彼方まで
更新日: 2012-05-20 (日) 06:52:37
ナマ注意、微エロ有り。
元青心・高低、現原人バンド唄×六弦です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
彼が大好きな季節は、彼や僕が生まれた季節とは正反対だ。強い日差しが降り注ぎ、
身を竦める事も全くない、あっけらかんと開放的で、生き物達もいちばん活動的に
なる、そんな夏。
寒い時期はよく風邪を拗らせてへろへろな彼が、子供みたいに活き活きしている、
素敵な暑い季節。
入道雲、熱で揺らめく空気、突然の夕立、熱帯夜に花火。
アイスキャンディ。
――海を見に行こうぜ
オフで特にやる事もなかったある日、思い付きのような彼の一言で、僕と彼は大した
荷物も持たずにオートバイ一台で海にやって来た。
彼が運転して、僕はその後ろに乗って。幾らかは安全運転してくれたんだろうけど、
羊の皮を被った狼とかつて言われたらしい彼のスピードはまるで風と競争している
ような軽快さで、街中も山道もビュンビュンと駆け抜けていった。
視界が開けて、真っ青な海と空が現れた。海水浴客が思い思いに楽しんでいる。
子供達が水飛沫をあげている。
僕らは海岸線をぶっ飛ばして、どこまでも青い景色を追走して、時々馬鹿みたいに
歓声を風に投げた。
砂浜に降りて、裸足の裏に感じる砂の熱さが心地良かった。
僕が砂浜に座り込んでも彼はまだまだ元気で、波打ち際に立ちながら大きく伸びを
している。
「海は良いなあー」
なんて、今更ご機嫌な事を言いながら。
僕は水着姿の可愛い女の子達をチラチラ見ながらも、そんな彼から目が離せない。
ジーンズを捲り上げたむき出しの脚はやたら白くて、このまま日焼けしたら後で
痛くなっちゃうだろうなあ。サングラスなんかしてスカしてるけど、絶対頬っぺた
だけ赤くなって、後で面白い顔になるんだろうなあ。
結局、僕らは海辺でひとしきり楽しみ、冷たい蕎麦を食べた後近くの安宿に素泊まり
することにした。
早い時間に風呂を済ませて浴衣を羽織り、一階にある売店で愛想の悪いオバさんから
ビールとつまみを買った。
部屋のテレビは、百円入れないと点かないやつだった。
窓から見える景色は特に良くもなかったけど、西陽が反射して煙ったように淡く広が
って入ってくる光は、ああ夏の夕方なんだなあと思わせてくれた。
僕らはテレビの音を流しっ放しにしながら、色んな話をした。
殆どはビー×ルズ、ス×ーンズ、ピス×ルズ…好きな音楽の事。これまで何度だって
話した事だけど、何度でも良いんだ。だって、今話している楽しさは、今しかないん
だもの。
ふと彼は部屋から出ていった。トイレかなあと思いながら、僕は畳に寝転がって、
テレビに目をやる。CMで、誰かがカバーして唄うビー×ルズの曲が流れてきた。
彼らが唄うのが最高なのに…僕はオリジナルを頭の中で浮かべて、チャンネルを
変えた。
暫くして帰って来た彼は、口に何かを咥えていた。
「あ、マー××、いいなあ」
ミルク色の、アイスキャンディ。
「ねえ、僕の分は?」
「ん?ない。だって、俺あんま金持ってねーもん」
「ずるいよ!僕が何か買う時はいつもマー××の分も買ってんのに」
「おまえはおまえ。俺は俺」
なんて大人げないんだ。彼は僕に見向きもせず、窓に向かって足を畳に投げ出した。
僕は、美味しそうにアイスキャンディを咥える彼の横に転がって覗き込んでやる。
一口くらい、くれるでしょ?そう嫌がらせのように見つめてみても、彼はそ知らぬ顔だ。
今日最後の光が、彼を照らしている。髪や頬の産毛が光に透けて、キラキラしている。
透き通った茶色の目が眩しそうに細められて、冷たいアイスキャンディが、触れた唇
から融けだしている。
微妙に着崩れた浴衣の首筋には汗が浮いていて、窓から吹いてくる生温い風はそれを
冷やしているのか、逆に煽っているのか。
ただ、間違いなく言えるのは、彼と夏の夕暮れのこの瞬間があまりにも似合っている
という事だけだ。
彼はじっと何を考えているのだろう、その眼差しは淡い光の先、まっすぐ遠くを見つめ
ていた。
最後の光が窓から去って、そろそろ灯りを点けないとすぐに夜が来てしまう。
僕はいつの間にかアイスキャンディより彼に見惚れていた事に気付いて、何だか名残惜
しい気持ちで身体を起こした。
「ヒ××ー」
そんな時だ、やっと彼が僕に目を向けてくれた。
まだ半分近く残っているアイスキャンディを、唇に触れさせたまま。
薄暗がりの中、殆ど雑音になってしまっていたテレビを無造作に消して。
訝しんでいるような口調で、挑発めいた瞳で、それでいて優しい唇で。
「食べたけりゃさ、食べれば良いじゃん…」
「‥‥‥」
何なんだろうか、この人は。
ちょっと、自由過ぎやしないか。僕はきっと彼の事をまだまだ知らなさ過ぎる。
彼は、そんな僕に時々答えだけを放っていくんだ。理由付けなどせずに。
「いいの?食べても」
僕が顔を近付けて聞くと、彼はうん、と素直に頷いた。
僕は、アイスキャンディの棒を持つ彼の手に自分の手を重ねて、冷たく甘い感触を求めて
歯を立てた。
僕と彼の間でアイスキャンディが融けていく。冷たくて、濃い甘みが舌に纏わり付く。
欲しい、もっと。
あっという間に形を失くしてしまったアイスキャンディ。最後の一口を齧った彼の唇から、
融けたミルクが伝い落ちる。
僕はそれを舐め取って、そのまま彼の唇を割って舌を差し入れる。
「は…ァ、ん、…っ」
甘い、甘いキスを続ける。彼の頬がとても熱いのは、日に焼けたせいか、今のせいか。
アイスキャンディの棒切れが、彼の手から零れて畳に転がった。
せっかくひんやりしていた唇は、嘘のようにもう火照って。
肌蹴させた身体を掻き抱く。
夏の風は身体に温く絡み付き、汗と混じり合う。
まだ、宵の口に踏み込んだばかりなのに。窓の外ではまだまだ人々の賑やかな話し声が
聞こえているのに。
遠くから波の音がしている。
ねえ、君。ねえ、マー××。
昼間の子供のように無邪気な君が脳裏に浮かぶ。明るい日差しの中で笑っていた君は、
物思いに耽る夕暮れを越えて、今暗がりの中、僕の身体の下で僕の動くまま、妖艶に
鳴く。
全部が現実なのに、全部が別物のよう。沢山のものを見た筈なのに、夢の中の出来事
みたいに儚く過ぎていく、感覚。
君の好きな夏と、君が重なる。
消えないで。もっと、ずっと僕と繋がっていて。
明日、また陽が昇ったらオートバイに乗って笑って行こうよ。
深く、君を穿つ。僕は不安そうな顔をしていたのだろうか、君は途切れ途切れの息遣い
で、僕の名前を何度も呼んだ。僕の背中に腕を絡めて、全部受け入れてくれる優しい
目をしたまま。
僕は吸い寄せられるように君に口付けた。
今だけは、どうしようもなく一つに融け合ってしまいたい、その感覚を忘れたくない、
色んなものが過ぎ去っても、君とだけは。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- 二人がかわいすぎです -- 2012-05-20 (日) 06:52:37
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