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オリジナルやきう

オリジナル
プロ野球試合中の一幕
特にモデルさんなどはいらっしゃいません

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ベンチウォーマーなどという随分な言葉があるが、まさにそれを不本意ながら体現しつつも半一軍選手である椎名恵太は戦況を見つめていた。
このイニングを守り抜けば、信陽アルバトロス――我々の勝利が確定し、セ・リーグ単独トップに返り咲くことが出来る。
今年のペナントレースは終始混戦を極め、通常では消化試合の時期にあたる今も連日デッドヒートだ。
そして今日はまた一つ歴史が作られる瞬間に立ち会えるかも知れない、そんな日でもあった。
三塁側ベンチに座る誰もが、固唾を呑んでマウンドの二人を見つめていた。

「何か俺が緊張してきた……」
同期入団の大和眞也は、つい昨日初めての一軍登録をされたばかりだ。
分離ドラフト時代に高校を卒業したのち入団した椎名らは、今年で三年目のシーズンを迎えている。
普段ならばブルペンに入るべき大和だが、監督も今日ばかりは他のピッチャーを使う気は無いらしい。
「大和が緊張?」
めっずらし、と椎名の横に座る阿嘉嶺悟が小さく呟いた。
もう一人の同期入団者である阿嘉嶺は、プロ入り二年目から完全に一軍に定着し六番を打っている。
複数球団で競合するようないわゆる逸材というやつで、鳴り物入りで入団した形ではあったが実にその働きは目覚ましい。
現に今日、このゲームでリードしている二点は彼によるツーランホームランのお陰だ。
「ミネは図太てーんだっ、よっ!」
阿嘉嶺の太腿からばしり、小気味良い音が鳴った。大和は唇を尖らせ阿嘉嶺をじとりと睨みつける。
イースタンリーグ最優秀防御率のタイトルを持つ大和は、少々子どもじみた面があった。
しかし沖縄出身である阿嘉嶺は何食わぬ涼しげな顔をしてマウンドへと意識を戻す。
板挟みされた椎名にとってこれはたまったものではない。ただでさえ緊張感の走る一面だというのに。
今日のゲームはいつも見慣れた外野からの景色を見ることもなく代走に起用され、そのまま一打席も立たずにベンチへ戻った。
どっと疲れがやって来たような気さえする。

マウンドには見慣れた二人が口元を隠し、真剣な表情で何か言葉を交わしていた。
信陽アルバトロス名物バッテリーがそこには立っている。
彼らの雰囲気はあまりに独特で、特にこの九回は他の内野陣を介入させない程の剣幕があった。
「服部さん、いけるかな」
マウンドに立つエースピッチャーは、今日の勝利で最多勝利投手となることが確定する。
そしてこの回をゼロで抑えると、最優秀防御率のタイトルもほぼ彼のものであると言って差し支え無いだろう。――そんな大事な試合だった。
「いっけるに決まってんだろ!……って言われんぞ」
「何それ大橋さんの真似?」
「しいちゃん、大和の物真似は似てないからこそ面白いんだよ」
椎名が疑問形で返すと、阿嘉嶺が茶々を入れる。
大和はすっかりふてくされたようで、片頬を膨らませわざとらしく鼻を鳴らした。正直可愛くない。
「冗談じゃなくて、あの人ならやるな」
「いやあの人らなら、だろ」

服部勝と大橋徹のバッテリーは球界でもしばしば話題に上がる、押すに押されぬゴールデンバッテリーだ。
信陽アルバトロスの中核を担っていると言ってもいいだろう。
服部は大橋を「俺のキャッチャーはあいつしかいない」と評し、
大橋は服部を「あいつが引退する時に俺も引退する」と真面目な顔で複数のインタビューに答えている。
「俺最近知ったんだけどさ」
「うん?」
三人のじっと見つめる先で、大橋が何か耳打ちした言葉に服部が笑った。
試合展開にはそぐわない表情だったが、野球小僧らしい表情だと椎名は思う。
まるで悪童がいたずらを思いついた、そんな顔だ。
「あの二人のミットとグローブ、モデルはお揃いじゃん」
喧騒にまぎれる椎名の言葉は、確かに二人には届いていた。そんなことは誰だって知っている。

同じメーカーのオーダーメイド一品物。
服部が赤のグローブを、大橋が青のミットを使っており、違うのはその種類と色だけだ。
ステッチや装飾品、背番号の刺繍に至っては服部が大橋の背番号である21、
大橋が服部の11とそれぞれお互いがお互いのものを入れている。有名な話だった。
「内側に刺繍あるの、お前ら知ってた?」
この椎名の言葉には阿嘉嶺も大和も目を丸くした。知らない、と思わず戦況から目が離れる。
「この前試合前にベンチで並べて置いてあって、たまたま見えたんだけど」
観客席がどよめく。遂に九回が始まるようだ。
このベンチからは見えるはずも無いのだが、バッターボックス後方に座るマスクを被った大橋の得意げな顔が何故か思い浮かんだ。

――“Trust me, trust you.”って入ってんの。
椎名はそう呟いたはずだった。服部が第一球を放った瞬間、あれだけさざめいていた客席が水を打ったように静まった。
誰もがマウンドの服部に視線を向け、次にスピードガンへと眼差しを移す。
椎名達も例外ではない。阿嘉嶺も大和も、椎名の発言など聞いてはいなかった。
「ひゃくろくじゅう、ご……!」
夢見心地で叫んだその言葉は、様々な場所からの和音に紛れた。
球場全体が歓声に包まれる。一塁側も三塁側も関係無い。
椎名は刮目する。先に思い浮かんだ大橋の表情と、今マウンドで笑む服部のそれがそっくりだったからだ。
してやったり。エースは誰の為ではなく、唯一無二と認めたキャッチャーに向かってサムズアップした。
歓声が鼓膜を打ちつけるそんな音に、あと数十分でドラマが生まれる予感がする。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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