Top/58-50

フィーロ×チェス

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  莫迦ノ フィーロとチェス ショタ注意です
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  2002 Bsideネタバレあります
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |

・男のDNAに挑戦しつづける男も、さすがにもうエニスとしたよね前提。

「ヒマだなあ」
「………」
「エニス、今日は帰りが遅いんだよなあ」
「………」
「帰ったら三人で飯食べに行こうって……それまで何してたらいいんだ」
「…………」
「あー! ヒマだヒマだー!」
「…………少し静かにしてよ、フィーロお兄ちゃん」
NY、リトルイタリーのとあるアパートメントの一室。
ソファの上でヒマだヒマだと子供のように喚いているのはフィーロ・プロシェンツォ。
年齢よりも二・三歳若く見られる童顔の青年だが、
ここNYに縄張りを持つカモッラ、マルディージョ・ファミリーの若き幹部だ。
そんなフィーロを向かいのソファから新聞ごしに冷ややかに見つめている十歳くらいの少年は、チェスワフ・メイエル。
通称チェス。先ほどフィーロが名前を口にしたエニス……フィーロの妻の弟として、フィーロの家に同居している。
少年の外見をしているが、三百年近く生きている不死者である。同じく不死者であるフィーロより年齢は上だ。
「そう思うなら新聞なんか読んでないで、俺の相手をしろ」
「えー、やだよ」
「おら、こっち来い!」
「わーっ! ちょっとなにするのお兄ちゃん!」
テーブル越しに軽々と持ち上げられて、チェスは新聞を掴んだまま手足をばたつかせた。
「よっと」
フィーロはチェスを空中で半回転させると、自分の膝の上に座らせた。
そのままチェスの身体に腕を回して抱っこの体勢を取る。

「もう」
チェスはため息を吐いた。抱きつかれているので新聞も広げづらい。
しかし、文句を言いつつフィーロの行動に嫌悪や鬱陶しさは微塵も感じていなかった。
抱きしめられる体温に、例えようもない安堵と甘い安らぎを覚えている。
今まで長く生きてきて、こんなに心温まる環境に置かれたことがあっただろうか。
あの、アドウェナ・アウィス号以来、チェスには安らぎの時などなかった。
いや、あの時の保護者に感じていた信頼や愛情でさえも……まやかしだったのかも知れない。
チェスはギュッと眼を固くつぶった。フェルメートが生きている。信じられなかったが現実だ。
日本での再会を思い出すと身体が震えそうになる。フィーロに気付かれないよう、チェスは震えを必死で抑えた。
――大丈夫、フィーロが、エニスが傍にいる。今の僕は一人ではない……。
フィーロとエニスが自分に向けてくれる愛情は本物だ。
チェスはマイザー達との旅を終え、二人の愛情を素直に受け入れることが出来るようになった。
甘えてもいいのだ。わがままや、生意気なことを言って叱られるのもいい。
(これが、家族……そうだったな……)
遠い昔に失って、もはや忘れかけていたもの。
フィーロの胸に背中を預けると、頭の上でフィーロが微笑むのを感じる。
こんな何でもないことが幸せなのだ。
チェスは実際にはフィーロより遥かに年上だが、フィーロやエニスの前では外見相応の振る舞いをしていた。
かつては意図的に。だが今は自然に
時々年上めいた言動をしてフィーロが戸惑うのを見るのも面白かった。

