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オリジナル
更新日: 2011-06-17 (金) 09:00:10
君が好きだった
だから無防備に向けられた君の背にためらいなく刃を突き立てた
君は振り返ることもなくあの暗い井戸に落ちた
水道が引かれ使われなくなった裏山の井戸
板で蓋をし重り石を乗せてしまえばきっともう二度と開けられることはない
冷たい石の井戸の側面に頬ん寄せる
石の隙間から冷えた空気がわずかに漏れてくる
君の苦しげな声も
助けを求めているのか?私への呪詛の言葉が?耳を寄せた
“あい……し……てる……”
なんだって
“……愛して…る”
誰を
“愛している”
やめろやめろやめろやめろやめろやめろ
鮮明になる言葉近くなる声
刺され井戸に落とされ閉じ込められ
それをした男に愛を囁くこの男はなんだ!人ではないのか?
私の愛した人は井戸で変容したのか
それともあの人は井戸に落ちてはいないのか
どちらにせよ今ここに閉じ込められているモノは人ではない化け物だ
逃げなくては逃げろ逃げるんだ
そして逃げた脱兎の如くに
それっきりあの井戸には行かなかった
長い年月の後死を前にして私はひどく穏やかだ
妻と子供たちとその伴侶、たくさんの孫たち
ああなんて……
「愛している……」
その瞬間あの井戸が脳裏に浮かぶ
全てを理解し私は苦しみと後悔の中生涯を閉じた
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