妖香
更新日: 2011-11-08 (火) 22:55:23
キタンクラブ単行本復活記念
単行本巻末の話の捏造後日談
ぬるいけど小×雅エロ有り 人外君が淫乱気味です。注意。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
もう何年も打ち捨てられ、朽ちかけていた古い洋館の、灯りの全く無い部屋へ、割れた窓硝子から青白い月の光が差し込み
久方ぶりに帰宅した、この荒れ屋の主の姿を、夜の闇の中にぼんやりと浮かび上がらせている。
埃だらけの寝台に腰掛けて、夜空を見上げている姿はどこか朧で、そのまま闇に溶けていくかのようだった。
この荒れ果てた部屋を、不承不承に片付け始めて、もう何時間たったのだろう、と、小介は、片付けの手を一旦止めて、
暗い部屋の中を見渡してみたが、時計などあるはずもなく。
壊れて歪んだ窓枠の向こうに、高く上った満月を見て、そろそろ夜半を過ぎた頃だと知った。
「おい」
小介の手が止まっているのを目ざとく見つけたこの廃墟の主――久我雅夢が非難めいた声をかける。
「休むな」
雅夢の居丈高な物言いには、随分慣れてきたとはいえ、まだ日のあるうちから何時間も、この蜘蛛の巣だらけの部屋を
片付け続けてきた小介には、聞き流すことなど出来る筈もなく、額に青筋を立てて大声で言い返した。
「だからっ!『片付ける』なんて段階じゃねーって言ってんだっ!!」
小介は、持っていた雑巾を床に叩き付けると、ドンドンとわざと大きな足音を立てて、雅夢に詰め寄った。
「見ろ!昼間っからこんなに汗だくになってやっても終わらねーってのに、これ以上、この電燈も無い部屋を、
どーやって片付けろってーんだっ!!!」
そう言って、腕まくりをして露わになった二の腕を、雅夢の鼻先に突きつけた。
「確かに、汗臭いな」
匂いを確かめるように、雅夢は、すんっと鼻を鳴らした。
汗ひとつかかず、涼しい顔をしやがって!と、小介が憎々しげに言い募ろうとした、その時。
雅夢の僅かな雰囲気の変化に気が付いて、小介は言葉を詰まらせた。
普段なら、刺々しい空気を身に纏い、何者も近寄りがたい雰囲気を漂わせている雅夢が、ふいにその気が緩んだように
周りの空気を解していき、あまつさえ、どこか誘うようなとろりとした目つきで、ゆっくりと座っていた寝台から身を
伸ばし、小介の方へと顔を近づけていく。
小介の襟元を、くんくんと犬が匂いを嗅ぐようにして、雅夢が低い声で囁いた。
「…好い匂いだ…」
そうして口元を歪ませると、小介の鎖骨の辺りを、紅い舌でぺろりと舐め上げる。
「ぅ、わっ!」
反射的に身をすくめた小介の耳元に、雅夢がまた囁きかけた。
「フェロモン、というのを知っているか?」
「はぁ?」
およそこの場には的外れな、聞き覚えの無い単語を耳にした小介が、頓狂な声をあげた。
「『刺激を運ぶもの』の意だが、一般には発情を誘発させる物質と言われている…」
と、そこまで言って、雅夢はくっくっと、さも可笑しそうに笑った。
「『発情』など、僕には無縁の事だと思っていたが…」
そしてまた、小介の耳へ、吐息を吹きかけるようにして囁く。
「…どうやら、僕にとって、お前の体臭がそうらしいな・・・」
艶かしい吐息を耳の中へ吹きかけられて、思わず首をすくめた小介の襟首を、雅夢が片手でぐいと掴んだ。
そして、その細腕からは、思いもよらないような強い力で、さっきまで自分が座っていた寝台へと、小介の肉付きの良い
体を投げ倒した。
「っ、痛ぇじゃねーかっ!なにしやが…っ」
固い寝台に放り投げられた小介は、すぐに片肘を付いて起き上がろうとしたが、覆いかぶさってきた黒い影に阻まれた。
黒い影の中で、なお一層暗い、それでいて艶やかな雅夢の髪が、小介の頬にかかる。
