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静夜想Ⅱ

某リョマ電  痛いので注意

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

―土佐・山田獄舎 取調場―

 殴られ、叩かれ、血を流し、もう、オカダイゾは元の幼さを残した人相はとどめていなかった。

 京都の民から、悪鬼のごとく恐れられ、「人斬り」と二の名をもった男は、今、後ろ出に戒められ、さらに胸や腰に縄をうたれ、ただのボロ切れのように初夏の土煙る地面に転がされている。

 先ほど石を抱かされ、そのうえ、不安定な姿勢のまま、身動きもできないところを笞打たれた苦痛にとうとう意識を手放したイゾである。石を除けても意識は戻らず、横倒しにくずおれた。

 もしかしたら、このまま責め殺してしまうかもしれない・・。ショジロは思った。

ー死んでしまえば、この狂った心の闇から自分が逃げ出せるかもしれないという誘惑と、何としても敬愛してやまなかった叔父上を暗殺した勤王党一味にその罪を吐かせたいという想いが、かわるがわるに沸き起こっては消えてた。

 「強情な!!ヤタロ、水!」
 取調べ役の上士に命じられた郷廻りのヤタロがその凄惨さに震えながら、イゾに、おそるおそるという様子の及び腰で水をかける。
頭から水を浴びせられると、ピクッと戒められた身体が動き、かすかに身をよじり、意識が戻ったのがわかった。
 ショジロは少し安堵して、静かに問う。
「こればむごい目にあわされても、まだ口をわらんかぇ・・?」
 イゾは虫の息のなか、必死に、唇を動かす。そして、漏れるような息で、逆にショウジロに問い返す。
「・・・タケチせんせが・・・そんなに憎いがか?」
 嗚呼、そうだ!いつもイゾとは、話の歯車が噛み合わないのだと、ショジロは唖然と目を見開くしかなかった。
 見かねた、連れの取調べ役が声を荒げた。
「上士に向こうて何ぞや、その口のきき方は!」
 力任せにイゾの横腹の柔らかな部分をぐっと踏みつけ、ぐりぐりと揺らした。苦悶に眉根がよせられる。
 ショジロはそれを、もうよか、というように手で制した。

 あえて、イゾのそばでしゃがみ、「イゾ、イゾーよ。」と優しく子供に諭すように話しかけてみる。
 「わしゃのう、・・・叔父上を殺した奴を憎んじょうがじゃ。そ奴を知りたいだけやきに」
静かに、囁いた。

 だが、絶えいるような息遣いをしていたイゾは、「・・・タケチせんせでは・・・ないぜよぉ」と言葉をようやく絞り出すと、ゆっくりと半目をあけて、覗き込むショジロの眼にに視線をあずけた。
 ショジロは、視線を流され、その血と泥で汚れたはずの貌(かお)のぞくりとするほどの美しさに息をのんだ。 

 ―こいつを吊るしや―
 ーはっ!ー
 ―早よせぃ・・―
 濡れたような眼差しに吸い込まれ、廻りの音が水の中のように遠くに聞こえる。ショジロは思わず後退りするしかなかった。

 ぎりぎりと責めのために吊るされていくイゾウ。ショジロの心内までを見透かすように、瞬きもせず見つめ、うっすらと笑みをうかべる。
 凄惨な美しさだった。目を奪われているうちに、深い土佐の海の中に引き込まれていく感覚がショジロを怯えさせた。

大殿さまから、『タケチ、タケチと・・・どういてわしがあんな下賤な男のことを考えんといかんがじゃ!』と叱責をうけた晩、甕の中での鮮血のように紫蘇が発色していたあの晩。
家畜小屋以下のイゾの牢舎の中で、自らの袴が汚れるのも構わす、イゾが満足に動けないことをいいことに淫虐の限りをつくした。
人斬りの大きな目からポロポロと涙を流させた。
だが、心中、血の涙を流していたのはショジロだった。

牢の中には、壊れた人形のように新たに下肢に散らした血と精で濡らしをらし囚人が崩れ落ちている。

(おまんは、わしかもしれん)
 師しかみてないイゾと叔父上しかみてなかった自分が重なり奇妙な捻じれをおこす。

その、師であるタケチも一藩勤王党などと標榜し、土佐藩しかみちょらん・・・。

叔父上、これでいんじゃろか。

そいで、土佐藩は幕府しかみちょらん

これで、いいんじゃろか・・・。

時代という得体のしれない波は土佐にも押し寄せてきて飲み込もうとしていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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