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ドーナツは今日も凍る

難局シェフ。半生注意です。
新設定のモトさん×仁志村で仁志村からの矢印強め。
イチャイチャしてますが本番はなし。

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

マイナス50度を下回る凍てついた空気が振動している。
分厚い氷床を掘り進むドリルの唸りが狭い掘削場にこだまして、二人が立てる濡れた音は都合よくかき消されている。

学者然とした風貌からは想像できない情熱的なキスに仁志村は夢中になっていた。
外気が寒すぎるせいか、絡み合う舌も交わされる息も熱い。
顔の角度が変わるたび、モトさんのセイウチのような髭が口の周りにちくちくと当たる。
そういえば、水族館で見た牙のないセイウチと目を剥いたモトさんの表情はどことなく似ている気がする。
「ん、」
厚いグローブを付けたモトさんの手が、羽毛で膨れた防寒ズボンの上から仁志村を押す。
身じろぐ仁志村に構うことなく、強弱をつけいたずらに押し続ける。
下腹部へ与えられる鈍い快感に意識が霞みかけたところで突然解放された。
甲高いブザーが室内にこだましている。
「仁志村君」
いつの間に移動したのか、機械の反対側から神経質そうに眉を寄せこちらを睨んでいるモトさんに仁志村は我に返った。
「何ぼーっとしてんだよ、手伝いに来てるんだろ?早く来いよ」
「…はい」
何事もなかったかのようなそっけない態度に少し傷つく。
ふらつきながら椅子から立ち上がり、数千メートルの地中から引き上げられる掘削機に集中しようとしてみたが上手くいく筈もなかった。
今まで刺激を受けていたところに血液が集まって重く痺れる感覚を逃そうとため息を付く。
「上がるぞ」
真剣にウインチを操作するモトさんを見ているうちに、なぜこんなことになっているのかを考えるべきなのでは、とようやく仁志村は思い至った。

***

数時間前の早朝、仁志村はトイレか自己処理かで悩んでいた。
下腹部の自己主張をこのまま放置するという選択肢は、朝食が遅れる恐れから却下せざるを得ない。
まだ誰も起きてこないだろうからとりあえず用を足してみよう、と部屋を出たところでモトさんと遭遇した。
「わっ」
「おっ」
モトさんの目が仁志村の股間に吸い寄せられて、すぐに逸れた。
見られた。ああいい年をしてなんてことだ。
慌てて部屋に引き返す仁志村をモトさんが呼び止めた。
「仁志村君、どうするの」
ソレ、と顎で指し示す。
「どうするのって…なんとかします」
「それさ、俺がしてあげてもいいよ」
「は?」
起き抜けの浮腫んだ顔で寝癖だらけの頭を掻いている迫力満点のモトさんを唖然として見つめた。
「は、じゃなくてさ、聞いてなかったの」
ぎゅっとモトさんの目が険しくなる。目に見えて機嫌の悪くなる様子に仁志村は焦った。
「いや、あの、聞いてましたけど」
「で?」
「や、いいですいいです自分でやります」
「仁志村君、最適化ってなんだ?」
「え?」
「たとえば作業効率について考えたときにね、時間だけに重きを置くのか、質も求めるのかと問われればこれはもう自明の理だよね。
同一の作業をしている者が複数いたとするよね。相互協力することによって何が得られると思う?無論、他者との摩擦から生じるエラー、
つまり無駄もたくさんあるかもしれない。けれどその無駄から生まれるアイデアって言うのは結構馬鹿に出来ないんだよ。
そこから改善を試みる事によって質そのものの向上が見込まれるんだ。こういったことは最適化すればいいというものじゃない。
いや、最適化の概念そのものを考え直す必要があるかもしれないね。ここで言う最適化って言うのは、」

「えーとすいませんモトさん、それはどう言う…」
困惑する仁志村の肩をモトさんがぽんと叩いた。
「簡単に言えば一人より二人ってことだよ」

絶対無理と思っていたのに、モトさんの手は意外にふっくらと柔らかくてあっけなく達してしまった。
仁志村の精液を受けた手を広げてじっくりと観察し、
「たくさん出たね」
エビフライだからね、と全く同様の単調な口調だった。
久しぶりの快感と罪悪感と羞恥に大混乱した仁志村は、淡々とスウェットを脱ぐモトさんを呆然と見ていることしかできなかった。