「お前にとって・・・僕は、どうだ?」
小介の鼻先には、雅夢の青白い首筋があって、そこから微かに不思議な匂いがした。
「ぁ・・・?」
体臭と言うには、それはあまりにも甘く好い香りで、それを深く吸い込んだ途端、小介は軽い眩暈を感じた。
くすりと、雅夢が薄く微笑った。
雅夢の白くて長い指が、小介の目の前で、己のシャツのボタンを一つ一つ外していく。
ゆっくりと、挑発するように肌蹴られた雅夢の胸元からは、またひどく甘い匂いが立ち上って、小介の鼻を擽る。
その匂いは、小介の頭の芯を痺れさせ、惹き込むように、彼を酔わせていった。
昼間からの片づけでの疲れと、夜半を過ぎた事による眠気と、そして殊の外、噎せ返るような甘い匂いに包まれて、
ぼんやりと、頭の中に霞がかかった様になった小介は、もう何も考えられず、ただ、己の目の前の、妖しいほどに白い
肢体へと、我知らず震える手を伸ばし、本能のままにかき抱いた。
お互いがお互いを求めながら繋がった体は、燃えるように熱く、小介は意識を彼方へと飛ばしてしまいそうになる。
自分は、夢を見ているのかもしれないと、虚ろな意識の中で、小介は思った。
これは、夢だろうか…そう、夢だ。
夢に違いない。
でなければ―――
組み敷いた白い肢体が、こんなに艶かしいはずがない。
重ねた体の感触が、今まで抱いたどんな女よりも気持ち良いはずがない。
なによりも、月光の下、薄蒼く照らし出された雅夢の横顔を、こんなにも、美しいと思うはずがないのだ―――
夢現の中で、至上と呼べるほどの快楽を味わいながら、小介はいつしか眠りの淵へと落ちていった。
翌朝。
体中に違和感を感じて、小介は目を覚ました。
全身に残る、気だるさとは別の、どうにも耐え難いこの感覚は…
「痒~~~い~~~!」
固い寝台から、跳ね起きた小介は、ぼりぼりと体中を掻き毟った。
よく見ると、体のあちこちに赤い痕がある。
これは、昨夜の情事の痕などという艶っぽいものではなく。
「こんなダニや蚤だらけの部屋で、寝穢く眠りほうけるから、そんな目にあうんだ。阿呆」
冷ややかな文句を背中に浴びせられ、むっとして振り向けば、そこには既に洋服をきちんと着込んだ雅夢が立っていた。
「お前は、平気なのかよ!」
掻くほどに増す痒みに苦悶しながら、小介が問いかけると、雅夢は、ふんっと鼻で笑った。
「僕の血は、猛毒だ。それを知ってか知らずか虫どもは寄ってもこない」
そう冷たく言い放つと、壊れて開け放たれたままの扉から、朝尚暗い廊下へと出て行こうとする。
「お、おい!」
小介は、床に脱ぎ散らかされたままの着物を拾い、大急ぎで身に着け始める。
そんな姿には一瞥もくれず、つかつかと部屋を出て行った雅夢が、数歩進んだところで踵を返して、いまだ皺だらけの
着物と格闘している小介に、一言、声を投げた。
「片付けの続き」
がくりと、小介が頭をたれた。
それを了承と受け取ったのか、雅夢はまた廊下を玄関のほうへと歩き始めた。
「頼むから、建て替えるか、引っ越せ~~~~!!」
小介の心からの叫びは、空しく、朝の光の中に消えていくのだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
支援、ありがとうございます。
連投規制で、投下に時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。
お後がよろしいようで。
- 綺譚でまた書いて下さい!楽しみにしています -- しじま? 2011-08-06 (土) 23:50:01
- 面白かったです~、続編お願いいたします。 -- ももじろう? 2011-11-08 (火) 22:55:23
このページのURL: