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ル/ナ/ド/ン/第三 冒険者×弱気吸血鬼10

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )もうすぐで終わります。

「本気、か」

そして一カ月が経過した。
バルドに愛が芽生えたのかというとそれはわからない。
一度も愛しているという言葉を聞いたことがないからだ。
二人は正座して向き合っていた。
「じゃあお前にはこのエルブンランス持ってもらって、ローブはミストフード、後は…」
「…うん」
一カ月経過したら人間の魔法使いのようになってもらうという当初の約束通り、夜桜はミストフードとエルブンランスを託された。
もうすぐ他の二人もやってくるらしい。
一人前に人間のように扱われることは夢だった。
そのはずなのに、なんでこんなにも胸にもやがかかったように、すっきりとしない。
「ヒールマッシュルームだろ、あと、灯籠な。ランプリングの方がいいかな、どうしよう。お前フラッシュ使えないし、ま、俺が使えばいいか。とにかくお前は強いから、この程度の装備でも十分いけるはずだ」
「…うん」
「何だ、テンション低いな。人間と旅するの楽しみにしてたんだろ?」
「…当然だ」
人と一緒に旅をして、異世界に行って、結局賭けには負けたが、夜桜のやりたいことがこれからできるようになる。
けれど気になる。
「本当に愛すれば…」
ヴァンパイアになるかもな。
これはバルドが前に言った言葉である。
あれからずっとバルドと夜桜の関係は良好であり、バルドが暴走することもなかった。相当正義の鉄槌での一撃が効いたらしく、平謝りしてきた。
愛すればヴァンパイアに。
愛さなかったらどうなるのだろう。
また独りに戻る?
こんなときに異世界の『レイン』は何をしたのだろう、一緒にただ旅を続けて、死にそうだからヴァンパイアにしたのか。
それともヴァンパイアにずっとしたかったが、することがそれまでできなかったのか。
そんなことを考えて、表情が曇る夜桜の頬に、バルドは手を伸ばした。
途端、仲間二人の大きな声が響いて、バルドの手は引っ込んだ。
「ほら、他の奴らきたぞ。ん、夜桜?」

一階へ降りようとするバルドの甲冑の端を、夜桜はつかんだ。
「…好き」
一度それだけ言うと、ふいっとつかんだ甲冑を手放して、突き放した。
「え、あ、夜桜?」
戸惑ってバルドは夜桜を見るが、すぐに仲間の大きな声に、一階へと降りていく。
「ヤッホー、元気にしてたー?」
「予定時刻きっちりに来たな、んじゃ呼んでくるよ」
 そんなやり取りが聞こえる。
もうすぐバルドが来る。
夜桜はその場で正座したまま、エルブンランスを眺めていた。
もしもバルドが好きじゃなかったから立ち去る。そういったはずだ。
けれどバルドの中では、夜桜は仲間になることが決定していて、重要な戦力になると思ったらしい。
結局は利用なのか?
あの時押し倒したのは間違いなく欲情しただけで、愛なんてこれっぽっちもなかった。
夜桜はぽたりとエルブンランスに落ちた涙をぬぐった。
(バルドは愛してなくてただ仲間に。ああ…ああ、ああああああああああああ!!)
ガシャン、と心の何かが壊れるのを聴いた。
 そして窓を開けると、ミストフードをかぶって飛び降りた。

「夜桜、すまん、長くなった。…夜桜?」
開け放たれた窓からは陽の光が入って来ていて、そこにエルブンランスとミストフードはなかった。
当然夜桜はそこに正座しているはずもなく、まさに部屋はもぬけの殻だった。
「何…?」
慌てて窓から見るが、夜桜の姿はなく、人通りは少ない。
『一カ月たったら、去る』
その言葉が頭をよぎった。
まさか、逃げた?
自分が愛してないと言ったから?
それより逃げ出して何をする気だ?
様々な不安がよぎり、慌てて仲間に知らせに行った。

