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夏目異聞

夏目友人帖『代答』より 妖×夏目 ほんのりエロ有り
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

『本当の事を話してくれて ありがとう』
俺がその手紙に書いてあった言葉を読み上げると、ヨビコは緊張の糸が切れた様に、その場へがくりと膝をついた。
俯いたヨビコの顔に掛かった面の隙間から、ほろほろと涙が零れ落ちた。
どんな恨みも怒りも受け止めると覚悟して。でも、実は、とうの昔に許されていた事への安堵の涙。

声も無く、うずくまって静かに泣き続けるその姿に、掛ける言葉が見つからなくて、俺はふと空を仰いだ。
夕暮れの迫る曇天の空から、白いものがふわりふわりと舞い落ちてきている。
「おい、早く―――」
帰らないと雪になるぞ、と、視線を落として話しかけようとした俺は、最後まで言葉を繋げなかった。
いつの間にか、ヨビコが、ばったりと地面に伏していたからだ。

「ね……寝てるーーーっ!!」
衝撃の事実を確認して、蒼白になる俺。
いくら妖怪とはいえ、もうすぐ日が暮れて、雪も降りだした道端に、放って帰るわけにはいかず。
俺は、先生に頼み込んで、ヨビコと共にその背に乗せてもらい、俺の部屋まで帰ってきた。

部屋の片隅へ、ごろりとかなり乱暴に先生の背中から振り落とされても、ヨビコは眠り続けていた。
「人里に下りるだけで、消耗する妖もいるからな」
そんな先生の言葉が脳裏をよぎる。
今回の事で、ヨビコも、かなり無理をしてきたのだろう。
朝まで寝かせておいてやろうと、俺はその体に毛布をかけてやって、そっと部屋を出た。

その夜、また夢を見た。
それは、遠い日々の事なのに、いまだ鮮やかなヨビコの記憶。
秋の陽だまりの中で、幸せそうに微笑む女性。くるくると落ち葉が舞う中で、ゆれる笑顔。
しかし、いつしか、それは、ヨビコに向って笑いかける俺自身の姿になっていた。

どきん、と、自分の鼓動が一際大きく聞こえて、俺は目を覚ました。
まだ完全には覚醒していない意識の中で、ふと傍らに気配を感じた。
「ヨビコ?」
俺がそう声を掛けたのと、彼が俺に覆いかぶさってきたのは、ほぼ同時だった。

―――襲われる?!
俺は咄嗟に身を硬くした。やはりこいつは友人帖を狙っていたのか?
すばやく自称用心棒のニャンコ先生を目で探したものの、部屋には俺とヨビコの二人きりのようだった。
―――どうする?…………え?!
善後策を考え始めた俺の頭が混乱する。
俺に襲い掛かってきたヨビコは、しかしこちらへ攻撃する事も無く。
ただ、俺の体をその両腕で、強く抱きしめたから。

俺は、ヨビコの次の動きに備えて身構えたまま動けない。
そして、彼は俺を抱きしめたまま、動こうとはしない。
危害を加える気配が無い事を感じ取った俺は、緊張を解いた。

「……、夏目殿…っ…」
抱きしめられて、息苦しい俺よりも、苦しそうな声でヨビコが俺を呼ぶ。
「頼みが、ある」
「なんだ?」
「初めてお会いした時のように、私を殴って止めてくだされ」
「……無理だよ」
強く強く、でもこの上なく優しく抱きしめられて、あらがう術などありはしない。

俺は、ヨビコの背に両手を回して、そっと抱き返した。
すると今度は、ヨビコの方がびくりと身を震わせる。
「いけません、夏目殿」
「なにが?」
「人と妖が……、交わっては……」
苦しげに搾り出すような声。でも、俺を抱きしめる腕はほどかない。
「なら、なんでお前は俺の上に乗ってるんだ」

「それは……」
答えに窮してヨビコは黙り込む。

「俺を彼女の身代わりにする気なら、許さない」
「そんな事はしない!」
きっぱりと言い切った俺の言葉に被せる様に、ヨビコもきっぱりと言い切った。
「わかってるよ」
俺は、自分を組み敷しくヨビコを見上げながら言った。

そう、わかってるんだ。
さっきまで見ていた夢。その中で、俺はヨビコの心に同調していたから。
笑顔の女性に向けられた想いは、甘くせつなく、それは間違いなく恋心だった。
でも、その笑顔の主が俺に代わっても、向けられる想いは変わることなく。
それどころか、よりいっそう強く、俺の心を締め付けた。
この、胸を指すような痛みには覚えがあった。俺がヨビコの事を思うときに感じる痛み。

この気持ちは、ヨビコの記憶や、あの手紙に残されていた想いに引きずられているのかもしれないけれど。

ヨビコが俺を守ってくれた時、とても嬉しかった。
俺をかばう背中が、とても頼もしく、俺を守る腕がとても温かかった。
ヨビコが俺に触れるたび、自分の鼓動が、少しずつ早くなっていくのが、不思議だった。
でも、あの夢で、妖の心に触れて、わかったんだ。
この胸の高鳴りを「ときめき」と呼ぶのなら、今、俺はお前に「恋」をしているのだと。

俺が幼い頃から、周りの人間は俺を避けていたし、俺も、なるべく他人を避けて暮らしていた。
こんな俺には、恋愛なんかできないだろうと思っていたのに。

でも、確かに、これは俺自身の気持ちなんだ。
俺自身の「恋」なんだ。

「だから、いいんだ」
そう言いながら、俺はヨビコの背に置いていた腕をするりと抜いて、両手を彼の顔の横へと回した。
そして、両手でそこに付いている面を少しずらした。
面の下には、壮年を思わせる精悍なあごと、引き締まった唇。
俺は、少し頭を上げて、その唇にそっと口付けた。

「……夏目…っ!」
どこか泣き出しそうな声で、ヨビコが俺の名を呼んだ。
そこから先は、激しい想いの波に、俺も妖も、ただ翻弄されていくだけだった。

愛おしい、愛おしい、愛おしい。

この想いが、どこから湧いてくるのか、わからない。
わからないが、それは、眩暈がするほどの熱さで、俺の全身を巡っていく。
そしてまた、俺を抱きしめる妖からも、この体に際限なく降り注ぐ。

俺の肌をすべるその指先からも―――愛おしい、と。
上気する体を舐め上げ、時に啄ばむその唇からも―――愛おしい、と。
そして、なによりも、俺の中で熱く息づく妖の昂ぶりからも――――――。

お互いに想い合いながらも、結ばれなかった恋人たちの想いが重なって。
たとえ、一夜の夢だとしても、この想いに流されて行く事は、とてもとても幸せだった。

翌朝。
部屋には、もうヨビコの姿は無く、ただ黄色く色づいた小さな葉が、数枚畳の上に残されていた。
俺は、そのうちの一枚を手にとって、そっと、そっと口付けた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
CSのアニメ再放送を見て、なんか滾ったのでつい。
お目汚し、失礼しました。


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