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R.u.i.n.a 廃.都.の.物.語 キ.ャ.シ.ア.ス+シ.ー.フ.ォ.ン

キャシアス+シーフォンという試み。
相手が賢者の弟子なら、同じフィールドなので真っ向から楯突くけど
全く別のジャンルなら違った方向からのアプローチもありえるかなと。
シーフォンの病気全開で17世+魔将フラグな表現があるのでご注意下さい。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

遺跡の最下層に位置する大廃墟の中心、更にその地下。
四つの秘石によって進入を許されたその墓所には、
単に瘴気と呼ぶことすら憚られるような濃く暗いもので満ち満ちていた。
息をするだけでも肺に圧力が掛けられているような感覚に何とか抗いながら、
キャシアスたちは注意深く歩を進めていった。
手元に掲げた玻.璃.瓶の光が、青白く、凄味を持って
通路の宝飾や壁画を照らし出している。
明るい陽の元で見れば美しいかもしれないそれは、
今はただおぞましい空気の一部分でしかない。

「キャシアスさま、ご注意なさって下さい。
 この空気……まるで、感覚が狂わされてるみたいです。
 あちこちに色んな気配があって……」
「空間そのものが、魔力を保持して循環させる力場になってるみてぇだな。
 おそらく、この墓所全体が何かの呪術的な装置なんだ。……胸糞悪ぃ」

そう言う二人の顔も、光加減のためか別の理由のためか、どことなく青白く見えた。
襲ってくる魔物も見た事がないものが多い。
地上のそれよりもずっと手ごわい闇の塊のようなものを切り捨てながら、彼らは更に進んだ。
玄室と移動用の通路を交互に行き来しながら、三つ目の短い階段を下りる。

そのフロアの壁や天井は、上層よりも更に多くの壁画と碑文で埋め尽くされていた。
長い廊下には神話の風景が所狭しと描かれている。
しかし細かい装飾やレリーフたちは、いかにも何かの仕掛けが含まれていそうではある。

用心しながら廊下を進むうち、ふとキャシアスは後ろから聞こえる足音が
遅れがちになってきていることに気がついた。
振り向くと、すぐそばのフランの背後から更に数メートルの距離をおいて
シーフォンが壁に手を付いている。
パーティに付いてきてはいるようだが、その歩みは普段より遅い。
どうしたのかと尋ねるとシーフォンはすぐに壁から手を離し
「なんでもねぇよ」と言った。
しかし壁から離した手は頭痛のときのように彼のこめかみへと向かい、
顔色も心なしかさっきより悪いようだ。

「あまり離れない方がいいですよ。はぐれたりしたら大変ですから」
「うるさい。わかってる」

(鈍感な奴が幸せだってことは、死者まみれの宮殿で嫌というほど思い知ったからな)

ガンガン痛む頭と、呼吸をするたびに吐き気を増してくる胸を押さえながら
シーフォンはすり足で二人の後を追った。

少し行くと、高い天井を持った大広間へと出た。半円状の暗い天井に星図らしきものが書き込まれている。
星座を作る点と線たちは、キャシアスたちは夜空に見た事がないものばかりだった。
どこか別の土地の夜空なのだろうか。あるいはこの墓所に眠る者たちが生きていた時代の。

「……ちょっと待て」

注意してそこを通り抜けようとしたとき、最後尾のシーフォンが前の二人を呼び止めた。

「何か書かれてる。単なる神話じゃないな……」

中ほどの壁にはめられた石版と、そこに刻まれた碑文にシーフォンが見入っていた。
彼は振り向きもせず、無言のまま右手を後方に伸ばす。
キャシアスがその手のひらに玻.璃.瓶を乗せてやると、
シーフォンはそれを碑文へと近づけてますます真剣な眼差しを注いだ。

「『四つの秘石、および輝きのイーテリオについて』……。
 伝承?いや、予言の類か……『大河流域世界の統治者にして…」

手にした玻.璃.瓶で碑文を照らしながら、シーフォンはゆっくりとそれを読み上げていった。
淀んだ魔力が充満したこの場所で、まるで詠唱のような不思議な響きを持ったその言葉は
連ねられるたびに何かの術式が発動してしまいそうな不安を後の二人に与える。
その二人が背後から見守る視線を気にも留めずシーフォンは一文字一文字を解読していった。

「『……時により形を変える。そして帝国の永続を願う呪文が刻まれている。
 これらには大いなる…』…ん、……
 ダメだな。削れてて読めない部分がある。
 『大いなる……が宿り、所持する者を…永久の……
 ああクソ、こっからが肝心だってのに!」

