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ブレイクブレイドでジルグ×ライガット

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                     |  ブレイクブレイドのジルライ話だよ
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  原作8巻のアレは完全無視。少しにょた気味。
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 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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 環状外門は放棄された。
 王都に居住していた多くの市民は、オーランド国境付近に位置する街に避難した。
 いまこの地に残っている者の多くは兵士であり、騎士であり官吏の類いだった。そしてごく少数の民間人が混じっていた。
 侵攻を続けるアテネス連邦軍との休戦協定は、明日正午を境に破棄される。
 緊張と興奮。動揺と高揚。相反するさまざまな感情が静かに王都を満たし、クリシュナ王国最後となるかもしれない夜が過ぎていく。
 この土壇場で、それでもまだ活発に活動を続けているのは、昼夜を問わずゴゥレムのメンテナンスや改良改修に携わる、魔導技術士団ぐらいのものだった。
 石英を研磨し、圧縮、合成、接合するさまざまな音が鳴り響くハンガーで、ライガットは配給の固パンを咀嚼していた。その視線の先には、この国の王妃であり、ライガットの親友でもある最上級魔導技術士のシギュンがいた。
 いつもの赤いフードから覗く横顔には、隠しきれない疲労が頬の陰りとなって表れている。

 いまになってもまだ彼女が懸命に補修を進める機体は、味方からも『異形の』と称される古代ゴゥレムだ。
 黒銀のボディに、追加された新装備が、見ている端からもぞくぞくと取り付けられていく。
 一日の稼動限界時間が短いデルフィングは、実戦形式で訓練を積む時間がほとんど取れない。
 頭のなかで繰り返される戦闘シミュレーションは、休戦協定が結ばれてからこの二十日間、ずっとライガットの脳裏を占めて離れなかった。
 どのように触れ、どのように操作すればどのように、デルフィングが応えてくれるか。
 全長の倍ほどはある長槍に、貫通性能を高めた投擲武器。苦手だった両手両足のパーツをそれぞれに動かして、複雑かつ立体的に操縦する術も身につけた。
 プレスガンを用いない純粋な模擬格闘戦なら、サクラ近衛大隊長相手にさえ、五戦五勝するほど近接戦には習熟した。

 いまの自分なら、たとえボルキュス相手でも、二度とあのような無様な結果にはならないという自負がある。
 デルフィングの性能だけに頼った、技巧もへったくれもない力任せの戦いは、絶対に――。
 ハンガーを見下ろすキャットウォークには、多くの魔導技術士のほか、作業を見守る重騎士の姿も複数見られた。鎮座する自分の愛機を前に、明日の決戦に思いを馳せているのだろう。
 見渡す視線の先、ちょうどハンガーのどん詰まりに位置する細い通路の入り口に、ライガットには見慣れた男の姿が現れた。付近の兵士や歩哨たちが一斉に、ざっと踵を打ち鳴らして敬礼をする。
 作業の手を止めて頭を下げてくる技術士たちへ、「構うな」と片手で続きを促して、クリシュナ国王ホズル9世はひとしきり辺りを見渡した。
 細かい表情の判別まではし難い距離を置きながらも、ライガットはホズルが穏やかに、自分に対して微笑んだのが分かった。こちらもそれに応えるように、大きく右手を一度振ってみせる。
 親友は肩に乗せたグラムの嘴を撫でると、護衛を連れてまた通路の先へと消えた。

「仲の良いことだな。おまえと王妃のどちらを見に来たのだか」
「んなのシギュンに決まってんだろ?」
 なにアホなこと言ってんだよ。
 突然背後からかけられた言葉にそう返せば、くくっと喉の奥で嘲笑う声がした。
 振り返らなくても、この悪趣味で意地の悪い声の主など、誰であるかはとうに分かっている。
 すっと横に並んだ赤髪の長身を見上げて、ライガットは固パンの最後の一欠けらを口に放りこんだ。
 髪も赤ければ目も赤い、ついでに言えば搭乗する機体さえ真っ赤という赤色尽くしの男は、ライガットの視線を受けて、嘲りの気配をより強めた。
「さきほどの国王の位置からでは、デルフィングの後方に回っていた王妃の姿は見えなかった。そのぐらい、貴様とて気づいていただろう。夜を徹して働く妻を労わりに来たのなら、なぜ声もかけずに去っていく?」

