Top/66-74

How did boys refuse the sun? Ⅳ

40参照ください。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

もう帰ってしまったろうな、そう思っていたが、プールの金網の前でいつものように読書をしているシャ一口ックを見、力一ノレは我知らずに微笑んでいた。
グロウサムとの対話で沈んだ気持ちが一気に上向いていく。
「力一ノレ、力一ノレ!」だが背後から呼び止められ、彼はその甲高い声の主をしかたなく振り返る。今なら誰だろうと、つまらない用事なら無視できるかもしれない。
「いよいよ明日だね、地区大会。ぼくにできることがあったら何でも言って!」
ジム・毛リ了一〒ィ一。この認識への落胆は大したものだ。「できること?できることって?」
ジムの顔が瞬時に青ざめた。もとより顔色は悪いのだが、力一ノレの声に滲む苛立ちが、ジムへいわれなき被告人の罪悪感を植え付ける。
「いや、その、ほら!マッサージとか、ぼくうまいからさ!」言う間にも、力一ノレの表情から生気が失われていくのがわかり、ジムは必死で気の利いた言葉を探した。
だが結局それがみつかる前に裁断は下される。「シャ一口ック!待っててくれたのか?」
力一ノレは無雑作に向きを変え、ジムのもとを離れた。
「…いいのか?」「えっ?何が?」「彼だ。」シャ一口ックがしゃくる顎の先には、まだジムが所在なげにしている。
「彼の話はまだ終わってないんじゃ?」「でもおれには用がない。」「やめておけ。彼をぞんざいにはしないほうがいい。」
あまりいい顔つきとはいえない、決してそちらは見ず、声を潜めるシャ一口ックにつられるが、力一ノレは反射的にうしろを振り向いた。

「いつもあんなだぜ、あいつ。それよりこれからまた行くかい?」「よせって。見るだけで観察しないからだ。彼の顔色が悪いのは、力一ノレ、君のせいだ。」「おれ?なんでだ?」
開いていた本を閉じ、ようやくシャ一口ックは目上にある力一ノレの無邪気な顔を見上げた。
「なぜそれほど盲目なんだ。彼は明らかに君に関心がある。これは控えめに表現している。あえて言葉にするつもりはないけれど、今うちのめされているあの男が何か悪いものとして君を認識しようとする前に、力一ノレ、君はフォローしなければ。」
「どうしたんだ、急に。うちのめされてるって、ジムが?どうして?」
「…もっとシンプルに言おうか。彼は君に恋している。眼の下の隈の理由はできたら説明させないでほしいが、君もそういえばぼくに言ったばかりだったな。彼は君へ信頼を寄せていたようだが、今の君は決して信頼のおける相手のする態度ではない。彼は感じているはずさ。」
「なにを?」シャ一口ックのこの忠告に、きちんと従っていたら。
「今自分は不当な扱いを受けている、そう怒っている。」「なんだって?」
力一ノレはそれこそジムが分をわきまえない者としか思えなかった。おれが折角シャ一口ックと話しているというのに!「おい、ジム!なんでそうおれにまとわりつく?」
「えっ!…あの、どうしたのさ力一ノレ、急に…何かその…怒っているの?」少年との会話が聞き取れずじりじりしていたジムは、突然勇んできた相手の逆鱗にわけがわからずおろおろ口ごもった。
「かわいそうなヤツだと思ってたが、もうおれのまわりをうろちょろしないでくれ。ふっ…おれに恋だと?笑えない冗談だが、せめておれだけは笑ってやるよ。じゃあな。」

「…ぼくの言ったこと、聞いてなかったのか?なぜわざわざあんな風に…」「いいから行こう。時間がもったいない。」
確かに、ふたりに残されている時間はもう十分ではなかった。
ふたりの背後で、屈辱に苛まれるジムがたった今、ネメシスと契約を終えたばかりだ。

毛リ了一〒ィ一家のリビングで、ジムの母=マーサが友人と電話中。
『…そうねえ、試してみる価値はあると思うのよ。ただきこえは良くないわよね、毒なんですもの。でも高価なクリームに比べて値段も手ごろ、そのうえ効果は抜群と聞くし。やっぱりお願いしようかしらねえ、そのボトなんとかいうの…』
扉の影で、ジムがその会話を聞いている。「もう二度と笑えなくなるね、力一ノレ。かわいそうに。だってぼくを笑うんだもの、しかたないよ…」

少年たちはある日、太陽の下で野山を駆け回ることをみずから辞めてしまうものだ。無垢と言われる永続性を保持しない希少質に近しいなにかの喪失、とも同義である。
だがそれを故意に強制停止されてしまうことの不幸は、選んで行った者の比ではない。
力一ノレ・パワ一ヌ゙は毒を盛られ、シャ一口ック・ホームズは現実に繰り返される必要のない軽々しい死に失望し、ジム・毛リ了一〒ィ一はいつもは姿を見せない愛の血縁として裏切りが最もなじみやすい類縁であるとの学習成果により。

《某月某日デイリーメール紙・四面ベタ記事》
昨日ロンドン市中屋内プール競技場にて開催された学生水泳選手権、200メートルメドレー個人戦決勝において、ファイナリストである力一ノレ・パワ一ヌ゙さん(18歳)が死亡した。何らかの発作を起こし溺れたとみられる。検死は聖バーソロミュー病院で行われる。
昨年の同大会同種目で優勝しているパワ一ヌ゙さんは、学校関係者によると今回も意欲的に練習し、大会には万全の体調で臨んだという。「本当に残念です。将来を期待されたアスリートだった。親御さんには大変申し訳ない(ラングトンコーチの弁)」尚、葬儀日程等は未定。