碑文は、その中ほどの部分がまだらに削れ、文字の形を失っていて
知識の問題ではなく物理的に読み取る事が不可能になっていた。
シーフォンは悪態をつきながらその壁を軽く殴る。

「ん、最後の方はまだ読めるか。
 『……時来れば、四つの秘石を再び得る者が現れ、
 四重の守護を破りタイタスの前に至る。
 その者が』、……『タイタスに等しき者であるがゆえに』
 ……これで終わりだ」
「……どういう、意味でしょうか…」
「…………」

碑文の意味を図りかね、不安そうにしているフランには応えず
シーフォンは黙ったままその壁を睨みつけるようにして考え込んでいた。

「…………ふん。さあな。だが、この傷……」

シーフォンの指が碑文の中ほどに刻まれた傷をなぞる。

「ただの風化じゃない。墓所の年代や碑文の古さから見ると、この傷は新しすぎる。
 しかも跡が鋭利だ。意図的に削られたとしか思えない」
「え?だって……」

フランの言わんとする所は、キャシアスにもすぐに理解できた。
この墓所は、今まさにキャシアスたちがその『四重の守護』を破って入って来た所だ。
それより以前にこの碑文を削り取ったものがいる?この封印された墓所の中で?
考えたくはないが、嫌な想像はどうしてもある一箇所に辿りつくしかない。

「ハッ、こんな半分魔界になりかけてるような場所だ。
 何がいたっておかしくはねえだろうよ。魔物以外にもな」

シーフォンは恐ろしい事をいとも簡単に言い放つと、
それまでかぶりつくように見入っていた碑文からぱっと体を離した。

「お前らが考えてたってどうしようもねえだろ。さっさと先に行こうぜ」

つうと、こめかみから頬へ伝った脂汗をシーフォンはローブの袖でぬぐった。
あの碑文を読んでいる途中から、頭痛に加えて
頭の中で鐘を鳴らされているような耳鳴りが繰り返された。
しかしここで引き返せるわけはない。
その耳鳴りに混じって、シーフォンには聞こえたのだった。

この場の濃い瘴気が、さながら水が雷を通すようにして
地下深くの意識を伝えた。
高い魔力を持つシーフォンだけがその断片に気づいた。
その意識は、自分たちにだけ向けられたものではなく、
ずっと昔からこの空間に満ちていたものだったのだ。
何千年もの間ただ一人の意識がここを埋め尽くしていた。
そしてそれは、呼んでいるのだった。
キャシアス。
確かにそう聞こえた。
おぞましいほどに低く、文字通り地の底から響く音でありながら
その声は歓喜にうち震えているようだった。
シーフォンの中で、いくつもの疑問が一気に瓦解する。
始祖帝は、彼にもっとも似た者をこうして呼んでいるのだ。

目の前に立つ騎士を睨むようにして見つめる。
あの貴族の坊ちゃんほどではないが、常に矢面に立ち、
他人を守ろうとするキャシアスの行動にシーフォンはほとほと嫌気が差していた。
普段はそうやって善人ヅラしてても、いざ自分の命が危ないとなったらケツ捲って逃げ出すんだろうが。
貴族や騎士なぞどれも同じだ。
だが、なぜか。以外に結構ちょっとだけ、つるんでいる間は楽しかったりしたのだ。
しかしそれももう終わりだとシーフォンは心中で決意を新たにする。

「ち、ちょっと待って下さい。シーフォンさん、顔色が真っ青ですよ!?」
「……なんでもないって言ってるだろ。このランプのせいだ」
「そんなんじゃ……!」

フランの反論が終わらないうちに、シーフォンの身体がぐらりと前にかしいだ。
慌ててキャシアスがそれを抱きとめる。
細い身体は驚くほど体温が低く、軽かった。

「……ああ畜生、そうだよ、最悪の気分だ!つうかよくこの瘴気の中で平然としてられるなお前ら!?」
「いえ、その……。危ない感じはしますけども、気分が悪くなったりは……」
「これだから脳筋は……うぷっ…やべえ、マジ吐きそう…」

シーフォンは最後の力を搾り出すように呻くと、
開き直ったのかぐったりとキャシアスの肩にもたれかかった。
ともあれ、一人がこんな状態では奥へ進めそうもない。
キャシアスの支えがないと今にも地面に倒れこんでしまいそうなシーフォンは、
歩く事も難しそうだ。

