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永い一瞬

半生 土9溶解人間部無 棗×部無
部無の正体を棗刑事が知って、のもしも後の話 エロなしぬるいです

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「初めて来ました。ホテルというのはこういう場所なんですね」
棗の前で部無はいま、伏せ目がちに微笑んでいる。その小さい顔、大きな瞳。整った容貌。
衝撃の事実――先日からこの街や自分の周りに現れるようになった、見た目異形の妖怪の
正体がかれであること――を知ったあとも、にわかには信じがたい。
しかし、信じざるを得ないことでもあった。
見た目異形な妖怪は思えば、事あるごとに刑事である自分を助けてくれた。
辺りにはいつも部無と部羅、部呂がいた。
部無の正体とその本性を知ったとき、畏れとともに奇妙な感情を覚えて、棗は戸惑った。
戸惑いのまま土下座せんばかりに頭を下げる棗を前に、部無は大きな目をより見開いた。
静かな声でどうしたんですか、と問うた。
「妖怪について忠告するつもりで、あなたに酷いことを言った。銃で撃ったこともあった。
ああ、俺ってなんてバカなんだ。傷つけて申し訳ない」
床に頭を伏せていると、部無の足が崩れ、ひざまずきそうになっているのが見えた。
かれは片手を片手で押さえつけるように震えていた。
部無さん、と呼びかけると、歯を食いしばった顔を見せないようにそむける。

しばらくして落ち着いたらしいかれは、寂しそうに、大丈夫です。そういうのは
慣れてますから、と言った。
「逆に、棗さんに謝られたりすると困ります。感情が高ぶると俺は、いまの姿を
保っていられなくなるから」
それで、かれが変身に耐えようとしていたとわかった。棗の中にまた感情が渦巻く。
憐れみに似ているが、絶対に憐れみではない。部無の数奇な運命について思うと、
かれのために自分ができることはないのか、焦燥感に近い思いにかられる。
自分にできることがあるなら。お詫びとして、なんでも言ってほしい。
初めは及び腰だった部無が、棗の真摯な訴えに、ようやく望みらしきことを口にした。
「じゃあ。一日だけ、棗さんとふたりでいたいです。俺が妖怪であることを知っても
変わらずにいてくれようとする人間は、あなただけだから」
伏し目で微笑んでそんなことを言われて、断れるとしたら妖怪以上に人にあらずだ。
落ち着いてふたりでいられる環境は、と考え、非番に合わせて目立たないビジネスホテルを
取った。家族に嘘をつくことになったが、やむを得ないと自分を納得させた。

そしていま、棗と部無はホテルのツインルームにいる。
「部無さん。つい変身しそうになっても、ここなら大丈夫! 他に誰もいませんから、遠慮なく」
かれに笑顔を向けて、親指を突き出す。帽子をかぶった頭を垂れる部無。
「ありがとうございます。でも、やっぱり見られたくはありません。
棗さんを怖がらせないよう、努力します」
「遠慮なくって言ってるのに。慣れれば可愛らしく見えてくるかもしれませんよ、
動物園のキリンみたいに」
キリン?と部無は頭をかしげた。銀髪が揺れた。可愛らしいとしか言いようのない仕草。

それからふたりきりで、いろいろな話をした。
部無が語る体験は、言葉を選んでのものであるだろうに酷で、棗には返す言葉がない。
それでも部無は、話を聞いてもらえるだけでうれしい、とはにかんで笑う。
そして、棗の平穏かつ平凡な人生について聞きたがった。泣いているのだろうか、と
訝るほどに潤んだ目でこちらを見つめながら。
夜になり、夕飯を食べに出ませんか。近くにうまい中華の店があるんです、と誘うと、
部無はためらったのちかぶりを振った。
「すみません。なんだか食欲がなくて。一人で食べてきてもらえませんか」
「食事はきちんと摂らないと。それとも、気分でも悪い?」
「いえ。そういうことではありませんが……」
部無はそう広くもないツインルームをゆっくりと見渡した。
「この場所から離れたくなくて」
「ああ、人ごみが嫌ですか」
「それもありますが、棗さんが俺のために用意してくれた場所なので。一秒でも長くいたくて」
聞いたばかりの、かれの過酷な運命。姿かたちが変わらないまま、何十年も生き続けている。
おそらく死ねることもなく、何百年も生き続けていく。
その永いかれの生の中で、ここに一秒でも長くいたい、と願う意味はどこにあるのか。

