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天葬

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

激団親幹線「バソユウキ」から殺し屋と復讐鬼。
激団特番を見ていたら萌えが再燃&以前書きかけだったものを見つけたので投下。

切り立った崖の先から臨む朝の海は、穏やかに静かだった。
水平線から昇り始めた陽の光を受け、波が白く煌めき、その上を海鳥が飛んでゆく。
そんな移り変わってゆく風景をどれくらい眺めていたか。
佐治は不意に強く吹いた風に髪を煽られ、それを片手で押さえた。
そしてそれをきっかけにスッと後方に視線を流す。
見やった背後にあったのは、うずくまる一人の男の背中だった。
夜明け前、ここに辿り着いた時から微動だにしていないようにも見えるそれは、
いつもの教主の白い衣装では無く、忍び用の黒衣を身にまとっている。
その後ろ姿に滲むのは怒りか悲しみか。
理解できないまま見つめ続ける彼――怒門の前にはその時、ただ土を盛った上に
目印のような石が置かれただけの、簡素な墓があった。

都に近づく旅の途上、その土地に足を踏み入れる前から怒門の様子は少しおかしかった。
言うなれば落ち着きがない。しかしそのくせ土地の者の中には殊更積極的に入っていく。
そしてそんな中で耳に入ってきたのは、昔、この土地にいた青年のお伽噺のような話だった。
青年は年の頃衛兵として都へ上がり、そこでとある媛君に見染められた。
結婚の約束をし、その箔付けのように海の向こうの国への留学も決まり、すべては順風満帆。
しかしそんな夢のような話は長くは続かなかった。
青年はこの国には戻ってこなかった。
留学した国で、許嫁の媛君の兄を殺した咎で処刑されたらしい。
どうしてそうなったのか。事情は知らされず、訳も分からず、ただそれでも青年の父はそんな息子の
身の潔白を信じ続けた。
きっと何かの間違いだ。息子はそんな不忠を働くような男ではない。
頑なに、ひたすら。
青年もその父親も人の好い者達だったから、事情が知れても周囲の人間が冷たく当たる事は
無かったが、それでもどうしても余所余所しくなっていく雰囲気をその父親は肌で感じ取っていたようだった。
徐々に孤立し、口を利かなくなり、食も細った。
そんな父親のもとに、ある日都からの使いが来た。
立派な武人の身なりをしたその使いは、父親にかつての息子の許嫁だった媛君の婚儀を伝えた。
この国の大王が媛君を妃にと望んだらしい。
自分達にとってはまるで雲の上のような話。
しかし父親には例え相手が雲の上の存在であろうと、その行為は息子を信じる心に対する
裏切りになったようだ。
武人が来た翌日、その父親は……死んだ。

『自害だったようですけどね。詳しい様子はわしらにはわかりませんでした。
知らせを聞いたその媛様の家中の方々が、片づけのすべてを取り仕切ったので。
ただその中に例のご武人は見かけましたね。彼らはその父親をこの林を抜けた先にある
海の見える崖に埋葬したようです。そしてわしらには、その場所に無闇に近づかぬようにと。
だから、どうぞ気をつけて下さい教主様。下手に近づけば、どんなお咎めを受けるかわからない』

語られた言葉に固まっていた、あの時の怒門の背中。
その夜、宿坊から一人抜け出そうとするその行く手に立った時、彼は自分をただ無言で
見つめてくるだけだった。
おそらくは説明や言い訳を口にする余裕も無かったのだろう。だから、
『一緒に行くよ』
と、自分は言った。
『僕は君の護衛だからね』
それに返される彼の声は、あの時やはり無かった。

