、だけ。
翼が生えるとはこんな気分なのだろうか。自由に空を飛ぶとはこんな心地だろうか。
地を蹴ったのは同時だった。
白・黒。ふたつの渦が回転し、激しく周囲を巻き込んでゆく。
空に残っていた雲すら吹き飛ばせるのではと思った。

ゴールネットが揺れた瞬間、自分が地に戻った事を知った。
一瞬襲う絶望。そしてそれを踏襲する歓喜。
普段は競争相手としてしか互いを見ていなかったチームメイトが駆け寄ってくる。
一番、反応を見たい相手を探した。

どうやら真顔に戻るところを、一瞬だけ早くとらえたらしい。
あんなにやわらかい表情を初めて見た。あどけなさとは、嶮の鎧に隠されていた。
こちらの動揺に気がついたのか、あいつはすぐに挑むような、
だが仇ではなく好敵手を見る目で強い視線を投げかける。
『また、この瞬間を』
もういちど、共有できたらいい―。
それが伝わったかどうかはわからないが、心が融和したあの一瞬を、忘れることはない。そう思っても許される気がした。

互いに立場というものがあるのだ。視線を逸らす。
雨上がりの青を刷いた空には、風に吹かれる衣のように虹がうっすらと掛かっていた。

夜。気分の高ぶりが収まらないまま、逸るからだを布団に押し込めて。
明日はなんて声をかけようか。どんなプレイをしようか。
昼間に浮かんだ言の葉が闇を舞う。

その夜、剣城はゴッドエデンを出奔した―。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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