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GR 地球が静止する日 幽鬼とカワラザキ

空気読まずに投下。幽鬼「と」カワラザキです。じいさまと孫として。
厳密には801じゃないかもしれないけど投下させて下さい

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

秋も深まってきたある日の夜半過ぎ。
カワラザキは、階下で物音がしたのに気が付いて目を覚ました。
いつもならば気付くかどうかも分からないほどの小さな音だった。

まさか、こんな所――BF団本拠地の一角にある
十傑集の私邸――に忍び込む輩もおるまいよと思いながら彼が階段を下りる。
室内履きの足音を控えめに響かせながら音がした方へ向かうと、
廊下の途中にある厨房のドアからひっそりと光が漏れているのに気が付いた。
その廊下の突き当たりは嵌め殺しの大窓で、
わずかな光を反射してこちらの様子を映しているのが半分と
その向こうの裏庭の木立を透しているのが半分だった。
見ようによっては蠢く黒い塊にも思えるそれは、
子供が泣き出すには十分だったかもしれないとカワラザキは昔を思い出す。

そのドアの中にいるであろうもう一人の住人を驚かせないように、
彼はそっとノブに手をかけた。
少し力を込めると、きぃ、と時代錯誤な音がして古い蝶番が鳴いた。

「……じいさま…………」

果たして、彼はそこに立っていた。
カワラザキと同じく寝間着姿の彼は、少し乱れた横髪を肩へと無造作に垂らしている。
鬱蒼としたその立ち姿は枯れ柳のように弱々しく、まるで生気というものが感じられない。
振り向くまなこもどことなく力ない様子である。
傍らの天板の上には水に濡れたグラスがひとつ置かれていた。

「すまない……起こしてしまったか」
「いや、いいんじゃよ」

幽鬼は、気配でカワラザキが起き出して来たことを察知していたのか
さほど驚いた様子は見せなかった。

「それより、こんな時間にどうしたんじゃ?」

心配になって降りてきたと言えば、
幽鬼に余計な気を遣わせるだけになることを分かっているためカワラザキは疑問だけを口にした。
幽鬼は、わずかに逡巡するように瞳を揺らめかせたが
ほどなく、傍らのグラスへ向けるようにして視線を伏せた。
幾つかの水滴をまとった細身のグラスの中には少しだけ水が残っている。

「――喉が、渇いて。水を飲んでいただけだ」

白い照明の冴え冴えとした光の中で、そう言う顔は向こう側が透けて見えそうなほど青白かった。

グラスの横へ付いた彼の手が小刻みに震えていた。
その手へ向けてカワラザキが自分の手を伸ばすと、幽鬼はびくりと小さく身をすくませたが
カワラザキはそれに構わずに、骨ばった細い指先を上から覆うようにして握りこんだ。

「こんなに冷えて……」

温かく柔らかいカワラザキの手と比べて、幽鬼の指は石のようだった。
とても血液が通っているとは思えないような温度と質感を持ったその手を
カワラザキは両手に握って優しく擦ってやる。
丁寧で情感のこもったその仕草は、手の中のものに命を吹き込もうとしているようにも思われた。

「じいさま?」

芯まで冷えた指先は手に握るくらいでは一向に温まらない。
よくよく見れば、戸惑ったふうの彼の生え際や首筋も汗でうっすらと濡れているのが分かる。
夏もとうに終わった夜中の空気は既に冷たく、傍目に分かるほどの汗も単なる寝汗とは思われない。
このままでは体が冷えていくばかりだろうと考えたカワラザキは
あえてそのことには触れずに、幽鬼の手をいったん離すと
自分の着ていたガウンを脱いで目の前の薄い肩へかけようとした。

「これも着ておきなさい」
「いや、大丈夫だ。寒くないから……」
「いいから、着なさい」

本来なら、年齢的に自分よりも温かくしているべきのカワラザキから
上着を受け取るという事に幽鬼は躊躇したが、
あくまで優しいけれども有無を言わせないその口調に仕方なくガウンを受け取ると
厚手のそれへ遠慮がちに袖を通した。寝巻着一枚でベッドから起き出して来た身体には
彼の体温が移ったガウンが、ほんのりと、とても温かく感じられる。
そこで初めて、幽鬼は自分の身体が思うより冷えていたことに気が付いたのである。