キャシアスは、背負っていた道具の入ったバックパックをフランに預けると
ろくに抵抗もせずされるがままのシーフォンを無言でおぶった。

「う」

背に乗せられたことに気が付いて、流石にシーフォンはわずかに身じろいだが
それ以外に選択肢もないとすぐに気づくと大人しくなった。
キャシアスとしては、肩に担ぐ形が片手も開くため抱えやすくはあったのだが、
体調が悪い状態で頭を下にするのはよくないだろうと
これでも気を使った結果なのである。

「キャシアスさま、警戒は私に任せてください」

よいしょと荷物を背負って来た道を引き返し始めたフランに、
キャシアスも背中の低い体温を気にしながら頷いてその後を歩いていった。

「……ぅう………」

キャシアスの背に揺られながら、ぐるぐると混濁する意識に抗ってシーフォンは思っていた。
いずれ、いや、もうすぐ。
この『タイタスに等しい者』が始祖帝の元に辿りつくだろう。
四つの秘石を持ち、孤児として拾われ、数々の化け物を打ち倒したこの男が。
それこそが少し前まで疑問と思っていた仕掛けだ。
タイタスの霊魂と相対した時、こいつは始祖帝そのものになる。
そして、歴代のどの皇帝にもなかった圧倒的な力でもって帝国を再建するだろう。
知らず、シーフォンは強くキャシアスの肩を握っていた。

(――連れて行け)

縋る腕も、蚊の鳴くような声も、瘴気にうなされての事だと思ってキャシアスは気にも留めない。
フランと共に周囲に気を配りながら墓所の出口を目指している。
シーフォンは暗い視界の中でその横顔を盗み見た。

もはや始祖の力は、望んでも詮無いことだ。
その正当な後継者が目の前にいるからだ。
しかし、ひとつの目的が潰えても、すぐさま他の最適な行動に移ることにシーフォンは慣れていた。
この場合は、つまり。

何とか強敵に出会うこともなく墓所から脱し、遺跡そのものから出てくる頃には
シーフォンの体調もあらかた回復していた。

「……もういい。一人で歩ける。さっさと下ろせ馬鹿」

いつもの言い草で、しかし声は弱々しくシーフォンが言った。
本当ならば宿まで運んでも構わないのだけれど、
そうすると後ろから焦がされる危険性が多いにあるため
キャシアスは大人しく町外れで彼を背中から下ろした。
しかし、すとんと音がしたことを確認し、振り向こうとしたキャシアスの上腕を
いまだシーフォンが掴んだままでいた。
無理に振り向けないこともないが、シーフォンがそれを望んでいないのが
なぜかその指から伝わってくる。

「……連れて行けよ」

唐突に呟かれた言葉の意味が分からず、キャシアスは思わず聞き返した。

「僕をだ。そのときが来れば分かる。せいぜい、役に立ってやるから」

腕を掴んだまま離さずにいるシーフォンは、その言葉こそ普段の乱暴なものだったが
声の色にはどこか必死さが滲み、強張っていた。
どんな表情をしているかは分からないが、細い指にも不必要な力が入っている。
その様子に、単なる探索のメンバー組みのことではないのだろうと察する事は
キャシアスにも可能だった。しかし何を意味しているのかまでは読み取れない。
疑問を問いかけようとしたところで、シーフォンは今まで掴んでいた腕を離し
とん、と軽くキャシアスの背中を押しやった。
その反動を利用して背を向け、宿に向かって歩き始める。
キャシアスは慌てて振り向いたが、
ぶかぶかのローブに包まれた背中に、なぜか声をかけることもはばかられて
キャシアスとフランはそのまま彼が角を曲がって見えなくなるまで見送った。

そうだ。
皇帝そのものになれないなら、その腹心になればいい。
幸いあいつはお人よしで、その上魔力の面はからきしだ。
必ず僕が必要になる。
いや、必要とさせてみせる。

陽が落ちて冷たい風の吹いてきた町外れで、
シーフォンはばさりと音を立てて闇色の外套を羽織る。
それは彼がいつの間にか荷物の中から抜き取っていた、魔将の外衣だった。

もう後には引けない。
元より赤みの強かった瞳を、ますます血のように赤く光らせ、シーフォンはぎゅっと拳を握った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
せっかくの腕力スキル、お姫様抱っこに使いたかったけど
ダンジョンの中では無理がありすぎて諦めました。無念。


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