そんなわけで、今日の朝食は結局時間通りに出せなくなった。

「仁志村さーん、お腹空いて死んじゃうよー」
「死んじゃう死んじゃうー」
食堂から新やんと凡の情けない声が聞こえてくる。
「仁志村さん珍しいね、寝坊?」
仁志村から人数分の茶碗を受け取った比良さんが、入れ違うドクタ.ーの横をすり抜けて厨房を出ていく。
「ほんと珍しいよね、仁志村君が寝坊って」
「なんか、昨日眠れなくて」
「へえ、仁志村君は結構図太そうだと思ってたんだけどなあ」
ドクタ.ーの興味深げな視線に仁志村はたじろいだ。
「昨日ドクタ.ーのとこで将棋したじゃない、あれで目が冴えちゃったのかも」
「ふうん、そっか」
ドクタ.ーが冷蔵庫からお茶の容器を取り出す。
「仁志村君さ、今日モトさんのこと見すぎだよね」
「えっ」
「さっき食堂ですごい見てたじゃない」
「そ、そう?」
ドクタ.ーの部屋は仁志村の向かいにある。まさか気付かれたのだろうか。
「またなんか言われたならあの人、口は悪いけど悪気はないからね。知ってると思うけど」
「…」
真意の読めないドクタ.ーの笑顔に、仁志村はまばたきすることしかできなかった。

***

削りだした氷を運び終えると仁志村にできる事は何もなくなった。
モトさんが丁寧に氷を扱う様子に、待機スペースから暫く見蕩れる。

難局の沿岸部にある庄和基地から1,000キロも離れたこの僻地に長く滞在するのはこの為だと言っても過言ではない。
大陸の上に降り積もった雪が何十万年もの間に押し固められてできた氷には、地球の過去も未来でさえも内包されていると聞いた。
氷のタイムカプセル。詳しい事はわからないけれど、その呼称に仁志村の気持ちも少なからず浮き立つ。

仁志村はなんとなく近寄りがたい雪氷学者のモトさんとの距離が、彼の誕生日を境に近くなったことを密かに喜んでいた。
思い切って肉を火達磨にしたローストビーフは最高の出来だったし、酔いの回ったモトさんからは切ないプライベートを聞くことも出来た。
あの日からまだ数日しかたっていないなんて信じられない。今朝のことも、さっきのキスも夢だったのではないかと思う。
「よし、と」
注意深く切断した氷の柱を注意深く定位置に収め、全ての作業を終えたモトさんが再び仁志村の横に戻ってきた。
「モトさん」
「ん?」
「モトさんてセイウチに似てますよね」
「は?似てねえよ」
目を剥いて小さく舌打ちすると、計器の電源を順番に切り替えていく。稼動音が静かになって鼓膜の震えが幾分和らいだ。
仁志村に向き直ったモトさんが短くため息を付いて眼鏡を外した。
「あのさ仁志村君、そんな見つめられてもさ」
「え」
近づくモトさんの顔にどきりとする。
「俺は難局にキスするためにきてるわけじゃないからね」
「はい」
ああ夢じゃないのか。
慌てて目を伏せると同時に硬い髭と、厚く柔らかな唇が冷え切った顔に触れた。
モトさんにとってこれも最適化の一環なのだろうかと、歯列を割って入り込んでくる舌を受け入れながらぼんやりと考える。

数ヶ月振りに触れる他人の粘膜が気持ちよくてどうでもよくなった。
ふいにモトさんの唇が遠ざかり、重たくなった目蓋を開ける。
「もう一度言っとくけどさ、」
「わかってます」
最適化でも何でもいい。だから続きを。
間近にあるモトさんの大きな目を、その強すぎる眼力に負けないよう必死に見返した。
どんなにじたばたしてもここは地球の果て、ならばなるようになれ。
仁志村はそんな風に思う自分が可笑しくなった。
「…ならいいんだけどさ」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべたモトさんが仁志村につられるように笑う。
モトさんの目尻の皺が優しすぎて、仁志村はなぜか泣きそうになった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

規制されてしまいました。中断すみませんでした。
支援ありがとうございました!


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