「おまえなぁ。いい加減、邪推するのも大概にしろよ。あいつの妻はシギュンなんだぞ?」
 俺がホズルと、いまさらどうこうなるわけねぇっての。頭の悪いこと言ってんな。
 行儀悪く、口の中でもぐもぐとパンを咀嚼しながら、ライガットは溜息交じりにそう言ってやる。
 言われた当の相手は、女のように優美な曲線を描く眉をついと上げ、愉快そうに目を瞬いた。
「いまさらどうこうということは、過去にはそれなりのことがあったというわけだな」
「あー……、まーな。俺がアッサム国立士官学校を中退するときのことだよ。父親に頼んででも学費を肩代わりさせるから、士官学校を卒業したっていう資格を得てくれって。
 そうすりゃ、市民階級出身でも貴族に対して言い訳が立つからとかなんとか。あいつ、一時期、心底俺に惚れてたからなー」
 スゲーだろ。次期国王さまに「結婚してくれ!」って迫られたんだぜ、俺。
 面白そうに、心底面白そうにそう言って、ライガットはふわぁ、と一つあくびをした。

 明日正午の休戦協定破棄に合わせて、必ずやボルキュスは王都への進軍を開始するだろう。
 王都守備防衛部隊の最前線に立つことを任じられているライガットは、そろそろ自室に戻って寝るか、と背を向けた。
 そこにまた、悪魔の囁きじみた嗤い声が耳に滑りこんでくる。「ライガット」と呼びかけられては去るに去れず、ライガットは渋々またジルグに向かい合った。
「過去にそこまで惚れこんだ相手がいまや、自国の救世の主さまだ。鞍替えする気持ちの一つぐらい、湧いたところでおかしくはあるまい? 国王からそうした誘いはなかったのか」
「あのなぁ……。俺の親友二人を侮辱するのもいい加減にしろよ。おまえが言うようなことはなにもなかった。これからだってないし、そうなる可能性もまったくない。殴られたいのか?」
 腹立たしさにまかせて拳を握りしめれば、ジルグがその身を屈めて顔を寄せてくる。
 す、とその左手がひらめいて、グローブに包まれた手のひらがライガットの右頬を包んだ。
 えぐるように目尻を撫でてくる指先にぎょっとする。

「な、……」
「なら、今夜は俺に付き合え。明日に差し支えない程度に遊んでやる」
 言うが早いか、くちびるがくちびるで覆われる感触に、一瞬ライガットは呆けた。
 間近すぎてぼやけた視界のすべてが、ジルグの赤い髪と目で埋まる。いまこの瞬間、男の目は嗤っていなかった。
 口腔内に滑りこんでくる舌に噛みついてやるには、頬を包む手が邪魔だった。
 左手ひとつで顎を固定され、思うさま蹂躙される。ハンガー内に響きつづける石英の固い加工音に混じって、自分と相手のくちびるから漏れる濡れた音に、ライガットはしばし時間を忘れた。
 振りほどきようがないので、代わりに思いきり相手の脛を蹴り上げる。
 爪先部分に石英をしこんだ軍装のブーツだ。的確に当てたなら、骨さえ折り砕くことができる。
 さすがにそこまではできず、――――こいつも明日は重要な戦力の一つだ。それでも押しやるように蹴りつければ、相手は存外素直にくちびるを離した。

「手荒いな。国王はよほどのじゃじゃ馬好きと見える」
「人にいきなり無体を強いておいて、言うことがそれか! シギュンはじゃじゃ馬なんかじゃねーよ!」
「それで今夜、俺に付き合う件はどうする?」
「人の話を聞くってことが、てめぇにはできねーのか!!」
 右頬を掴んだままの手を荒く振り払って、ライガットは怒り心頭のまま睨みつける。
 ジルグは涼しい表情のまま、これ見よがしに、自身の濡れたくちびるを舐めてみせた。
 くちづけられたことに対する羞恥がいまさらながらに沸いてきて、ライガットの意思に反して頬に血が上ってくる。
「お断りだ。付き合う義理もねぇだろ」
「なら、国王との最後の晩餐に臨むのか? ミレニル部隊出撃前夜のように?」
「な、なんであの晩、酒を飲んでたって知ってるんだよ?」

