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ル/ナ/テ/ィ/ッ/ク/ド/ー/ン.第/三/の/書/ 冒険者×弱気吸血鬼

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )昔ルナドン話書いた人です。今回も吸血鬼テーマですが、かなり変な設定です

「…ってわけで、俺は…、ってことで…で、ってわけで…」
会話を聞き流す。
周りには三人、冒険者がいた。
目の前の座布団に座っているのはガルズヘイムの男戦士であり、名前は自分でも知っている。
その左右には、女魔法使いと男盗賊。
自分はなぜにこの日倭の都市にある大屋敷の居間にある座布団に、おとなしく座っているのだろう。
「だから…、あなたはそういう…ってことはこの子も…」
会話をひたすら聞き流す。
おしゃべりな三人は、ひたすら先程から世間話を繰り広げていた。
「…と、思わない?お前も」
ガルズヘイム戦士が急に話を自分に振ってきた。
正座をずっと続けるのは案外つらいな、とか、この日倭に甲冑着こんだガルズヘイム人は似合わないな、とか、その程度しか考えていなかったなだけに、彼は戸惑い、相手を見た。三人の視線が集中する。
「わ、私は…」
言葉を選ぶが、いい言葉が出てこない。
「すまない、あまり話を聞いていなかった」
だからなぜ、討伐対象である、有名モンスター・ガルズヘイムヴァンパイアの自分がここにいるのかの経緯を思い出した。

事の経緯は三日ほど前。
ガルズヘイムヴァンパイアの彼は、ダンジョンとして人があまり寄りつかない孤高の城にいた。
ダンジョン最深部に、他にうろうろとドラゴンがいたりするのを気にも留めず、倒した冒険者を足蹴りにして、啜った血がこぼれ出て、それを手で軽くぬぐう。
(うっ、やはりヴァーラクシャの戦士の血はまずい)
孤高の城の最深部までやってきたことは褒めてやる。
この部屋は屍であふれ、腐臭がすごい。
さすがに高潔な種族と一応は認識している彼は、取り巻きに合図しながら別の部屋に移る。
何人もの冒険者が挑んできた。
だが、このスティールエナジーとバンパイア・バッドの群れにかなうものはいないのだ。
バンパイア・バッドが八匹、そしてヴァンパイアが一人。
おまけにここは首都ダンジョンときた。

最深部を根拠地にしている自分にとって、ここまで来れる冒険者は大抵いないということだ。
なぜならば首都ダンジョンというだけで気軽に入る馬鹿な人間は、大抵入口にいるドラゴンやミノタウロスに返り討ちにされてしまう。
たどり着いても、何度休憩したかもわからないような顔をした冒険者は無謀にも突っ込んでくる。
 バンパイア・バッドとヴァンパイアは体力を削られたら、スティールエナジーという体力を奪う魔法を使う。
(私に勝てる相手などいないのだ)
そう思いながら、ちょこんと埃まみれのベッドで体育座りをした。
はあ、とため息をつく。
(ほかのヴァンパイアたちはどうしているだろうか。最近人間で、それもガルズヘイム人の戦士がリーダーの…名前はなんだっけ?三人組が活躍しているようだが、殺されていないだろうか)
他の仲間もここに入るが、皆自由に移動しているため、出会ったことはあまりない。それに首都ダンジョンは無駄に部屋が多い。
孤高の城も例外ではない。
高潔なヴァンパイアは、孤独など気にしない。
(と、思う)
高潔なヴァンパイアは、人間などには殺されない。
(…はずたけど)
高潔なヴァンパイアは…
(人が恋しいなんて思うはずがない)
どうもこのベッドに座っているヴァンパイアは気が弱いようだった。
そこにバタンと大きく扉の音を響かせ、乗り込んできたのは先ほど考えていた、例の活躍している冒険者であるとみられるメンバーだった。
 当然戦闘態勢に入る。
はずだったのに。
なんとなく戦う気がしなくて、彼はそのベッドの上にちょこんと座ったまま、リーダーであるガルズヘイム戦士の顔を見た。
手には正義の鉄槌。あからさまに善・秩序属性の装備だ。
金髪の男は、その正義の鉄槌を手に、拳を振り上げる。
後ろの魔法の女は、ストーンクラブを持っている。更にその隣にいる盗賊も同じ。
「いたぞ、ヴァンパイアだ、カードにするぞ!よしっ、ヴァンパイアめ、俺と戦え!!」
熱く語りだす戦士はビシッと、ベッドに座るヴァンパイアを指差した。
ヴァンパイアは下を向いて溜息をついた。
カードにする、というのは、敵を魔法でとどめをさすと、カードになってしまうという。

