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喪失

金田一少年の事件簿より金田一×佐木一号
死にネタ注意
時間軸は事件解決後、空港に向かう前

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
 血の気の失われた白い頬に触れる。ひやりと冷たい頬の感触は硬くて、もう生きてはいないこ
とをはじめに伝えていた。
「ごめんな、佐木」
 悪い夢のようだった。ほんの数日前までは、はじめの隣でカメラを回していたのに。はじめが
犯人の罠に引っかかったせいで、こうして冷たく横たわっている。
「ごめん……、ごめんな。俺がもっとしっかりしてたら……」
 つんと、鼻の奥が痛む。息が詰まって、涙が溢れた。はじめの目から溢れた涙が、ぽたぽたと
佐木の顔へと落ちて濡らしていく。肩を震わせるはじめはやがて崩れ落ち、動かない佐木の体に
すがりつくようにして泣いた。
 佐木たちを殺した犯人を、はじめは見つけ出した。犯人は警察に逮捕され、事件は終わった。
けれど、それが何だというのだ? 犯人を見つけたところで、佐木は生き返らない。もっと早く
犯人に気付いていれば。あの電話があったとき佐木と共に美雪の部屋へ向かっていれば。佐木
は死なずに済んだ。
 確かに、佐木を殺したのは犯人だ。けれど、犯人に佐木を殺させてしまったのは、はじめだっ
た。はじめが、佐木を殺したも同然だった。
 鼻を啜って、はじめは顔を上げる。袖口で、はじめの涙で濡れた佐木の頬を拭ってやった。拭
った端から新しい涙が零れ落ちて、拭っても拭ってもきりがない。

 そっと、はじめは顔を近付ける。息をしない佐木の唇にそっと、自分の唇を重ねた。
「……御伽噺みたいには、いかないよな」
 御伽噺のように、キス一つで生き返ってくれれば、どんなにいいだろう。けれど、キス一つで
生き返るのは御伽噺だからで、現実の、霊安室で寝かされている佐木は生き返らない。目を覚ま
して、“なんて顔してるんですか、センパイ”なんて、笑ってはくれないのだ。そんなことは分
かっている。分かっていながら、もう一度、佐木の唇に触れる。ひやりとした、冷たい感触。血
の通わない唇に熱を奪われながら、いっそ自分の熱も全て奪われて、佐木と同じように冷たくな
ってしまえばいいと思った。
 失ってから気付くことがある。取り返しのつかないことになってようやく気付くのは、人間が
愚かだからだろうか。
 佐木を失って出来た、はじめの中の空洞は大きかった。その空洞の大きさに、はじめは佐木の
ことを、親しい後輩以上に思っていたことに気付いた。そして佐木もそうだったのだろうという
ことに。
 東京から函館までは遠い。旅費も馬鹿にならないというのに、それでも佐木はついてきた。遊
び半分で高校生が気軽に来れるような距離ではないのにだ。どうしてそこに気付かなかったのだ
ろう。

「今更、遅いよな」
 もう佐木は、動かない。笑わないし話もしない。いつの間にかはじめのそばに来て、カメラを
回したりすることもないのだ。佐木の時間は止められてしまったのだ、強制的に。何もかも、佐
木に関することは全て、遅すぎた。遅すぎてもうどうにもならない。
「ごめんな、佐木」
 佐木の首には、白い包帯が巻かれている。はっきりと首に残っている、ロープの跡を隠すため
だ。遺族の目に、ロープの跡は衝撃が大きすぎる。せめて目隠しをして、少しでも衝撃を和らげ
るための配慮だった。
「苦しかったよな。痛かったよな、きっと」
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。現実をはっきりと認識して受け止めるには、
まだ時間が足りなかった。
 コンコンと、控えめにノックの音が響いた。
「金田一、そろそろ……」
 霊安室の外から、気遣うように俵田が声を掛けてくる。中に入ってこないのも、彼の気遣いの
内だろう。
「今いくよ、俵田のおっさん」
 鼻を啜って、返事をする。涙を袖口でぐっと拭うと、最後にもう一度、佐木に口付ける。唇を
軽く噛んでから、はじめは霊安室を出た。
「わがまま言って……」
「馬鹿。わがままのうちに入るか、これぐらい」
 ぽんと、軽く肩を叩かれる。その手に促されるように、はじめは静まり返った廊下を歩き始め
た。何も言わないでくれる俵田の気遣いが、はじめにはありがたかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • 切なすぎる佐木受おいしいです…ありがとうございます -- 2015-01-23 (金) 17:08:37

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