『ギルはなんと言っていた?』
『うん…よく運動しなさい、とかそんなこと。…知らなかった、グロウサム先生、中等部でも教えていたんだな。』
『いいや。彼は高校の生物教師。授業を受けていたらぼくは彼になんか近寄らないし、ギルなんて呼ばないだろう?』
『え?そうなのか…てっきり…』『てっきり、何?』『いや、いいんだ。』
『(少し眉を寄せ)ぼくは先生ってひとたちがあまり好きじゃない。でもギルはらしくないし、第一ぼくに必要なことだけを教えようとしてくれる珍しい大人だから、利用価値がある。』これは額面どおりに受け止めよう、力一ノレにとって歓迎すべき答えだから。
『それはそうと。』見えない影をなんとか置き去れないものかと、シャ一口ックは左肩越しをすがめ、睫を伏せる。『君は厄介ごとに無頓着すぎる。』

『ジムのことなら心配なんかないぞ。』
『恋がいかに暗くて奇妙な熱情か、君はわかっていない。ちょっと前ミルウォーキーの刑務所で殺された男は、恋愛対象者への執着が高じ、彼らを自分の胃へコレクションした。』
『Wow! ……あいつもおれを食いたがっている?』
『さあね。クラフト・エビングによればそれも決して特異な感情から生まれはしないって。ただ一旦行動を起こしてしまえば、彼の常軌は逸したことにより、精神異常者と見做される。』
少年が教師から新たに与えられたというテーマへの入門書として、傍らにある書物の著者がそういえば同じ名前だ、力一ノレは無意識に表紙へ視線を落とす。
『それは君には退屈だよ。ただ恋に秘められた万象への波及に制限はない。これは覚えておいたほうがいい。』
『恋をしたら楽しいものなのに…少なくともおれは楽しい…と思う。』末尾にそって小さくなる声から、不思議とシャ一口ックに相手の意図を汲み取る作用がこういう場合に限り働かないのを、力一ノレは残念に思う。
『誰だって自分の感情を否定したくない。ましてそれをなにか悪いもの、淀んだ間違ったものとは思いたくないし、なによりも貴く、美しいと思いたいのが、不幸にもひとの〈人情〉さ。…どうした、力一ノレ。口を閉じるのを忘れてるぞ。』
『…あ、いやその、…いまさらだけど、きみと話していると、おれは自分でも知らないうちに冷凍カプセルで何十年も眠らされたか、それともきみが本当は50歳なんじゃないかって思う。』

『……ありがとう、と言うべきかな?』それは、少年が現実を厭うあまり、今の実年齢に課された不具合や束縛を一足飛びにし、彼にとっての精神の羽ばたきと自由を得たいという希求のあらわれでもある。
『…それでもやっぱりおれがばかだった。今頃恥ずかしくなってるし。』
『ギルも言ったように本当に気になんかしてない。』
『うん、でも二度としない。考えなしだって思われたくないしな。ふだんおれの近くにいるヤツらと、いっしょにしちゃいけないのに、きみを。』
『……どうしてぼくにはないって思うんだろう、みんな。』
『え?何だって?』
そりゃあイカやサンゴの体外受精みたいに、ひとも静かにできれば尚いい、とは思うけれど、続けるシャ一口ックの異議申し立てを、結局力一ノレが理解することはなかった。
『ところで、明日はレースだなんて。一言も聞いてなかった。』
『ああ!うん、きみはそう、多分退屈するだろうと…でも思いだしてくれて嬉しいよ。おれがんばる、シャ一口ックのためにも!』
『なら勝ってほしくないな。自分のために勝つんでなければ意味がないじゃないか。』
あ……また、調子にのってしまった、反省ばかりの力一ノレを察し、シャ一口ックは敢えて邪険にしている意識もある。
わかりやすい親愛を隠さないこうした表明に対し、実際少年にはまだ受け入れ態勢が整っていなかったからだ。

『力一ノレ、レースに勝つのは好きだね?』え?『うん、そりゃもちろんだ。』
『だったら明日は何も考えずそれだけのために泳げ。そうするのがぼくには一番嬉しい。』
力一ノレの紅潮する頬が、ものの12時間も経たず二度と赤みを浮かべなくなるとは、シャ一口ックとて予知できるはずもなかった。
『あれ、すっかり暗くなっちまった。ごめん、家まで送るよ。』
『大丈夫、君も早く帰ってやすまなくちゃ。』『そうする。じゃあ…』
『またあした。』ああ、応じた力一ノレは、先を行くシャ一口ックのほっそりした背中をしばし見つめる。街から消えつつある太陽の残り陽を受け、少年の輪郭がオレンジ色に浮き上がっている。
ふと、またあした、とは観にきてくれるから?と問いたい欲求をそれでも力一ノレは飲み込んで、伸ばしかけた右手を左手が握り制す。
たとえあしたでなくとも、あさってでも、そのあとでも、いつだって聞くことならできる、だってシャ一口ックはおれをともだちにしてくれたんだから、おれがシャ一口ックを特別だと思っているほどではないにせよ。
ちょうど日没が完了した薄暮に、ふたりが否応もまぎれてしまいそうな短い晩夏はいとも優雅に、しかし容赦なく過ぎてゆく。

Fin

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。

80 支援ありがとうございます~


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP