異流操作
更新日: 2015-06-01 (月) 00:26:27
半生 異流操作
科学/捜査/研究所/係官×科学/捜査係/主査
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
萌えが昂じてしまいました
「だーかーら!いっつも!言ってますよね!!」
「はい」
「私はね、あなたの専属係官じゃないんですよ!?今だってホラ、こーーんな山ほど仕事抱えてるんです!それに、だいたい何時だと思ってるんですか!無理ですよ!」
「はい」
いちいち素直に相槌を打たれ、余計に苛々が増す。
相手は一向に目を向けてくれなかったものの、私が指差した先の壁のアナログ時計では、既に短針が夜9時を指していた。
さっきまで、やりたくもない残業のため、研究所の暗い部屋で一人地道な作業をしていたところだった。
まだまだ優先順位の高い仕事がウンザリするほど待ってるってのに、このタイミングで一番勘弁してもらいたい来訪者が現れるとは。
いや、なぜか嫌な予感はしていたんだ。
胸がザワザワと妙に落ち着かないというか。虫の知らせというか。
来るのか…来るんじゃないかな…いや、きっと来るに違いない。
あーむしろ、来るなら早く来てくれ!
そんな自棄になった気分で、訳もなく戦々恐々としていたことは確かだ。
だからと言って、こうやって実際に来られちゃ堪らない。
情けなく宙を指し示したままの指先を戻すと、今度は、厚かましく私のデスクに置かれたダンボール箱を指差した。
「それが何ですか?え?明日までにこの厖大な画像解析しろって?」
「はい」
「あなた馬鹿じゃないんですか」
「はい」
満面の笑顔で、向かいの男が大きく頷く。
しかもなぜか嬉しそうに。
まさに暖簾に腕押し。同じ日本人であるはずなのに日本語が通じていない。
…なんだか頭が痛くなってきた。
思わず項垂れて盛大に溜め息をついてしまう。
こめかみに親指を押し当ててグリグリと揉み込みつつ、口調は我ながら力ないものに変わっていた。
「…あー、糸/村さん、糸/村さん、ねえ、糸/村さん、本っ当にちょっと糸/村さん」
「村/木さん、僕の名前呼び過ぎ」
目の前の男はクスクスと可笑しそうに笑っていたが、
「そんなことはどーでも良いんですよッ!そこに座ってください!」
「はい」
私の大声に驚いたのか、コクリと頷いて早速斜め掛けのショルダーバックを背中に回すと、隣の椅子にちょこんと腰を下ろした。
行儀良く両手を膝の上に置き、何が始まるのかと期待に満ちた大きな瞳でこちらを見つめてくる。
…ポヤポヤとした茶色の髪といい、これでアラフィフに片足突っ込んだ同い年っていうんだから嫌になる。
私は一度、スウッと大きく息を吸い込んだ。今日こそは言ってやらねば。
「前から言おう言おうと思ってたんですけどね、糸/村さん。本当に私の言ってること分かってますか?ちゃんと理解してます?」
「はい」
嘘だ、絶対に理解していない。もはや同じ地球人とも思えない。
「もう一度言いますから、よーく聞いてください。…無理です!」
無理なものは無理なんだ。
いつも思い通りになる私だと思ったら大間違いなんですよ、糸/村さん。
最後通牒を突きつけた私は、満足気に腕を組んで椅子の上でふんぞり返った。
しかし、当の相手は。
全く思い掛けない事態に遭遇したとでも言うように不思議そうな顔をして、しばしの沈黙。
それから突如、また満面の笑みに戻ると、馴れ馴れしく私の両肩に手を置いて大きくグラグラと揺さ振ってきた。
「またまたぁ、出来ますって村/木さんなら」
「無理です」
「村/木さんに出来ないわけないじゃないですかぁ」
「いーや無理です」
「そんなこと言わずに、ね?」
「だから無理だって」
「今度ディナーご馳走しますから」
ディナーという言葉に反射してしまった私も大人気ないが。
その瞬間、思いっ切り身体を振って相手の手を逃れると、その勢いのまま椅子から立ち上がっていた。
「ッんなこと言って、あなた今まで一度だって約束守ってくれたことないじゃないですか!」
「えー、そうでしたっけ?」
上目遣いで見上げてくる顔には、全く屈託がない。
そうだよ、この男は。こういう人間だった。
心底全く憶えちゃいないんだ。
…いや、よく考えろ。こんな奴から、むしろディナーに釣られる程度の男だと思ってもらっても困る。
生憎、物で懐柔されるようなお手軽な人間じゃないんだ、私は。
最前までムキになっていた自分に気恥ずかしさを憶え、再び椅子に腰を下ろしながら、私は多少ぎこちなく口を開いた。
「いや、勘違いしないでくださいよ。私だってね、そんな度量の狭い男じゃないんです。これが可愛い彼女のおねだりだって言うんならね、ほっぺに“チュッ”だけで後は何にも―――」
「―――チュッ」
―――?
なんだ、今の感触は?
右の頬に感じた、柔らかく生暖かく濡れたようなこの感触は。
「あれ、これじゃダメ?あ、そうか、可愛いおねだりか!」
状況を把握できず、呆然としたままの私の目に、
「村/木さん、オ・ネ・ガ・イ!」
組み合わせた両手をまるで祈るように捧げ、最後にニッコリ笑って小首を傾げる男の姿が妙に鮮明に映った。
多分、いやきっと、私は間抜けな顔でしばらく固まっていたに違いない。
焦れたように腕時計を見た目の前の男が、急に椅子から立ち上がる。
「あーヤバイ、僕、そろそろ行かなくちゃ。じゃあ、後は宜しくお願いします」
そして慌しくショルダーバックを直しながら、振り返りもせずにサッサと部屋を出て行った。
一拍おいて聞こえてきたドアの閉まる音さえも、どこか遠くに感じる。
待て、待て、落ち着け。
えーと、なんだ、今のは、その、つまり―――。
「―――え?……え、えぇッ…!?」
急激に顔に上ってきた血と早鐘を打つ心臓に阻まれ、全く思考がまとまらない。
その後、空が白むまで仕事が手に付かなかったことは言うまでもない。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- 萌えた!! -- 2014-06-08 (日) 04:40:42
- ご本人様再現率が半端ないよ! -- 2015-06-01 (月) 00:26:27
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