「言わなかったか? いまや国王と王妃とおまえ。この三人の関係は城内の多くの耳目を集めている、と。
 貴族の占有特権を廃止した画期的な国王として、市民からの支持が高い国王が、その象徴として選んだのがいまの王妃だ。
 だが工房に篭りきりで、王妃として王の傍に侍ることをしない王妃との不仲は、結婚当初から噂になっていた」
 そこにおまえの登場だ。学生時代の親友にして、いまや救国の英雄殿。
「アッサム国立士官学校に留学していた貴族の子息は、おまえたちの代以降も相当数いたことを失念しているようだな。持ち帰られた噂話は本当だったらしい。
 国王は学生時代、親友に恋をしたが思い果たせず、なにより相手は100万人に一人の『能無し』だったとか」
「一年間、独房入りしてたわりには、噂話に詳しいじゃねーの」
 引き攣る頬を誤魔化すように笑ってみせても、見逃してくれる相手ではない。
 それでも、これだけは言っておかねば! とライガットは目に力をこめて相手を見上げた。

「ホズルとの関係がどうとか、あいつとシギュンの仲がどうだとか関係ないんだよ。
 俺はおまえとキ、……キスしたりだとか、まして寝るだなんてお断りだ! 俺をそういう目で見るんじゃねぇ!」
「なぜだ」
「なんでもくそもあるか! 俺が! おまえのものになるのが嫌なんだ!! いい加減分かれ!」
「俺が嫌いか? ライガット」
「嫌いじゃねーけど、応じる気はねぇ。ただの同じ部隊の仲間で我慢しろ」
 おまえが俺の背後を守ってくれるから、俺は明日、ボルキュスだけを見て突撃できるんじゃねーか。
 なんでそんな日の前の晩に、こんなくだらないことで喧嘩しなくちゃならないんだよ。
 そう、情けなく目尻を下げるライガットを見下ろして、ふぅ、とジルグもまた肩を落とした。
 嘲笑うようだった表情が普段の、それでも人を食った笑みに変わる。
 「き、気持ちは嬉しいけど……」とぼそぼそ言い訳のように呟くこちらに向けて、再度差し出された左手は優しく頬を撫でた。

「出会うのが遅すぎたというわけか? 陳腐な話だ」
「ちげーよ。俺はいまも昔もホズルには、友情以上の気持ちなんて感じてない。
 けど、いまの俺はこの国の重騎士だ。気楽でしがない農民とは違う。あいつの国を守ってアテネスと戦うって決めたあの日から、俺は重騎士としてあいつに仕える身なんだ。期待も威信も裏切れない」
「部隊内の恋愛が国王への裏切りになるのか」
「れ! ……恋愛とか、そういうんじゃなくて、俺が万全の状態で戦えるよう頑張ってくれてるシギュンにも悪いだろ。
 あんな忙しくしてるのに、俺がおまえとその、……どうこうするとか、しないとか」
 どうこうするの内容が想像されて、かーっとさらに頬に熱が集まる。
 グローブ越しの手のひらの大きさを感じて、ライガットは浅く、細く息をついた。
 まさかホズルたちとの関係から、こんなふうに話が進むとは思わなかった。
 これでは自分は、思いのすべてを吐露しているのと同じではないか。

 重騎士として任命されたあの日から、自分とホズルの関係はただの元学友。友人ではなくなった。
 それに安堵した理由は、シギュンへの後ろめたさからだけではない。
「明日が、待ち遠しいな」
「なんでだよ」
「敵の大将を殺し、軍勢のほとんどを撤退させることができれば、おまえの肩の荷も少しは軽くなるだろう?
 背徳感に繋がる理由が一つでも減れば、それだけ俺はおまえを手にすることができる」
「勝手ばっか言うなよ。おまえ、俺が延々ずっと断り続けるかもって考えたりしないのか」
「ないな。おまえが俺のこの手を振り払わない限り、それこそ『あり得ない』ことだろう?」
 つつ、と今度は抉るようにではなく、撫でるように指先が目尻を撫で、もう一度その丹精な顔が近づいてくる。
 くちびるに感じる相手の呼気に、ライガットは背筋が震えるのを止められなかった。

 嫌いでない相手にそうして頬を寄せられて、どうして建前以上の断りが口にできる?
「同情など俺の柄ではないが、アテネス部隊は悲惨に尽きるな。俺は明日、おまえ以上に奴らを殺すぞ」
 おまえは真っ直ぐ、ボルキュスだけを狙え。
 くちびるとくちびるが触れるほどの距離で囁かれる言葉に、深く、強く頷きを返す。
 言ったからにはこの男は確実に、それをやってのけるだろう。自分はただ課された役目を果たすのみだ。
 ボルキュスを殺す。ペグー山で果たせなかったことをやり遂げ、この戦いを終わらせる。
「明日が待ち遠しいな」
 そうは思わないか? と耳元に滑りこむ言葉に、ライガットは震えながら、再度頷きを返した。

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 最後の最後で連投にOrz 失礼しました。
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