一年が過ぎた。

エルブンランスを持ち、ミストフードをかぶった極悪人がいるとのうわさが、ガルズヘイムをかけた。
何でもその髪は銀色で、目の色は邪悪なまでに赤い。
牙を見せてにやりと笑い、警備員ですら歯が立たない。
その噂を耳にしたのは、ずっと夜桜を探してきたバルドだった。
たまたま酒場で夜桜のうわさを探していた時に、まさに条件がぴったりと合う話を耳にした。
「知らないんかい、バルド。このガルズヘイムを、歩きで移動するんだと。だけど走れば人間じゃないくらい早くて、襲うのも決まって夜なんだそうだ。お前も気をつけろよ」
マニカパ僧侶の友人の言葉に、信じられないといった様子でバルドは聞き入った。
干し肉を食いちぎりながら、マニカパの友人は続ける。
「名前?名前は、名乗らないそうだ。だから依頼引き受け人も不明で。ああ、そう、そうだ、依頼受けてるってことは確か闇ギルドに所属してるのかな。ただ、襲われた人間は血がなくなってるって噂だから、ヴァンパイアだったりしてなあー」
(夜桜…?)
夜まで噂を待ち、バルド達はガルズヘイムの都市に宿をとった。
バルドは一人で、ビアドソードを手に、都市を徘徊した。
いつも困った顔をしていた夜桜を思い出す。
(もうあれから一年もたった)
突然いなくなった夜桜は、本物の人間に成り済まして、人を襲っているのだろうか。
突然、背後に気配を感じて、鉄壁の盾をとっさに出すと、エルブンランスが目の前に繰り出されていた。
(来たか!)
「…ちっ」
低い声がした。夜桜の声であって夜桜の声ではない。
一度体制をたて戻すと、相手はミストフードのフードをとった。
まさにその下にあった顔は、夜桜だった。だが、昔のように困った顔ではなく、殺人鬼そのものの顔。
唇が弧を描いて笑う夜桜に、バルドは体が動かなくなるのを感じた。
「これは懐かしい、流石、私がかつて惚れた男…」
「夜桜、なのか…」
「ふふ、君との生活で変わったよ、人間の愚かさを知った。同時に今までの己の愚かさも。
ヴァンパイアというモンスターでありながら人間を殺しては血を吸う毎日、なぜ昔の私はあんなにまで弱かったのかね?」

エルブンランスをくるくる回すと、ぴたりとバルドの首をめがけて止めた。
「懐かしいだろう、この武器。みなよ、このミストフードも。すべてが血に汚れて汚れて、あははははははは!!…私の心も、血に汚れた、もはや怖いものは何もない。警備員が来る前にバルド、君は殺してあげる」
目に光がないが、ふと見せた表情には陰りがあった。
それはいつかに見た、悲しげな夜桜の表情だった。
「夜桜…、俺が拒んだせいでこうなったのか?」
バルドが悲しげに減る無の下から言葉を紡ぐ。それを聴いて、夜桜は一瞬笑った。
馬鹿にでもするかのようにくすりと笑い、ランスを振り回す。
「さあ、なんだろうね。私にはわからないよ。ただ、耐えられなかったかな、君とずっと旅をすること。望んでいた、はずなのにね。
所詮人間とヴァンパイアは相いれんのだ、人間はずっと殺人依頼を繰り返す。それを見ているうちに、それを繰り返しているうちに、私には迷いがなくなった。
バルドに惚れていたことは汚点だ。高潔な私がなんて愚かな行為をしたのかと」
好き。
消える直前につぶやいた言葉と全く違う言葉を紡ぐ。
ずっとずっと一カ月の間苦しんでいたなんてバルドは知らないに決まっている。
まさに血の涙が出るほどの思いでバルドのことが好きだったと、最後にしたヘルプのサインですら見逃したバルドなんてもういらない。
 夜桜なんて名前もいらない。
バルドに添い寝してもらった思い出なんていらない。
「…いらない」
夜桜はぼそりと呟く。
月明かりに照らされた。
雲がすっと流れて、月の光が夜桜の顔を照らした。その眼からはぽろぽろと涙がこぼれていた。
「夜桜!」
「来るな!」
夜桜が、走りよるバルドに向けてエルブンランスを繰り出した。
だがそれは、刃の部分をつかんだバルドによって止められた。
手袋で覆われた手は、それが破れて、血がにじみだす。ヴァンパイアの怪力で繰り出されたそのエルブンランスをつかんでいた。
「何で自分の心に嘘をつくんだ、夜桜。お前はそんな奴じゃなかっただろう。
短い間でも、ずっと添い寝してほしい、添い寝すれば腕の中で眠る。俺が愚痴をこぼせば素直に聞いている。優しいヴァンパイアだったじゃないか」
「バルドに何がわかる…」