ここにはレアモンスターであり強いモンスターが大量にいる、それのカードを集めにこの孤高の城にやってきたのだと推測したが、ヴァンパイアは動かなかった。
むしろ、足に顔を埋めて、もう一度ため息をついた。
「ちょっと、聞いてるの!?」
後ろの魔法使いの女が、ストーンクラブを振り回し、高く声をあげた。
「嫌だ」
ヴァンパイアが言った。
「えっ」
「面倒くさい、戦いたくない、寂しい」
か弱い声。少しだけ見えた赤い眼は、泣きそうに潤んでいた。
「えっ」
冒険者三人の間の抜けた声が部屋に小さく響いた。
「…えっ」
そしてリーダーの男は、もう一度間の抜けた声を出した。

そこから一気に記憶がなくなり、気がつけばこの屋敷の、一室の布団の上にいた。
どうもその会話の後タコ殴りにされたらしい。
というのも、体中に鈍器のあとがあったからだ。
ズキズキと後頭部が痛み、起き上がろうとし、体中が痛んで思わず悲鳴を上げた。
ご丁寧に枕にきちんと寝かされていて、服はどういうわけか人間用のバスローブに変えられていた。が、脱がされたのはどうもいつも着ている青いコートだけらしい。
掛け布団も一緒にかけられていたが、起き上がったはずみで飛んで行った。
さて、屋敷中にヴァンパイアの悲鳴が響き渡り、そのうち一人の男が様子を見にやってきた。
この屋敷には似合わない、ガルズヘイムの格好をした男だった。
例の冒険者組のリーダーの男に間違いはない、が、甲冑は着ていなくて、彼もまた軽装であった。
しかしそんなことは構っていられない。ヴァンパイアはあまりの体の痛みに耐えきれず、丸まって頭を押さえた。
スティールエナジーを、と思ったが、それすらできないほど体中が痛かった。
相当殴られたのだろう。
「うう…」
ヴァンパイアが情けない声を出す。
「おおっ、目を覚ましたか、すまんすまん、殴りすぎた」
カードにされるはずだったヴァンパイアは、その気楽な声の方向に目をやる。すぐに近くまでやってきて、なでなでと彼の銀の髪をなでる。
「痛いの痛いの飛んでけー」
(馬鹿にしてるのだろうか)

と、思いつつも、体が動かせない。
「ストーンクラブ+2と正義の鉄槌で殴られたらそりゃあ誰でも気を失うもんねー、うちのは特製で、ストーンクラブには日倭製の頑丈な釘生えてんの」
ああ、どうりで体中が痛いどころの騒ぎじゃないわけだ。
そんな釘の生えたものと、ヴァンパイアの苦手な善・秩序属性の正義の鉄槌で殴られ続けたら、ここまでひどい怪我をする。
「コート、ボロボロになったから箪笥にあった俺の昔のバスローブ着せたんだけど」
(いやいや)
それ以前に聞くことがある。
「確かカードにするためと言っていた…うっ、痛っ!!けど、カードにしなかったのか」
首を動かしただけで、背中と関節が悲鳴を上げた。
目の前には青い目と金の髪、さわやかフェイスのガルズヘイムの人間。
困った顔をしたヴァンパイアは、特に攻撃するでもなく、蹲ったまま相手の顔を見続けた。
「カード手前までいったんだけど」
「…」
「何にも抵抗しないから、ぶっ倒れたお前を連れて帰ってきた」
アホがいる。
素直にヴァンパイアは思った。
「体痛いと思うけど、さすがにキュアー使ったらお前には逆効果だろ?」
と、さっとデッキからキュアーカードを取り出したのを見て、思わず身を引いた。
ハッと気づけば、周りにはいろんなアイテムが転がっていた。
まず、紅きコンドル。恐らくはこれを使ってファルコンという魔法を発生させ、カードにするつもりだったのだろう。
他にはチェインメイル+5の限界値のついたもの、ガードマンカード、とにかくいろんなアイテムが散らばっていた。普通にローブも転がっているかと思えば、盾が転がっていたり、ここは物置に使っていたらしい。
言い切ってしまえば、いわゆる汚部屋である。
ところで、彼はガルズヘイムの首都ダンジョンにいたはずだった。
ここが日倭であることには間違いないが、場所までは特定できない。
そこそこにぎわっている街だということは、外からの喧噪でわかる。
彼…ヴァンパイアは痛みがだんだん引いてきたので、少しゆっくりとため息をついた。
しかし体育座りは健在だ。
「なんでボスクラスモンスターが寂しいとかいうの?」
「?駄目なのか?」
赤い眼は困り果てて、冒険者を見つめる。
(この男の名前は…バ…バ…なんだっけ。馬鹿ならあってるはず)

