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某大泥棒とその相棒

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「どう? 次元」
甘ったるい声に呼びかけられ、次元は読んでいた新聞から顔を上げた。

「このドレス、彼、気に入ると思う?」
艶やかな笑みを浮かべた美人が目の前でくるりと回り、次元の膝元にしゃがみこんで
顔を覗き込んできた。
大きく開いた胸元には、見た目だけでその柔らかさを想像させるのに充分な白く豊満な膨らみが二つ。
男なら飛びつきたくなるような光景だが、幸か不幸かこの女の中身を知る次元としては
微塵もそんな気は起らなかった。

「いいんじゃねえのか」
次元は一瞥しただけで興味なさげに視線を落とした。

「つまんない反応」
そう言って次元から離れようとした女が、不意に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ひょっとして妬いてるとか?」
「……ハア」
次元はため息をついてみせた。
しかし女は自分の言葉に機嫌が上向いたらしく、再び嬉しそうに次元にまとわりついてきた。

「ねえ、次元。ネックレスはどっちがいいかしら?」
「さあな。俺にはさっぱり」
「もう。真剣に考えてよ。あんたみたいな朴念仁にはどうでもよく思えるかもしれないけど、
大事なことなんだから」
そこで彼女の声色が低くなる。

「何つっても、あいつを釣る大事な餌なんだからな」
「……ルパン」

次元は呆れていた。

目の前の相棒は彼の持つ変装のテクニックを駆使して、絶世の美女に変身中である。

その目的は彼の狙うお宝の秘密を握ると目される宝石商主催のパーティに参加し、彼に取り入ること。
珍しい宝石と並んで美人に目がないことでも有名な男だった。

ルパン(が化けた美女)が手にしているネックレス二つにあしらわれた石は、両方とも
数年前に男の手掛ける店から盗み出されたものである。
それを身に付けた美女に男が食いつかないわけがなかった。

「なんだって今回はそんな不二子みたいな真似するんだ。正面から行きゃいいだろ」
「せーっかく身近にいいお手本がいるんだから、こういう方法試しとくのも悪くねっかなって」
声色を変えるのをやめたルパンは美女の顔のままいつものニシシという声で笑った。

「それによー。こないだ誰かさんにさんざんダメ出しくらったからな。
ここは俺様のプライドにかけて、朴念仁でもクラッとくるような美人になってみせたわけ」

「…俺のせいかよ」
薄々それが原因なんじゃないかと思っていた次元は、相棒の言葉に改めてため息をついた。

数ヶ月前、別の仕事で女装したルパンは、調子に乗ってその晩次元をからかってきたのである。
甘い香りを振りまいて露出度の高い服で次元に密着し、怪しい言葉とボディタッチで
次元を挑発しようとしたルパンを軽くあしらい、「どんなに化けてもお前の猿顔しか浮かばねえ」だの
「その体も元は腕毛脛毛びっしりだと思うと寒気がする」だのさんざん言ってやった。
それが密かに彼の完璧な変装に対するプライドを傷つけていたことを、知らなかったわけではない。

……でも、しょうがねえじゃねえか。

自分の悪戯は棚に上げて少しだけ傷ついたような顔をしたルパンを思い出し、心の中で反駁する。

……俺にとっちゃ、お前はルパンでしかないんだから。

「どうよ? お前のリクエストにお答えして今回は黒髪よ。んでもってこのパーフェクトバディ! 
さすがの次元ちゃんもクラッと来たんじゃないの?」
ルパンは言って次元の座ったソファに乗り上げてくる。
「なんだリクエストって」
「こないだ言ってたじゃねえかよ。黒髪のほうがいいって」
「そんなこと言ったか?」
「言った!」
「うーん…」

迫ってくるルパンに押されて身を引きながら、次元は思考を巡らせた。
目の前でストレートの長い髪がサラリと揺れる。

覚えてはいないが、確かにこの透き通った肌の色には黒髪が似合う、気がする。

知らず髪に触れた次元の手首をガシッとつかんで、ルパンがニヤリと笑った。

「あら。とうとう次元ちゃんもアタシの魅力にムラッとした?」
「クラッじゃねえのか」
「男が感じる気持ちとしてはクラッよりもムラッのほうが上でしょ?」

見知らぬルパンの顔の中で、二つの瞳が楽しげな光を放つ。

それは、いつでも未知なるものを求めて輝く目。
それは、どんなものからも縛られることを認めない、強い自尊心を湛えた目。

紛れもない、ルパンの目だ。

次元は手を伸ばした。

完全に次元が引くのを追いかけていたルパンは急に引っ張られて前につんのめった。
気づけば息がかかる位置にある距離に次元の顔がある。

「えっわっ、ちょっと! 次元ちゃん!?」
そのまま近づいてくる顔に、焦った声を上げた。

「わーっ! タ、タンマタンマ! 悪ふざけしすぎたのは謝るから!」
必死に左手で次元の額をつかみ押しとどめようとする。
「ホラ次元! 女に見えても中身は猿顔だぞ! 髭も濃いし他も毛深いぜ!」
自らの顎に手をかけてマスクを剥がし、ドレスの下の特殊スーツも破いて男の腹を露出させる。

「…ぶっ」

次元は盛大に吹きだした。あっさりルパンから手を放すと腹を抱えて笑いだす。
「自分で猿顔だって認めやがったな」

顔に半分マスクが貼りついた形で腹を出したままルパンは口をへの字に曲げた。
「…お前、わざとやったな」
次元がにやにやと笑いかける。
「いっつも人で遊んでんじゃねえぞってことだよ」

「あーあー。つっまんね。やーめた。馬鹿らしくなってきた」
ルパンは引っかかっていたマスクを全て剥ぐと放り投げ、ドレスを脱ぎ始めた。

「別の方法で盗んでやらあ。正攻法で行ったってな、俺様に盗れねえもんなんてねえんだよ」

それを見て次元の笑みが深くなる。

「お。いいじゃねえかルパン。そうこなくっちゃ」
「そのかわりお前にもみーっちり働いてもらうかんな」
こき使ってやるーと言いながらルパンは大股で自室へ向かい、バタンと音を立てて扉が閉められた。

その後ろ姿を見送って、次元はこぼれる笑みを抑えられない。

次にあの扉が開くのはどのくらい後だろう。数時間後か、ひょっとしたら数日後かもしれない。
そのときに彼は自分の名を呼んで、彼の頭の中で出来上がった絵図の一部分を自分に担わせるだろう。
そこにもう一人や二人が加わるかどうかはそのとき次第だが、いずれにしても宝石商の開く
それよりも遥かに楽しいパーティには違いない。

まったく。宝石つきの美女よりよっぽどタチが悪ぃぜ、お前は。

クールと評されるガンマンは、煙草に火をつけながら、心の中で相棒に告げる。

……こんなに俺をクラクラさせやがる。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・;)4レスデ キセイニヒッカカルトハ オモワンカッタ

基本泥棒のほうがガンマンを振り回すけど、10回に1回くらい反撃されればいいと思う!


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