「父上との話はまだ終わらないかい?」
夜が明け、空も白んじてきた。
こっそり抜け出てきた宿坊も、自分達の姿が見えないとなれば騒ぎが起こるかもしれない。
そんな理屈を胸に発した佐治の声に、その時怒門はビクッと肩を震わせたようだった。それでも、
「……話などしてしていない…」
ややして、ポツリと落とされた呟き。それに佐治は少しだけ安堵の息を吐き出した。
「ならば何を?」
「俺に出来る事と言えば、ただ謝る事だけだ。」
ひっそりと返される、その声にはどうする事も出来ない無常感が滲んでいる。
さもありなん、どれだけ悔いようが悲しもうが、もはや取り返しがつかない事と言うものはある。
彼の父親の死は、まさにそれであった。
「君の事を最期まで信じていたようだね。そう考えると君と父上はやはり似ていたんだろうか?」
自分は血の繋がりなどまるで信じてはいないけれど、
「何故そう思う?」
「だって、驚くほどに頑固じゃないか。」
サラリと告げてやった、その言葉に怒門が膝を突いたままハッと振り返ってくる。
その視線に向け、佐治はこの時ほのかに微笑んで見せた。
しかしその笑みの下でこうも思う。
だからこそ、その強固なまでに張りつめた心の糸は、切れてしまえばこれ以上なく脆い。
自分以外にも息子の無実を信じていてくれたと思っていた唯一の者の裏切り。
下手に希望など持つから突き落とされる。
それは自分にはただ愚かな所業としか思えなかった。けれど、
「君の父上をここに埋葬したのは、やはり君の許嫁の手の者かい?」
今はそれを口にはせず、違う言葉を操る。ただ事実を確認するように。
しかしそれにこの時、怒門の表情にはサッと苦い影が走った。
「あぁ、京鐘家の手の者だろうな。美琴の婚儀の前に忌まわしい過去はすべて闇に葬り去りたかったんだろう。だから人里離れたこんな場所に…」
語尾が掻き消える、しかしその言葉尻を捕らえて佐治はこの時ふと周囲に視線を巡らせた。
眼前に広く海の広がる、ここは寂寥とも閑静とも取れる場所。
しかし佐治は、この時もそれについての言及を避けた。その代わり、
膝まづく怒門の肩越しに見やる簡素な墓。
「人の体を、地に埋めるから想いが歪む。」
そしてボソリと告げたその言葉に、怒門は瞬間ふと眉をひそめてきたようだった。
「佐治?」
いぶかしむ様に名を呼ばれ、口元にもう一度笑みが浮かべる。そして、
「大陸ではね、」
場に不似合いな涼しげな声が、この時唇から零れた。
「大きな都では知らないけど、そこから一歩外れれば野晒しの死など珍しい事じゃない。
山に川に、そして荒地では人の骸を鳥が食う。けれどそれはただ痛ましいだけの事ではなくて
食われた体は鳥の血肉となり、天に舞う。だから鳥の葬いは天の葬いとも言われている。」
「…………」
「君が望むなら叶えてあげようか?」
笑みを消さぬまま、佐治はそう言ってスッと着物の襟の合わせから懐を探った。
そして呆然と口を閉ざし続ける怒門の目の前に取り出してやったのは、竹で出来た小さな笛だった。
「鳥笛だよ。鳥を呼び寄せるのに使う。昔は連絡用に使っていた事もあったけど、ここ数年は
無用の長物だった。それでも吹けば何とかなるかもしれないよ。」
まあ、その手の鳥がこの辺りにいるかどうかも問題ではあるけれど。
そう言葉をつけ足し、佐治はこの時まるで子供が遊ぶような軽やかさで笛に唇を近づけようとする。しかし、
「…待てっ…」
瞬間、それを叫ぶような激しさで押し留めてくる声。
視線をゆらりと傾ける。と、そこには片手を前方に差し出し自分を必死に止めようとする怒門の姿があった。
だからそれを瞳に映したまま、佐治はゆっくりとその手を下へおろす。
するとそれに怒門は一瞬緊張の解けた表情を見せ、そのまま地面に両手を突いた。
うつむくのに合わせ、彼の長い白い髪が肩から滑り落ちる。
そしてその隙間からやがて聞こえてきた音。それはどうやら彼の失笑じみた声のようだった。
前のめりだった体が起こされ、ドサリと地面に座り込む。そして、
「慣習の違いだな。」
一言天を仰ぐようにそう呟くと、怒門は次の瞬間佐治にまっすぐな目を向けてきた。
「すまない。だが、止めておこう。おまえの申し出を受ける為には、俺はこの墓を暴かなければならなくなる。
その結果、俺の気持ちは少しは軽くなるかもしれないが、父にしてみれば静かな眠りを妨げられる
二重の親不孝になるだけだろう。」
「…………」
「すまない。」
怒門は繰り返し言った。そして、
「でも……ありがとうな。」
こんな言葉まで口にした。
言われた瞬間、佐治の目がわずかに見開かれる。
まさか礼を言われるとは思わなかった。それどころか、
「しかし、なんなら俺が死んだ時は佐治に頼むか。すべてを無に帰し、空を舞えるのならそれもいい。
もっとも……そんな綺麗な終わり方を俺が望んでいいのかはわからないが。」
穏やかな笑みの中に微かな自嘲を含ませて、そう視線を落とした怒門に、この時佐治はなんとも
例えようのない感情が胸に湧き上がるのを覚えた。
それはひどくもやもやと形を成さない……だから、深い考えのないまま滑る言葉が口をつく。
「君は……僕より先に死ぬつもりかい?」
珍しく不快に近い感情が滲む声に、目の前今度は怒門の方が驚いたような表情を見せた。
「いや…そう言うつもりで言った訳じゃないんだが……でも、そうなるのか。」
言っている途中で気付いた様に最後がひどく小声になる、そんな怒門に佐治の理由の無い苛立ちは増す。
「何故?」
だからジリッと足を踏み出しながらそう声の調子を強めれば、しかしそんな佐治の胸の内など
まるで気がつかないように、怒門はこの時困ったような笑みをその目元に浮かべながら告げてきた。
「何故って、おまえの方が俺より年若いじゃないか。」
「………」
「それにおまえの方が俺より強い。」
きっぱりと言い切られた、その言に佐治は一瞬返す言葉を失ってしまう。
それは、そうだが。そして自分は確かに、自分の死に方など考えた事も無いけれど。でも……
「なんだか嫌だな……」
心底苦々しげにポツリと零した、そんな佐治の呟きに、怒門はこの時尚も笑ったようだった。
「なら、先に死にたいのか?」
「それも御免だ。」
少しからかうように言われ、即座に返す。と、それに怒門は佐治は我儘だなと続けてきた。
我儘、そうなのだろうか?よくわからない。けれど、
先に死なれるのはつまらない。
先に死ぬのもつまらない。
ならば、それを避ける為には……