「なんか面白い記事でもあるかー?」
チェスの身体をゆらゆら揺すりながら、チェスの顔の横から新聞を覗き込むフィーロ。
耳許から聞こえる声がくすぐったい。それがなんだか嬉しい。もちろんそんな感情は表には出さないが。
「ううん。別に大したニュースはないよ」
本当は大したことはあるのだが、あまりに毎日似たような記事なので、いちいち取り上げる気にもならない。
先年NYを震撼させたテロの結果、遠い地で起きている戦争の記事が、相も変わらず紙面に踊っていた。
どこか現実味のない戦争の報道に、チェスの目が滑る。人間の営みを見続けて三百年。
”まだ”三百年かもしれないが、同じことばかりが繰り返されていてあまりにも進歩がない。今日もそれを確認しただけだ。
「そっかあ、なにもないか。そりゃあつまらないなあ」
今度はチェスの頭に顎を乗せてくる。少し重いが文句を言うほどではない。
「あんまり事件ばっかり起きても困るよ」
「それもそうだな。しかし、またヒマに戻っちまったな……しかたない……」
チェスを抱きしめる腕が、ぎゅっと捕まえる腕に変わった。
「……フィーロお兄ちゃん?」
恐る恐る振りかえるチェスに、フィーロはニヤーっと悪戯っぽく笑った。
「チェスで遊ぶとするか!」
言うなり、フィーロの両手は一斉にチェスの身体をくすぐり始めた。
「ちょっ……あはっ…はははははははッ! やめてやめて! くすぐった…ッ」
「このこのこのこの!」
「あははははっ! やめてお兄ちゃんあはははははは!」
笑いながら逃げようとするチェスと、それを捕まえるフィーロがもみ合っているうちに、
ソファの上にチェスを押し倒すような体勢になってしまった。
「逃がさねえぞチェス~」
指をわきわきとくねらせながら迫ってくるフィーロを、笑いながら押し返そうとして、チェスの表情が凍り付いた。
「あ……」

――あの男が…あの男が僕にのし掛かってくる。
「チェス?」
チェスの変化に、フィーロが訝しげな顔をした。
(思い出すな! 二度と思い出さないと決めたじゃないか!)
だが、日本で出遭ってしまった男の存在が、チェスの記憶を引きずり出してくる。
――僕はベッドに縛り付けられて動けない。どんなにイヤだって言っても、あいつは笑うだけだ。
「あ……ああああ…!」
――いやがる僕を押さえつけて、喉を思い切り締め上げるんだ!
――そして僕の喉が潰れて、僕は動けなくなる……。
(思い出すな! 今僕の前にいるのは……あの男じゃない!)
「どうしたんだ、チェス!」
――そうして、動けなくなった僕の服を剥ぎ取って、僕の身体を……
――僕の身体を……あいつは……
「あ……あああ……あああああ…!」
「おい、大丈夫か!」
急に怯えて震えだしたチェスの肩にフィーロが触れる。
「僕に触るな!」
「!」
チェスの右手がフィーロの手をぱちんと音を立てて弾いた。
その音で、チェスは我に返る。
「あ……ごめんなさい……僕……」
恐る恐る、フィーロを窺う。
フィーロは弾かれた手を眺めて呆然としていた。
いや、違う。目線は手に注がれているが、その目はここにある何も見ていない。
やがて、フィーロはチェスを見た。
愕然とした目だった。
「チェス……お前……やっぱり……」
「お兄ちゃん?」

フィーロは苦悩に顔を歪めていたが、やがてチェスを安心させるように、笑顔を作って見せた。
「大丈夫、大丈夫だチェス……俺はラブロとは違う……お前を傷つけたりはしない……!」
 フィーロの手が柔らかく、優しくチェスの頬をなでる。
「お……お兄ちゃん?」
「チェス、俺見るつもりは無かった。このラブロって男の記憶だけは覗かないつもりだったのに、
 今の弾みで……見ちまった。お前……お前、この男に……」
「やめて!」
チェスは頬を撫でるフィーロの手にしがみついた。
同時に混乱していた。
(なぜだ、フェルメートは僕が喰った! なのに……なぜその記憶がフィーロの中に……セラードの中にある!?)
 ェルメートはチェスが喰ったはずだった。フェルメートの記憶はちゃんとチェスの中にある。
だが、フェルメートは生きていた。チェスの前にまた現れた。あるはずがない、あり得ないことが起きた。
だから、フィーロの中にもラブロ……フェルメートの記憶があるという、あり得ないことですらも……あり得るのかも知れない。
チェスがフェルメートを喰ったことも、喰われたはずのフェルメートが生きていたことも知らないフィーロは
チェスが苦しんでいるのは虐待の記憶に苛まれているのだと錯覚した。
(ひでえ……)
好むと好まざるとに関わらず、ラブロの記憶がフィーロの中に湧き上がってくる。
(どうしたら、チェスに…こんな小さい子供にこれほど酷いことが出来るんだ)
フィーロの痛ましいものを見るような目に、チェスは全てを知られたことを悟った。
理由はどうあれフェルメートによる虐待の記憶がフィーロの中にあることは間違いないようだ。
チェスはため息を吐いて、自嘲気味に笑った。
「……知られたくなかったんだけどな。見ちゃったんだね……フィーロお兄ちゃん」
「チェス……?」
「そうだよ、僕はその男に虐待されていたんだ。肉体的にも……性的にもね……」
「……!」
フィーロが顔をしかめる。