いくら鈍い自分も、気がつかないではいられない、と棗は思った。
妖怪であるかれの、人間の自分への圧倒的な好意。見返りも求めない純粋な好意。
自分にできることはないのか、とあらためて焦燥感にかられる。

「部無さん」
われながら驚くほど強い口調になった。はっと向く部無の美しい顔。
これがまやかしで、数度見た妖怪の顔が本物だったとしても。
同じ側に包まれた魂の美しさは変わることがないだろう。
永いかれの生の中での一瞬、自分が関われたことに意味があると思いたい。
「部無さん。俺、あなたが好きですよ」
部無の白い顔がなお青白くなって、卒倒でもするのかと慌てたが、かれに流れているのは
緑の血だったと思い出し、上気しているのかと思い直した。
「棗さん。あの、ありがとうございます。妖怪の姿を知っていて、そんなふうに言えるとは。
棗さんは本当に立派な人間なんですね」
これまでいろんな人間を見てきて、失望することもあったけれど。
望めるなら、俺はあなたのような人間になりたい、と夢みる口調で部無は言った。
「いえ。俺はそんな立派な人間じゃない。だらしないところもあるし、弱いところもある、
ただの男です。そんな人間が、部無さんを好きだなんて言ってもいいものか」
「……うれしいです。でも。すみません棗さん、食事に出てください」
部無の手が震え、顔をおさえ、体はそむかれようとする。口元に牙のようなものが見えた。
かれはまた耐えている。苦しんでいる。棗は急いて部無の体に触れた。
服に覆われていない肌が緑に染まりつつあったが、気にもならなかった。
「部無さん。我慢しないで。大丈夫ですから」
「な、つめさん。外に」
行け、と訴えるのを無視して、その体を抱きしめる。硬い筋肉が動いている。
なだめるようそのおもてを撫ぜ、あやすように大丈夫、とささやくと、次第に荒い息が
穏やかに変わっていった。濡れた目で棗を見て部無は、どうして、と聞いた。

「棗さん。どうして、そんなに優しいんですか」
「言いましたよね。俺、部無さんを好きです。あなたが苦しむのを見たくないけれど、
苦しむしかないならそばにいたい。それだけです」
笑顔を作ってかれを覗きこむ。
大きな瞳から涙がこぼれて、棗は傘を貸した雨の夜を思い出した。
部無は涙をぬぐって繰り返し、ありがとうございます、と言った。
棗さんは本当に立派な人間です、と。
そんな言葉を吐く形のいい唇に、いま自分がなにをしたいと考えたか。
教えてやりたい、と思ったが、伝える勇気はなかった。
自分は立派な人間なんかじゃない。邪な考えを抱えた、そのくせに臆病なつまらない男だ。
そのことを身をもって知れば、かれは自分になにを思うだろう。
ため息を殺し苦笑いを浮かべると、部無は首をかしげ見つめかえしてきた。
やはりまったく気がついていないようだ。
ふたりきりの夜は長い、一瞬に過ぎないけれど。
「夕飯はやめにしましょう。一晩ぐらい抜いたって平気です。そうだ、チョコ食いませんか」
つねに持ち歩いている小さな包みを取り出す。かれの白いてのひらに乗せる。
口にした部無は、甘いですね、と言って微笑み、棗の胸を苦しくさせた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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