不意に目の前煌めく光が見えた気がした。
交じりあう剣戟が放つ一瞬の光。
それは過去の記憶か、それとも……未来の予見か―――

その中に同じ命の長さを求める可能性を探れば…それは…

相討ち――――

「心中くらいか。」

沈みかけていた思考に割り入る様に、その時不意に耳に飛び込んできた言葉。
それに佐治がハッと顔を上げると、視線の先にはやはりこちらを穏やかに見つめてくる怒門の瞳があった。
その唇が動く。
「一緒に死のうと思ったら、それくらいしかないだろう。」
「………」
「まぁ、戯言だな。すまん。」
黙り込む佐治の先回りをするようにそう告げ、怒門はその時座り込んでいた場所からゆっくりと立ち上がる。
着物についた土を払い、その手も叩く。そして、
「帰ろう。」
彼はそう言うと、すっとその手を佐治に向け差しのべてきた。

宿坊へと戻る道すがら、気を取り直したように見えても、まだ怒門の口数は少なかった。それでも、
「おまえが一緒に来てくれてよかった。」
時折、前を行く彼の肩越しに零される呟き。
「でなければ俺は笑う事はおろか、こうして立ち上がって歩く事も出来なかっただろう。」
ボソリと言われ、そうなのかと思う。
と、同時に先程までの事を思い出しもする。ああやって笑っていたのも無理をしていたのかと。
ならばそのやせ我慢が愚かしいにもひどく可愛らしくて、

やはり天にも地にもこの男はやれない―――

再び可笑しそうな笑みを取り戻しながら歩く速度を速め、少しだけ彼との距離を縮める。
そんな佐治の手の中でその時、不要となった鳥の笛がキリリと軋む音を立てていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

久しぶりで手間取り+ナンバリングもミスりました。すみません。
早くゲキツネ公開にならんかな。

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