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Living Dead Lovers

藤/崎/竜版の屍/鬼で徹×夏野です
「もしも夏野が屍鬼達の幹部になっていたら」という捏造if設定なので苦手な方はご注意ください
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

人ならざる者屍鬼の集落、外場村は頂点に兼正の沙子を頂き、僅かな人狼に統率される3つの集団に
分けられる。
倉橋佳枝率いる屍鬼として起き上がったばかりの者を教育する山入、辰巳率いる屍鬼としての生活に
慣れた者が起居する外場村、そして結城夏野率いる都会班である。
都会班は屍鬼ばかりで獲物となる人間がいない村から自動車道で都会へ屍鬼を送り、狩りを采配する。
また自分で狩りを行えない仲間のために餌である人間を都会から間引いてくる役割も担っていた。
深更、村に都会班が帰ってくる。村中で遠征した屍鬼達を降ろすと、バンは山入へと分け入っていった。
「お疲れ様!辰巳が結城くんのこと待っているよ!」
バンを待ち構えていた佳枝は、降り立った夏野に声をかけるとテキパキと教育係の屍鬼達に指図して、
家畜をトラックで移送するごとくバンから人間達を引き摺り下ろしては檻へと連れて行かせる。
夏野は無言で頷くと、バンを運転していた傍らの武藤徹を見上げた。
徹は唇を噛み、連れて行かれる人間達をじっと見つめている。
「行こう、徹ちゃん」
すっと脚を運ぶ夏野に遅れまいと、徹は慌てて夏野の一歩後ろを付いて行った。
―――ほら、あれが結城夏野だよ
―――私を攫うよう指示したのも彼なのね
―――傍らの青年は武藤徹といって、結城さんの子飼いだ
―――人狼だから、ヒトを襲わなくても俺達のように飢えないのさ。同じ化け物なのに
―――その辺で止めときなよ。兼正や人狼に逆らったり目をつけられたりしたら・・・
集落を横切る夏野達を、屍鬼の畏怖の視線と囁きが追いかける。人狼として身体能力や五感が発達した
夏野でなくとも、その囁きは徹にも聞き取れた。
徹は声を振り切るようにただ前を行く夏野の足元を見つめたまま歩いた。
「や!お帰り。今夜もご苦労様」
徹と夏野が外場で住処としている家には、辰巳が既にきていてリビングで待っていた。
夏野は辰巳に一瞥を投げると、対面のソファーに腰を下ろす。

時に冷酷な一面を露わにする辰巳を徹は苦手としていて、人狼同士の会合の際には給仕だけして
奥に引っ込んでいるのが常だった。
「俺、コーヒー用意してきます」
「ああいいよ、それより今日は武藤くんも座ってくれ」
にこにこと促され、仕方なく徹は夏野を伺うとそろりと夏野の隣に座った。
「で?用件は?」
「沙子がきみのことを褒めていたよ。『よく働いてくれている』って」
「どうも」
徹は無愛想な夏野に辰巳が機嫌を損ねないか、はらはらと忙しなく二人を見やる
「ただね、きみが間引いてくる人間なんだけどね―どうして少年がいないんだい?」
ひたりと辰巳は夏野を見据え、夏野は微塵も揺るがずその視線を受け止めた。
「そう、きみや武藤くんのような年代の若い子がいない。これはどういうことかな」
「どうもなにも。たまたま運よく俺達に間引かれなかっただけだろう」
「それだけかい?僕はもしや結城くんが手心を加えているのかと思ってね」
にたりと笑う辰巳を、夏野は睨めつけた。空気がピンと張り詰める。
「…何が言いたい」
「屍鬼に殺され、屍鬼となった武藤くん。そして飢えと家族と親友の命を天秤にかけ、
家族を取った親友の武藤くんに襲われて人狼として蘇生した結城くん。
今なおその事で苦しむ武藤君のために、きみのような年頃の少年をわざと見逃しているとしたら、
これはいただけないね」
辰巳はぐっと身を乗り出すと、獰猛な狼が生餌を嬲るように夏野を注視する。
「家族が起き上がらなかった屍鬼は、気に入った相手がいればそういう者同士で連れ添う。
でもきみが屍鬼となる餌を間引いてこないと、可哀想にあぶれる者も出てくる。
…中にはヒトを襲わずに済み、幸運にもパートナーの人狼の血で生き永らえている仲間に妬みを
募らせる屍鬼も出てくるかもね」
ぴくりと夏野の肩が揺れ、徹は俯いていた面をはっと上げる。
「人間でありながら屍鬼になった人狼の血なら、人間の血と同じように屍鬼の飢えを満たせる。
その上人狼だから回復力もある。
ヒトを襲いたくない殺したくないって思っている覚悟がない屍鬼からすれば、その屍鬼も、
血を与える人狼も憎しみの対象だろうね」
辰巳はじっくりと夏野と徹の反応を味わうと、身を引いた。

「や!そんな人狼と子飼いの屍鬼なんていないだろうけど、そんな噂が外場に広まらないように
頑張ってくれというのが沙子と俺の考えだ。
じゃ、これで俺は失敬するよ」
辰巳がひらりと手を振って出て行ったリビングには重苦しい沈黙だけが蹲っていた。
「夏野…」
ふうっと夏野は力を抜くと、徹に寄りかかった。
腕の中の肢体は青年への過渡期の薄い体のままで、自分では死と共に失った呼吸と温もりが哀しく、
愛しく、そっと抱きとめた。
「徹ちゃんが初めて俺を襲ったときも、こんな風に優しく抱きしめてくれたよな」
背中を支える腕の優しさも、その腕の冷たさも覚えている。そして『獲物』として自分を覗き込んだ
冷えた瞳も。
手を指し伸ばすと、徹ちゃんは自分から頬を寄せてきた。
「夏野を襲いたくなかった。人の生き血を啜らなければ生きられない自分が嫌だった。
でもあの時、清水が夏野を襲おうとしたとき、思ったんだ。
清水は夏野を襲うことを受け入れていた。夏野を襲うことを躊躇する人間らしい苦しみはなかった。
俺はその苦しみを、誰にも譲りたくなかったんだ。たとえその苦しみを未来永劫抱えることになっても」
まるで石を飲み込んで苦しくてたまらないように眉を寄せる徹ちゃん。
人だった頃の徹ちゃんは、こんな風に苦しげではなかった。
当たり前だ。俺達は人外の化け物になったのだから。
「俺は、徹ちゃんを殺した屍鬼が憎い。俺を殺した徹ちゃんが憎い」
徹はぐっと顎を噛み締め、夏野の憎悪を受け止める。
「徹ちゃんが俺を襲った苦しみを抱え続けて、苦しくても辛くても生きるっていうのなら、
生きたいとは思わないけど、俺も生きるよ。
俺は俺と徹ちゃんを奪った屍鬼への怒りと憎しみを抱えてな。
…矛盾してるよな。
屍鬼を憎んでいるのに、都会班を采配して、徹ちゃんを許せないのに中途半端な間引きでその苦しみを
和らげようとして、けっきょくこの村に帰るしかないんだ」
「夏野」
夏野は蘇生してから、「夏野」と下の名前で呼んでも怒らなくなった。きっと、そういうことなのだろう。
「村に捕らわれるのは御免だけど、徹ちゃんにならいいよ」


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