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はじめての 中編

新スレありがとうございます。

前スレの508-516からの続きです。
516では二回コピペしてしまい読みにくくて済みませんでした。

昨年のタイガー・リョマ伝のお馬鹿弟子⇒堅物師匠です。
遥か前の本スレに投下されたネタを拝借しております。ありがとうございます。
訛りは適当なので間違いが有ったらすみませんです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

武知は顔を引き締めて伊蔵の肩を掴む手に力を入れる。
「伊蔵、これからわしがええと言うまで眼を瞑っちょき」
「眼ぇ、ですか?」
「それから、こうして両手で耳も塞いでおくがじゃ。……そんな顔をせんでもええき」
不安になってきた伊蔵の表情をどうとらえたのか、武知は苦笑する。
「おまんはわしに全て任せればええぜよ。何もせんで寝ておればええ。ただわしの言う通りにしちょき。
 そんで、おまんが想う女子の事だけをひたすらに考えるがじゃ。その女子の名ぁだけを呟いちょるがじゃ。
 眼と耳と口と……頭ん中も閉じてしまえば、どんなに辛ろうてもそれは現ではないき、夢と変わらないぜよ」
「……分かりましたき」
武知の言葉には若干の誤解が有った気もしたが、伊蔵は首肯することにした。
伊蔵にとって武知の言う事は絶対だ。
武知が間違う事など有り得ないのだから、今この場に置いては指示に従うことこそが一番の道なのだろう。
一心に見返していると、より一層悲しそうな顔をした武知はそれでも優しく笑って伊蔵の顔に手を触れた。
「さ、眼を閉じや―――そうじゃ、そのまま開けてはいけんちや。
 えいか、ただ大切な女子のことだけを考えるぜよ伊蔵。……安心しいや、すぐに家に帰れるき。
 分かったら早う耳も塞いでしばらく寝ちょり」
真っ暗で静かな世界で、伊蔵は独りになった。感じるのは己の身体と伊蔵を導く武知の手のみだ。
これから何が起きるのか、漸く伊蔵は理解した。

つまり武知と伊蔵は見せモノなのだ。
大殿様と上士を楽しませるために、伊蔵は此処に呼ばれたのだ。
(別に構わんき)
それでも良かった。土佐において衆道などさほど珍しい事ではない。
伊蔵にとっては初めての事ではあるけれど、とくに抵抗は感じなかった。
むしろそれよりも、その相手が武知半平太であるという事の方が伊蔵にとっては重大だった。
武知が触れる処全てが熱い。
武知のひやりとした優しい手が心地よい。
くらくらとする頭で、しかし伊蔵は大事な事を思い出した。
武知には『大切な女子』の事だけを考えその名を呟いているように命じられたのだ。
ならば伊蔵はそれに従わねばならない。
伊蔵にとって大切な女子。誰が居ただろう。
身内の女子達はとても大切だけれど、この場合に想い浮かべるには違うように思われた。
とすれば幼馴染であり坂本涼真の姉であるお留か。
同じく幼馴染で最近めっきり美しくなった佳緒だろうか。
それとも茶屋で馴染みのお近の方がいいのだろうか。
皆それぞれに大切だけれど、やはり違うような気がした。
今、頭の中を占めているのは只一人。
今、その名を呼びたいのは只一人。
それは伊蔵にとってとても大切ではあったけれど武知の言う『大切な女子』には当てはまらない人物で、
その人を想う事もその名を口にすることも今は武知の命に逆らうことだった。
「―――?」
必死に考えを巡らせていた伊蔵は、ふと違和感を覚えた。
先ほどまで伊蔵を労っていたのは武知の優しい指で有ったはずだが、何か違うものへと代わっている。
それは丁寧に丹念に伊蔵を導こうとする、柔らかく濡れている何かだった。

これは。
……まさか。
「な、何をしゆうがですか先生ッ」
何が起きているのかに考え至り、伊蔵の声が思わず声が上ずる。
反射的に身を捩ろうとしたが、武知に只寝ているようにと言われた事を思い出し身体を留める。
伊蔵から動く事は出来なかった。だから武知から離れてくれるよう祈ったけれど、そんな気配は全く無かった。
「せんせ……だ、駄目ですき先生、そがな、」
そんな事をしては先生が穢れてしまう―――という言葉を伊蔵は呑み込んだ。
……武知の指が伊蔵の唇にそっと触れている。
口を閉じろと言うことか。そう、伊蔵が今口にして良いのは『大切な女子の名』だけなのだ。
けれどそんなことを今考えられるわけがなかった。
武知の命だから従わねばならないのに、伊蔵の思考はあらぬ方へずれてゆく。
段々と呼吸が荒くなる中で、伊蔵が考える事が出来たのはたった一つだけだった。
(せめて、してはならん)
それだけは。師を汚すような事だけは。
―――絶対に堪えようと固く心に決したのも束の間、しかし伊蔵はあっけなく高いところへ連れて行かれた。
ただ白く何もない世界に佇む伊蔵に、すぐに羞恥と後悔が押し寄せた。

