Top/62-472

オリジナル 「彼と男と世界一の私」

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
オリジナル 片思い 切ないっぽいつもり でオオクリシマース!

波の音に包まれ、海の匂いに身を委ね、今日も彼の背中を見つめている。
庭から海を眺める彼の後ろ、玄関脇に私用の椅子はあった。
変わることのない、ただの日常になりつつある、そんな日々。
私に幸福を与えてくれる日々だ。ただ一つ、彼から陰を感じてしまうことを除いては。
陰りの原因はわかっている。

「海辺に家を借りた。ついてくるか?」
一年前、振り向きもせずに歩く彼がそう言ったあの日。
私は黙って彼の背を追って歩くしかなかった。
同棲していた恋人に捨てられた彼は、一つのバッグと、私だけを伴って出て行くと決めた。
冷たい雨が、彼の上等な背広を濡らしていた。私は拭う手を持っていなかった。

日が落ちて、彼が暖炉へと薪をくべる。
「アルフレード、お前は綺麗だな。」
私の頭を撫でる手が、哀しいほどに優しい。
「アルフレード、お前はきっと世界で一番美しい。俺が保証するよ。」
寂しさを滲ませて笑う彼の指先に、私の長い毛が絡みつく。
小さな嗚咽が漏れそうなのを噛み殺すかのように、ただ彼を見つめる。
「アルフレード、……………――……」
彼の腕が私の体を抱き締める。
私の名を呼びながら、小さく、本当に小さく、あの男の名を呟く。

何故私ではだめなのか。
何故、私を選んではくれないのか。

そうして、彼は哀しくも安らぐ眠りにつく。私に深い渇望を残して。
これもまた、私と彼の日常になりつつあったのだ。

今朝は彼が寝室を離れなかった。たまにそんな日がある。
朝の早い時間から、その日の天気を知らせる厚い雲が空を覆っているような日だ。
冷たい雨は、私も苦手になった。
嫌な予感はしていたのかもしれない。来るなら、きっとこんな日なのだと。

煙るような雨の中、大柄な影が庭先に立った。
玄関脇の椅子に座っていた私を視界に入れると、男は軽く手を上げて見せた。
「やあ、アル。久しぶりだね。シュウは中かい?」
勝手に私の名を省略した男は、返事も待たず家へと入っていく。
ああ、予感はしていたのだ。
彼がいつも見ていたのは、海なんかではなかったのだから。
私は慌てて男の後を追った。

図々しく家へと踏み入った男は、同じく何の遠慮も無く奥の寝室のドアを開けた。
男の立てる物音を不審に思っていたのだろう。彼はベッドから立ち上がりかけていた。
「シュウ!」
男は一声発すると、彼の体を再びベッドへ押し戻すように抱き込んだ。

抵抗する彼の姿に、男へ飛び掛かるつもりだった。
男が浮かべている笑みを消してやるつもりだった。
私は確かにそうしてやるつもりだったのに。
彼の手はゆっくりと男の首へと回された。
愛しさを込めて、自らへと引き寄せるために。
二度と離れたくないと言わんばかりに。

あの男が開けっ放しにしたドアから、静かに部屋を出る。
そうする以外、ないではないか。

「もう離さない、シュウ」
「孝明……愛してる、孝明」

『世界で一番美しいアルフレード』と何度も囁いてくれた彼。
その彼が囁く愛の言葉を、私へではないその言葉を、これ以上は聞きたくない。

何故私ではだめなのか。
何故、私を選んではくれないのか。
抱き締める腕はなくとも、彼を温める毛皮があるのに。
愛を囁くことはできなくとも、愛していると顔を舐める事はできるのに。

わかっている。わかっている。ああ、わかっているのだ。
ゆっくりと尻尾でドアを閉めながら、理解してしまう自らを呪う。

彼は決して言ってはくれなかったのだから。
『世界で一番愛しているアルフレード』とは。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP