進撃の巨人 エルヴィン×リヴァイ
更新日: 2011-06-13 (月) 22:29:39
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )しんげきのきょじん 団長×兵士長です
この部屋に入ってくる時,彼は決まって青白い顔をしていた。
夜の闇の中で足音を殺し,ゆっくりと扉を開ける。
懺悔をする罪人のように。あるいは,処刑を待つ殉教者のように。
初めて来た夜,彼は酒に酔ってひどく荒れていた。
真夜中の訪問者に戸惑う俺を睨みつけるように見上げ,
男はいけるかと乾いた声で尋ねてきた。
――さぁ,経験がないからやってみないとわからない。
酔っ払いの戯言だと思い,俺は軽くあしらった。
気難しい部下の珍しい姿に,微笑ましいとすら思ったはずだ。
しかし,それは大きな誤りだった。
彼が俺の夜着の胸元をつかみ,強い力で引き寄せた。
そのまま首筋に噛み付かれて,ようやく彼の行動の異常さに気付いた。
――おい,一体どうしたと言うんだ。
肩を掴んで引き離すと,彼が俺の手を払った。
――あんたが俺をここに連れてきたんだ。こんなところに!
彼の目は,暗く燃えていた。後悔,憎悪,絶望。
全てが織り交ざり,血の気のない顔の中で,瞳だけが異様な光を放っていた。
その日の夕刻,一人の兵士が死んだという報告があった。
異形の怪物に脚を喰われ,多くの血を失い,震えながら息を引き取ったという。
将来を期待された青年だったので,俺も名前は知っていた。
その兵士は,彼にとって初めての部下だった。
光る目を見て,俺は全てを理解した。
潔癖な彼が,なぜ自制を忘れるほど酒を飲んだか。
俺を責める口振りで,なぜ自分を傷つけるようなことを望むのか。
最強と呼ばれるにはあまりにも繊細な心を持ちあわせる部下に,何と声をかければい
いか俺は迷った。
「哀れむならアイツを哀れめ」
彼は吐き捨てるように言った。
――左手の癖が抜けていない,あんなグズは連れて行けない。
出兵前の訓練で,彼は断言した。それでも戦闘人数の確保のためだと他の者に説得さ
れ,半ば無理やり押し通す形で参加させることが決まったのだ。
彼は,俺が彼を拾い,兵団に入れたことを詰った。
それは司令官クラスの者なら皆知っている事実だ。
しかし,彼が真に責めているのは俺ではない。
兵士を戦地に連れて行った自分自身に,我慢できないのだ。
――俺がアイツを連れていったんだ。あんな危険な場所に。
悲痛な叫びが聞こえるようだった。
俺から手を伸ばしたのか,再び彼が噛み付いてきたのか,もう思い出せない。
小柄な体を抉じ開ける様にして抱いた。
ときおり跳ねる腰を宥めるように撫ぜた。
最後まで,お互い一言も声を上げなかった。慰めも赦しもそこにはなかった。
ただ白い背中を眺めながら,涙を流さずに泣くのだなと思った。
その夜から,彼は俺の部屋に訪れるようになった。
裁いてほしいのか,罰してほしいのか,俺は尋ねない。
強くて脆い部下の,唯一の逃げ場を奪う気にはなれなかったからだ。
今朝,婚約したばかりの女性兵士が命を落としたという。
彼はまた来るだろう。唇を噛んで,拳をきつく握り締めて。
本当は自分がどうしたいのか,俺はわかっている。
同時に,それが不可能なことも,誰より深く理解している。
だから今夜も,俺は彼を抱く。
――俺がお前を連れてきてしまった。こんな場所まで……。
言えない言葉を飲み込んで,不毛な夜を繰り返すのだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ ) 改行失敗しました…読みにくくてすみません
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