「いやだってヴァンパイアっていうセリフといえば『美しく殺してやろう』とか、そんな傲慢でナルシストな発言じゃん。なのにお前、いきなり『戦いたくない、寂しい』とかいうし。何なの?ヴァンパイアじゃないの?でも明らかに特徴はヴァンパイアだよな?」
ぺらぺらと男は続けた。
「あ、そーそー、なんだしなんか持ってくるわ。お前そこにいて」
そして気がつけば、丁寧に茶まで入れてくれて、ヴァンパイアはそれを啜った。
血とは違うが、温かくて心がほっとする。
相変わらず男は目の前でべらべらしゃべり続けているが、半分以上を聞き流していた。
「ところでここはどこだ。私は創造都市の孤高の城にいたはずだ」
ガルズヘイムの首都は創造都市。
「ここ?満月都市。日倭の首都だよ」
世界地図には詳しくなくても、この世界は海が多く、船をついでかなりの日数使わないとここに来れないのだけは知っている。
相当の時間はかかるはずだが、その時間ずっと気絶していたとは考えにくい。
「満月…都市」
「風の精珠使ってすぐにここにきて運び込んだ」
風の精珠と言えば、シルフを倒せば手に入るアイテムとして有名だが、実はそれは意外な使い道もあるというのは、ヴァンパイアの彼でも知っていた。
だが大抵の冒険者はそれに気づかない。
しかしこの男は知っている。そのアイテムを使えば、どこの都市にだって町にだって一瞬にたどり着くことのできる便利アイテムだということを。
「で、さっきの続きだけど、何で寂しいの?」
「…なんとなく…。私はボスモンスターに向いてないのかもしれない」
ぼそりと呟いた。
とても傲慢な種族のセリフとは思えず、男は腹を抱えて笑いだした。
目が点になるヴァンパイア。
それでも笑いは止まらず、バシバシと畳を叩いた。
「何それ!何その文句!今までヴァンパイア退治はすげぇしてきたよ!?でもそんなこと言うの初めてだ!!ネクロマンサーだってそんなこと言わないのに、あのうっざいくらいの傲慢なヴァンパイアがー!!」
ゲラゲラと声が響く中、ヴァンパイアは思わず、ぺこりと頭を下げた。
「すまない」
ぴたりと声が止まった。
「は?」
「いや、だからすまないと」
「ちょっと待って、俺、殴りすぎて頭おかしくさせた?」
どこまで失礼な奴だろう。

が、相手は本気で心配しているようで、じろじろと顔を覗き込んで、頭にこぶができていないか確認する。
殴られ続けたせいでこぶは大量にあるが、出会ったときのあの言葉からするに、このヴァンパイアは最初からおかしかったのだろうと本人は判断したらしい。
間違ってはいなかった。
「うんうん、素直な奴だな。俺の目に狂いはない」
「どういう…」
「ウサギみたいな目をして寂しいとかいうから、思わず連れて帰ってきた」
タコ殴りにした後で、と小さく付け加える。
「…ヴァンパイアが、ウサギ…」
プライドもなにも最初からない彼にとっては痛くもない発言だが、比べる対象があまりにも違う。
彼も今まで様々な冒険者を倒してきた。
たまたま、そのあとなんとなく気分的にテンションが下がってベッドにいたところを、戦いに挑まれたので拒否しただけ。
「かーいいかーいい。うん、可愛いな、お前、その性格面白い」
「…ありがとう」
「だからなんでその言葉が出てくんだよ」
「感謝してはいけないのか」
噛み合わない言葉のやり取りが続いた後、仕方なくヴァンパイアから言葉をつづけた。
「人が恋しい。人は羨ましい。仲間と連れ添って、いつも楽しそうだ。仲が良ければ死んだって蘇生してもらえる。私は人間に生まれたかった」
「でもお前にはバンパイア・バットいたじゃないか、仲間だろ」
「いるけど…違う。人間のように、人間と話したかった。けれど皆モンスターというだけでこちらの言い分など聞かずに襲ってくる、だから嫌だった」
「変なの」
男が、茶を飲み干して、畳に茶器を置いた。
「変…だな」
自分でもそう思う、と思いながら、ヴァンパイアは頷いた。

と、それから三日が過ぎた今、自分は彼らを前にしていた。
その間は殺してやろうとか、逃げ出してやろうとかは特に思わず、素直にその男の愚痴を聞いてやる相手をしていた。
名前は『バルド』というらしい。年齢は二十七で、結婚はしていない。
やっと思い出した、とヴァンパイアが頷いた。
その時のバルドの反応は、自慢げに、そうだろうそうだろう、と繰り返した。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )続きます。ロウッド達の話が後で出てきたりします。覚えてる方いるのかな。

  • ロウッドとレインの話、とっても好きでした。今も時々ここに来て読んでます。また投稿してくれてありがとう。続き、楽しみにしてます。 -- リィ? 2011-05-28 (土) 16:11:26
  • 面白い! 前の話も読んでみます -- 2011-06-01 (水) 00:03:13

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