「……ありがとう」

ひかえめな礼の言葉に、カワラザキは満足そうな笑みで応えた。
それを見て幽鬼もようやく、はにかんだ、ほんの少しだけの笑顔を
そっと浮かべることが出来たのだった。

「さ、もう戻ろうか」

・・・・・・

連れ立って、暗い廊下を歩く。古い木の階段が軽くきしむ。
二人とも無言だった。

住みなれた家の中で、明かりをつけていなくとも
自室に戻るくらいのことは二人にとって難しくない。

「幽鬼」

暗闇の中で、少し枯れたテノールが幽鬼の耳を焦がした。

「まだ、夢を見るのか?」

月明かりすらない廊下で相手の表情は全く読み取れない。
それでも幽鬼の息がひそかに震えたのをカワラザキは感じ取った。

精神を直接傷つける、剥き出しの悪意に晒されたまま幼少期を過ごした幽鬼は
ここへ来てからも頻繁にひどい夢にうなされていた。
夜中に起き出してはひきつけを起こしたように激しく泣きじゃくり、
時には体が食事を受け付けないことすらあった。
それをなだめ、抱きしめて繰り返し繰り返し寝かしつけたのはカワラザキだった。
こどもはまず自分が愛されないと、他人を愛すことを覚えることはできない。

今やそのこどもはすっかり背も伸びて、線の細さだけは相変わらずだが、それでも立派になった。
昔はやすやすと抱き上げることが出来たその身体も、
もう自分の腕の中にはおさまりきらないだろうとカワラザキは思う。
そして、もう随分前から夜中に泣きながら起きてくる事はなくなったけれども、
果たしてもうあの夢は見ないで済んでいるのだろうか。
もしかするとただ一人でひっそりと耐えているのではないか。
気にはなっていたが今まで訊けなかった事を彼はとうとう尋ねた。

幽鬼の息は、否定も肯定も出来ずにただ戸惑ってひそめられている。

これがもし、例えば翌朝に面と向かって尋ねたのだったら
幽鬼は即座に否定する事が出来ただろう。
彼はカワラザキに負担をかけること、心配をかけることを
己の身の安寧を遠ざけてまで嫌う。
ただやはり、久しぶりに見てしまった夢で飛び起きなければならないほどの思いをしたことと、
その直後にカワラザキの顔を見て手に触れてしまったこと。それが鎧を脆くしていた。
何しろ幽鬼にとってカワラザキは、存在そのものが「安心」と同義であるのだから。

「おいで」

言われて、逆らう事すら考えられずに幽鬼が導かれたのはその先の自室だった。
廊下とは違い窓から差し込む月明かりで視界には苦労しない。
ぼんやりと光るような白いシーツの寝台へ幽鬼はカワラザキに促されるまま横になった。
抜け出てからしばらく経った寝具の中は既に冷え切っている。
その細い身体の上へ、ここに連れてきた張本人が柔らかい仕草で上掛けをかぶせた。
肩や首の辺りは特に念入りに、隙間のないようにしっかりとかけてやっている。

「さ、寝なさい。もう心配しなくていい」

言いながら、カーテン越しに差し込む月明かりに浮かんだその白い額をそっとなぜた。
幽鬼は、少しだけ何か――そんな事をしてもらうほど子供じゃないとか、
そこにいると爺様の方が冷えてよくないとか、そういったこと――を言いたそうに顎を上げたが、
結局は何も言わずに大人しく瞼を落とした。
額に柔らかく触れる手のひらの温かさにはそうさせられる習慣と記憶があった。

まだ幽鬼の背丈が今の半分ほどしかなかった頃、
こうして獏を呼ぶまじないを唱えるのが日課だった事を二人ともが思い出していた。
悪い夢は獏に食べて貰おうなと、
背中をさすりながら言い聞かせてやれば少しは気が楽になるようで
次第にしゃくりあげる声も寝息に変わっていった。
その涙の跡をつけた寝顔をカワラザキは良く覚えている。
懐かしい記憶の中の顔と今目の前にある顔とを重ね合わせながら髪を梳いていると、
幽鬼の瞼が何かを思い出したようにすっと開いた。

「……おやすみ」

少しはにかんだ様子で呟かれたその言葉は、
幼い幽鬼がようやく眠る事を怖がらなくなった時に覚えた言葉だった。

「ああ、おやすみ」

今度こそ眠るために目を瞑る幽鬼にカワラザキは目を細めて答え、
もう一度その頬をそっと撫でた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

那/智さんありがとうございました。ゆっくり休んでください。

  • 泣けました。。素敵なお話ありがとうございました。那/智さんのご冥福をお祈り致します。 -- 2010-11-06 (土) 04:26:31

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