夜桜がエルブンランスを離すと、カランと柄の方が地面に落ちた。
「利用したくせに、利用しようとして、ただ強いから、それだけで旅に連れて行こうとしたんだろう」
夜桜は顔を覆った。強がっていた、先ほどまでの狂気は消えて、その場で蹲り、泣き崩れた。
「違うんだ、夜桜。俺はずっと旅をすればお前に対しての気持ちが変わると思って…、お前は旅をしたがっていたから、喜ぶ顔が…」
途端、バルドの首を、夜桜の右手がつかんだ。
「よくも嘘ばかりがそう出てくるものだ。このままへし折ってくれようか」
好き。
バルド、好き。
愛してくれたらヴァンパイアになってくれる?
いや、一緒に旅をするだけでもいい。
首を折ってやろうと力を込めて、しかしそれがどうしてもできなかった。
月明かりに照らされたバルドの顔は、一年前と変わっていなくて、それでもいつも以上に真剣な表情だった。
なぜその手に力が込められないのか、夜桜はわかっていた。
バルドは殺せない。ずっと殺そうとこの都市で悪事を繰り返してきて、他の人間は殺すことができた。
まさに名前の知れぬ悪の英雄となってしまった夜桜には、もう善人のバルドと釣り合わない。そう思い続けてきた。
血まみれのフードとエルブンランスは何度も人間の喉を割いてきて、もらった当時の美しさはすっかり失せていた。
血は洗っても洗っても取れなくて、何度も宿で泣いた。
「よ…ざ…」
はっと、その言葉で自我が戻る。
いくら力を込めなくても、首を絞めつけていれば死んでしまう。とっさに助けようと手を離した夜桜に、ビアドソードが向けられた。
ごほごほと咳き込むバルドは、夜桜に対して初めて刃を向けた。
「私を殺すのか」
夜桜は、エルブンランスを手に取ろうともせず、かといって魔法を打つこともしない。
バルドはビアドソードを突き付けたまま、微動だにしなかった。
「そうか。殺すのか…」
頭を垂れて涙を流す夜桜を、バルドは見つめていた。
何度も頭の中にあるのは、安心して腕の中で眠る夜桜の寝顔。
いつも寂しいといっては話をせがむ姿。
 ではこの一年、どれだけ夜桜は寂しかったのだろう。
こんなか弱い奴が、どうして悪の英雄にまでなってしまったのだろう。

「殺すなら、早く殺せ。何も抵抗はもうしない。もう疲れた。やはり…私は弱かった。強がっていても、だめだった。もう私は悪の英雄だ、バルドに釣り合わない…。私は…」
すっと顔をあげた。
涙でぬれた夜桜の顔はとても月に映えて美しかった。
「もし、死んだなら、最後にその死体をお前の腕の中で抱いてくれないか。あの時のように」
「っ…、夜桜」
ビアドソードが奇跡を描くのを感じる。
刃が首に来たと思い、夜桜は目をぎゅっと閉じた。
だが、刃が転がる音とともに、夜桜は抱きしめられていた。
「え」
ギュッと抱かれ、その温かさにめまいがした。
一年前に抱きしめられた時を思い出す。その腕の中で眠っていたことを思い出す。
あたたかい、血なんてものよりよっぽどあたたかく、生臭くなく、優しく、ベッドの上に座って暗い顔をしていた自分を自宅にまで連れてきた男の腕。
「夜桜、本当は辛いんだろう。俺にはわかるぞ。夜桜、今心から泣いているな、それも、これも、俺の気まぐれのせいで」
「…あ」
涙がこぼれて、夜桜は顔を覆う。
情けないまでに小さな、蚊の鳴くような声ですすり泣きはじめ、言葉をつづけた。
「強いわけがないじゃないか…。バルドと私は種族が違う、愛することができても、バルドは愛してくれなかった…」
「夜桜」
昔の優しい声が響いた。
耳元で、なでるようなその声に、懐かしさを覚えた。
「やり直そうか」
「バルド…?」
「またうちに来い。また一緒に寝よう。今度はさ、夜桜の心のこと考えるから。こんな弱い奴、手放せないって、言ったよな、昔」
「…うん…、言った…」
「お互い信じられなかったからこう何ったんだろ、今度はもう少し信じよう。俺もお前のことちゃんと考えるから。だけど夜桜も、俺が利用したなんて思わないでくれ」
一つ、息をついて、バルドは夜桜の髪をなでる。
「俺は本当に夜桜が世界を旅して喜ぶところを見たかったんだ。だから、世界のことについて書かれた本を買って渡しただろ」
今でも持っている、荷物の中にあるその本。
いつも宿でその本を出しては、読んで、頬を寄せた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )恐らく次で終わりです、長々と失礼しましたー。

  • 切なくて……泣きそうです。夜桜…… -- リィ? 2011-07-21 (木) 23:04:01

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