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玩具屋⑤

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース! [463]:Yes!!
オリジナル(先輩←後輩)

萩の花が工房の中庭で豊かに咲きこぼれている。薄紅色が美しい。だけど、ちょっと卑猥だ。
この花を指差し、先輩が「超おま〇こ」なんて言ってたから、僕にはもう、この紅い花びらが女性器の外陰部にしか見えない。
たぶん僕は一生、外陰部を連想するんだ。そうして、秋風に萩の花が揺れる度、先輩の下ネタと、下ネタ中も爽やかだったあの明るい笑顔を思い出すんだろう。

萩を見ながら工房の縁側で弁当を食べていたら、おにぎりを手にボスがやってきた。「おっ、萩が咲いたな」。「もうすぐ、お彼岸ですよー」。
今年の秋のお彼岸は、彼岸入りが 9月20日。お中日が 23日。彼岸明けが 26日だ。この期間に供養をすると仏様が極楽浄土へ行けるらしいのにいいのかな?
アンタまだ、仏壇・仏具はもとより、お墓の掃除もしてないんじゃないですか。身寄りのない先輩が他界した日、ボスは「あいつを無縁仏にしたくねェ」と言い、
親兄弟に頭を下げて、先輩をボスの家のお墓に入れてしまった。あれは、絶ッ対、ボスが先輩と同じお墓に入りたかったからに決まってる。
そのくせ、ボスの机まわりを見るかぎり、ボスが片付けられない男なのは明白で、仏具やお墓の掃除を、ちゃんとしてるとは思えない。
「お彼岸の準備してますか?」。尋ねた俺にボスは決め顔で、「当たり前だろ」と笑った。あぁ、そうか。そう、ですよね……。
先輩はボスの特別だ。そして先輩の視線の先には、いつだってボスがいた。
ストーカー並に先輩を見ていた僕が言うんだから間違いない。
悔しいけれど、僕は「後輩」のままだった。僕なりにあれこれアプローチしてたんだけど完敗です。ペコペコにへこんでる僕の気も知らないで、
ボスは、近所の神社の氏子衆に頼まれた、ご神体・大麻良さま(おおまら様)の神前に供える男根形の型を削っている新入りに声をかけた。
「お前も来いよ。墓参り一緒に行こうぜ」。ハァ? と思った。何でこいつを誘うんですか。ぶっちゃけた話、僕はこの新入りが生理的にNGだ。

氷に閉ざされた北国で病気がちな家族に囲まれて育ったような陰気さ。黒い髪、青白い肌。尖りきった鼻と顎。何より、蛇みたく妖しい目。
見るからに不健康そうで不気味な男が、我が物顔で先輩の席に座っているのがたえられない。
僕にはこいつが、先輩を連れ去った死神に見える。しかもこいつは、僕が開発している、前立腺サーチ機能を搭載した新型バイブの実験データを狙ってる盗っ人かもしれないのだ。
証拠はないが僕は確信している。何か考えがあるのか、今のところボスはこいつを泳がせているけれど、正直、僕はつまみ出したい。
耳に入っていないのか、新入りはボスの声を無視した。うちに来る前は、フリーのバイブ原型師だったという新入りは、
一心不乱に蝋の塊を削っている。蝋を削って型を作り、その型を石膏で覆い固め、火を当てると中の蝋だけが溶ける。
蝋が溶けてなくなった空洞に溶かした黒銅を流し込めば、祭事用のディルドもとい男根形の出来上がりだ。
「お前、昼飯ちゃんと食ったのか?」。ボスはわき目もふらず蝋を彫っている新入りに声をかけた。ボス、こんなやつ気にかけてやんなくていいですよ。
こいつは、ひょろいくせに大食らいの早食いだ。ついさっき、超大盛りバケツ型カップ麺を神速ですすっているのを僕は見た。
よっぽど集中しているのか、新入りにボスの声は届いていない。僕は代わりに「食ってましたよ」と返事をした。

「お前、意外と見てんだなぁ~」。ボスに感心され僕は吐き捨てた。「目に入っただけです」。ボスは苦笑いひとつ、「あんまり毛嫌いするなよな」と言った。
それから、「甘辛の割り下で煮込んだ肉を、卵にくぐらせてマイルドにして食べる! あの旨さがわかるやつに、悪いやつはいねェよ」と、豪快に笑った。
ボス曰く、新歓の時、新入りは実にうまそうにすき焼きを食っていたそうだ。
しかも、うま味が染みた豆腐をご飯の上に乗せ、グシャッと崩して食べていたらしい。
ボスの方が僕よりずっと見てんじゃないですか。すき焼きの豆腐で豆腐丼をつくってかきこむ。
そんな、まんま先輩と同じ事をあいつがしてたと聞かされ、僕は動揺した。
肉、春菊。肉肉肉、春菊。肉、豆腐、うどん。すき焼きに舌鼓をうっていた先輩が、瞼に浮かび、鼻の奥がツンとした。
白菜、ねぎ、椎茸。肉と春菊ばかり取る先輩の器に、真横であれこれ入れて、僕はいつも、嫌がられてた。
だけど先輩、貴方は、ボスが入れるシラタキと糸こんは、がっつり食べてましたよね……。変だな、目の奥が熱い。
「泣くなよなぁ~」。「泣いてません!」。僕の後頭部をガシガシ撫でるボスの手を振り払っていたら、新入りと目が合った。
こっち見んな! キッと新入りを見た僕の手に、ボスは財布を握らせた。
「お前、後でアイツと三丁目の和菓子屋に、おはぎ買いに行ってこい」。先輩はあそこの赤紫蘇おはぎと、青紫蘇おはぎを愛してた。

僕も、甘さよりも先においしさを感じるあんこと、紫蘇の程よい塩加減が大好きだ。
ボスは新入りをチラリと見て、俺に囁いた。「俺はあいつに何も盗らせねェ。先にあいつのハートを盗もうぜ」。
臭過ぎるセリフにドン引きしてる僕の背を一発叩き、ボスは颯爽と去って行った。
角のすき焼き屋。三丁目の和菓子屋。筋向かいの蕎麦屋。結論から言うと、ボスはこの三軒で新入りを懐柔した。
蕎麦屋の鴨汁と蕎麦がきで落ちた新入りは、洗いざらい吐き、お中日のきょう、工房の一員として先輩のお墓参りに来た。
ボスはいま、先輩に新入りを紹介し、「こいつも、うまいもんが、気持ちいいバイブと同じぐらい好きなんだぜ」と語りかけている。
先輩はもう、大好きだったバイブでオナれない。肉もおはぎも蕎麦がきも、僕らと一緒に食べられない。
そう思ったら、無性に泣けてきた。涙と洟がだらだら垂れる。ボタボタ、ポタポタ止まらない。
もしも、あの世に、極楽だとか浄土がリアルにあるのなら、どうか先輩が、迷うことなく真っすぐ辿り着けますように。
秋の彼岸、春の彼岸、お盆。繰り返す供養は、僕らのオナニーかもだけど、
繰り返し繰り返し祈ることで、若くして逝った先輩の魂が、少しずつ癒されていくんだって信じたい。
あぁ、やばいな。ちょっとマジで、嗚咽が止まらない。手を合わせてしゃがんだまま、立ち上がれずにいたら、突然、新入りに背中をさすられた。
思いの外、暖かく優しい手だった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!《完》
支援ありがとうございます。助かりました。感想、嬉しかったです。

  • うぉー!笑い・萌え・ちょっぴり泣き、楽しませて頂きました!いいキャラたちだw -- 2011-09-14 (水) 05:50:54

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