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たいせつなひと

半生・現行月九の新社長×元社長で新社長視点・7話冒頭周辺の話で801成分は低め
新社長が理想のヤンデレすぎて毎週ハァハァしているものの規制で全く801板に書き込めなくてつらいのでむしゃくしゃしてやった
棚への投稿は数年ぶりゆえ、お見苦しい点がありましたら申し訳ありませぬ

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

久しぶりに寄って行かないか、と大切な人が言った。
だからああ、とだけ答えた。

「うっわ、本当に久しぶりだなこの家」
「だろ?」
「妹がこっち帰ってきた時以来じゃないか?」
「ばたばたしてたからな」
そう言いながら苦笑する横顔を見つめる。
きっと彼はまだはっきりと自覚してはいないのだろう。
奈津井誠。彼女の言葉で、行動で、心で、自身がどれだけ変わってきているのか。

一番間近で彼を見つめ続けてきた自分だから気づくのだ。そしてだからこそ、堪えられないのだ。
心の奥底に渦を巻くこれは憧れか羨望か、それともどす黒い嫉妬の心か。
目の前の男の持つ天賦の才への。
その男を刺激し、いとも容易く変えてしまう無垢で愛らしい天使への。
果たして日優雅に変わってほしくなかったのか。
それとも彼を変えられるのは自分しかいないとでも思い上がっていたのか。
今はもう、わからない。
「でもよかった」
「何が」
日優雅が少し気まずそうに笑った。
「もう、お前とはこうやって話せないのかと思った」
まだ記憶に新しい。
株主総会の後に一戦を交えたという話は瞬く間に社内に広まり、かつてない剣呑な雰囲気を醸し出すツートップに社員たちも動揺を隠せない様子だった。
しかし一番こたえたのは何と言っても日優雅自身だろう。
多少の口論は今までに何度かあれど、そのやり方に真っ向から異を唱えたのは後にも先にもあれ一度きりだったのだから。
故意に酷い方法で傷つけた。一番彼の心を抉る言葉を選んで。
誰に何を言われても決して揺らがなかった日優雅が信じがたいほどに憔悴していたことを会いに行った妹から聞かされた。
自分の言葉がまだそれくらいの影響は与えられるのだと、暗く歪んだ悦びが湧き上がる。

『間違っていたのは俺だ。お前のやり方を疑った。ここはお前の会社だ』

その言葉を聞いた先ほどの日優雅の表情が脳裏を過ぎった。
自信を取り戻したその顔は間違いなく自分の惚れ込んだ日優雅透そのものだった。
今までならその言葉に一片の嘘偽りもなかっただろう。
いや、今だって嘘を言っているつもりはないのだ。その証拠に日優雅は自分の言葉をただの少しも疑うことはない。
けれど確実に、自分の中では、何かが恐ろしい勢いで変質している。
もう自分でも制御できないほどに。
何が嘘で、何が本当なのか。
ただはっきりしていることはこの関係があと少しで終わるということ。他でもないこの手で終わらせるのだということ。
その時が来たら、ああ。彼はどんな顔をするだろうか。
「何言ってる。何年付き合ってると思ってるんだ」
隣に立つ日優雅の肩を抱いて諭すように力強く微笑んでみせる。
「そう簡単にお前を見捨てるわけないだろう?」
日優雅が、心から安堵した風情で笑った。

「さ、落ち着いたら少し寝ろ」
シャワーを浴びた日優雅が、まだ髪から透明な雫を滴らせたまま振り返った。
寝室の方向を顎で指し示しながら再び促す。

「ろくに寝てないんだろう」
「僕は大丈夫だ、それを言うなら浅雛だって」
「俺のことはいいから」
「…帰るのか?」
「お前が傍にいてほしけりゃいてやるよ、だから寝ろ。今は社長が体調を崩していい時じゃない。これから大事な謝罪会見だってあるんだからな」
心許ない顔をする日優雅に柔和な微笑を浮かべながらそう囁いてやる。
「…ん」
彼がこくりと頷いた。自信家で尊大な天才、世間が抱く彼の印象からはとても想像できないほど素直で繊細な素振り。
ああ。お前は本当に子どもみたいだよ。いい意味でも。…悪い意味でも。
幼い子をあやすようにぽんぽん、と。指の先が僅かに濡れた。
寝台に腰掛け、横になる日優雅を見下ろす。足をばたつかせながら寝転がる姿が過ぎた昔を彷彿とさせた。
「お前、昔オフィスでよく寝ちゃってたよなあ」
「…そうだったか?」
「おいおい、俺が何回毛布かけてやったと思ってるんだよ」
肩を竦めて返すと日優雅がふふっと笑う。
「冗談だ。忘れるわけないだろう、あの頃のこと」
もともと体力のなかった日優雅は創業当時、慣れない作業に疲れて寝てしまうことがよくあった。
大好きなプログラムを組んでいる時は時間どころか寝食すらも忘れて没頭するくせに。
全く勝手なやつだ。それとも天才って皆こんなものなのか。
そう思いながらも、その無防備な寝顔からついつい目が離せなくて気がつけば日が暮れていたりして。

規則的にキーボードを叩く音がふっと途切れる瞬間が変に待ち遠しく思えたりして。
一人、また一人と社員が増えるにしたがってそんな二人きりの緩やかな時間を持つことも次第に減っていったように思う。
今はもう何もかも、懐かしく思い出されるだけだ。
「あさ、ひな」
「ん?」
「……僕…は…」
声はそこで途切れ。言葉を返す代わりに、二、三度布団をさすってやる。
枕に顔を埋め、すぐに穏やかな寝息を立て始めた大切な人の髪にそっと触れた。
出会った時に人生を捧げたつもりでいた。
恋人が出来ても、伴侶を娶っても、何があっても、この後の一生はずっとこの男の隣で歩んでいくのだとそれだけは不思議と信じて疑わなかった。
きっと、互いに。
「…そうだ」
どれほど彼の外見が変わっても。どれほど自分の中身が変わってしまっても。
柔らかい髪の手触りは初めて出会った8年前のそのままで。
8年間。気づけば、あの頃の自分の年齢を彼が通り越していた。長いようであっという間だった甘い甘い蜜月。
甘く熟したその実は既に腐る時を待つだけだったのかもしれない。
「簡単じゃないんだよ、透」
どこでボタンを掛け違えたのか知れない。
それでももう自分は、この道をゆくと決めたのだ。
彼を切り捨てるその刃の先が鈍く輝く諸刃だと心のどこかで気づいていたとしても。
賽は投げられた―――もう引き返すことは叶わない。

「…簡単じゃ、ないんだ」
そうひとりごちながら。
浅雛康介は、誰よりも大切だった人の頭を静かに撫でた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

8話予告の「誰よりも日優雅さんのこと大切に思ってたでしょ!?」発言に滾ってしょうがなくてつい
毎週毎週公式が妄想の遥か斜め上をいってくれるので大変ですwwヒロインが妹より兄を恋のライバル扱い吹いたww
実は浅雛さんが真っ白エンドとか、なさそうだけど、そういう意味でも今しか書けないものを…みんなしあわせになーれ
お読み下さった方がいらしたらありがとうございました!


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