(わしは先生になんちゅう事をしゆう)
伊蔵は己の情けなさに潰されそうになった。
腹を斬って師に詫びたいと心底願ったけれど、その武知が赦さない限り動く事は出来ない。
あんな事をしてしまったのだからすぐにその機会は訪れるに違いないと思ったのに、武知は伊蔵のそばを離れなかった。
その上あろうことか再び武知が伊蔵の身体に触れている。また手での労りに戻ったようだった。
やわやわとした優しさに身体があっさりと力を取り戻し、伊蔵は焦りを覚えた。
まさかまた同じ轍を踏まねばならないのだろうか。
「……せっ」
先生と言いかけて、今度はすぐに口を閉じねばならない事を思い出した。
だから必死に口を噤んだけれど、一旦落ち着いたはずの呼吸が簡単に荒くなり漏れ出てしまう。
必死に吐息を堪えているうち、やがて武知のひんやりとしたしなやかな手が身体から離れていることに気が付いた。
次に起こるであろう事を思い浮かべ、伊蔵は血の引く思いになる。
今度は同じことになるのは嫌だった。
師を守りたいとこれだけ思っているのに、その師の顔を文字通りの意味で汚すのはもう嫌だった。
今度こそ、師の導きに抗えるだろうか。先ほどはとても簡単に連れて行かれたと言うのに。
しかし、次に伊蔵が感じたのは先ほどの濡れた柔らかさではなくて『重み』だった。
重み。人の身体の重み。―――武知の、重み。
それはとても優しく温かく伊蔵を包み込んでくれた。
何か堪え切れない感情が突き上げてくる。
……何時だって、遥かな存在だった。
どれだけ渇望してもどれだけ己の修練に励んでも、その存在に近づくことは出来なかった。
なのにその武知半平太が、こんなにも。
(近い―――)
一粒、涙が溢れたことに気が付くのに少し時が掛かった。
それを自覚した刹那、またも真白な世界に導かれる。
かつてないほど美しく、身が震えそうになるほど甘美な場所だった。

ぼんやりしていた伊蔵をよそに武知の始末は素早かった。
己のみならず伊蔵の分まで身なりを整え、大殿様と上士に慇懃な、しかし有無を云わせぬ挨拶をして速やかに下城した。
(流石は武知先生ぜよ)
前を歩く武知の背を見つめながら、伊蔵はまだ陶酔に浸っていた。
自分の身に起きたことが今だに信じられなかった。
勿論上士たちに強制されての屈辱的な状況ではあった。しかし武知と本当に契ることが出来るなどと、誰が思えただろうか。
心の奥底の密やかな望みをこんな形で叶えることになるとは。
あの一時を思い出し今更になって赤らんできた顔を伊蔵は押さえた。
武知は優しかった。信じられない心地よさだった。喝采を叫びたくなるほど幸せだった。
伊蔵が味わった悦びのほんの一部でも、武知も感じてくれたのだろうか。
―――否。
それまで夢見心地だったのにあることに思い至り、顔から血の気が引いた。
女と情を交わす時には大切に慈しみを与えなければいけないのではなかったか。
丁寧に労って、優しく慰めて、それでようやく受け入れる事が出来るようになるのだと、
そうでなければとても辛い思いを味あわせることになるのだと、誰ぞに聞いた事は無かったか。
であるならば、元々そう出来ていない男が相手を受け入れる為にはより丹念に身体を整える事が必要なはずではないのか。
腕が総毛立つのを感じた。

何もなかった。
伊蔵は武知に対してなにもしていない。ただ馬鹿みたいに横たわっていただけだ。
そして武知が己の身体を整えている気配も時間も無かった。
つまり武知が少しでも苦痛を和らげることが出来るような要因は、何も無かったのだ。
それでも武知は伊蔵を受け入れた。時間を取ってせめて己で整えれば少しは楽になろうものを、武知はそれをしなかった。
理由など簡単だ。
―――岡田以蔵を、一刻も早く城から帰す為。
ならば目を瞑らせたのは苦痛が浮かぶ顔を見せぬ為か。耳を塞がせたのは漏れ出るかもしれない苦鳴を聞かせぬ為か。
(先生はいつもそうじゃ)
幼いころから武知はそうなのだ。
好物の饅頭だって、自分の分を平らげた伊蔵が物欲しそうにしていれば半分くれたし、
動きの鈍い涼真が転んで饅頭を落としたのを見ては残りの半分を与えていた。
皆の事ばかり考えて。己の事は後回しにして。それが武知半平太という人物なのだ。
伊蔵は切なくなった。
ここは武知に礼を言うべきなのだろうか。それとも。
(今度は痛とうしませんき)
そう伝えるべきなのだろうか。今度を求めるのは望みすぎだろうか。
伊蔵が伝える言葉に悩んでいると、武知がぴたりと足を止めた。
「すまんかったのう、伊蔵」
振り向かぬままにそう呟いた武知の声には、深い自責の念が滲んでいた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
次回で終わります。来週に来ます。

>>15
投下に苦労していたので助かりました。支援ありがとうございます!

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