「そんな顔しないでよ。……もう終わったことなんだから」
そう、僕があいつを喰って終わらせた。どうしてもその一言は言えなかった。
知られたくない。
(僕が誰かを喰ったことを、フィーロには知られたくない)
だから言えなかった。日本でフェルメートに遭ったことを。本当は終わってなどいないことをフィーロには言えなかった。
それを伝えるにはフィーロに言わなければならないからだ。
チェスがフェルメートを喰ったことを。
それを聞いて、悲しむフィーロの顔が見たくなかった。
「そいつの記憶はお兄ちゃんの中にある。つまりそいつは喰われた。だからお終い」
チェスは笑顔を作ってみせた。上手く笑えている自信はあった。作り笑いは得意だ。
「終わってなんか無いだろ」
「え?」
フィーロの顔は険しいままだった。チェスは笑顔を浮かべたまま、首を傾げてみせる。
「お前さ、……夜ひどくうなされてるんだよ。何かに怯えるみたいに、苦しそうに」
チェスの顔から笑顔が消えた。
「マイザーさんとの旅を終えてから少なくなってたけど、日本から帰ってきてまた増えてきた」
「………」
寝ている時のことまで考えには及ばなかった。誤魔化せてなんかいなかったのだ。最初から。
「あいつの夢を見てるんだろ。お前は夢の中でまだ、苦しんでる」
「……だったら、どうだっていうんだ……」
「え?」
チェスの中で、押さえきれない何かが爆発した。
「そうだよ、夢の中にはまだあの男が出て来て、僕をぐちゃぐちゃにするんだ! 
 焼け火箸を目に突っ込んだり、燃えさかる暖炉に放り込んだり! ベッドに縛り付けて肛門を犯したりね! 
 でも、それがなんだよ! それを知ってお兄ちゃんに何が出来るっていうのさ! 何も出来ないだろ!」
無力なフィーロを嘲笑ってやるつもりだった。お前に出来ることなどなにもないと。
だが、実際にはチェスは笑うどころか顔を涙でぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっていた。
両手を広げて迎えてくれた、フィーロの胸にすがりついて震えている。
「つらかったな、チェス」
服を涙で濡らすチェスを、フィーロは優しく抱きしめた。

「けど大丈夫。もうチェスを酷い目に遭わせる奴はいないし、俺がさせない。
 チェスは俺の大事な家族だ。家族は俺が守ってみせる」
「怖い夢を見たら……?」
「俺が夢の中に助けに行ってやる! 家長として!」
「いい加減なこと言って……」
チェスは涙に濡れた顔をほころばせた。
「俺は真剣だぞ」
フィーロは心外そうに言う。
――百歳近い男の言うことか……?
苦笑いを浮かべて、チェスはフィーロの背中に腕を回した。
(あったかい……)
フィーロに抱きしめられて、チェスはその温もりを全身に感じながら眼を閉じた。
こうしていれば、恐ろしい夢など見ないでいられるかもしれない。
けれど、まだ足りない。身体に染みついた恐怖の記憶を拭うには、もっと決定的なものが欲しかった。
しかし、その願いを口にすることで今の幸せを失うかもしれない。それが今のチェスには怖かった。
「どうした、チェス?」
物言いたげなチェスに気付いたフィーロに優しく促され、願いは口をついて出てしまった。
「……お願いがあるんだ」
「ん? なんだ?」
「お兄ちゃんにしか、頼めないことなんだ」
「なんだよ、言ってみろよ」
「……僕を抱いて欲しいんだ」
フィーロはぽかんと口を開けて、チェスの顔を見つめた。
「………今抱いてるじゃないか」
「そういう意味じゃなくて!」
「じゃあどういう意味だよ」
「僕を犯して欲しい……セックスしてって言ってるんだよ!」
「はあああ?」
フィーロが呆気にとられた様子で、目を見開いた。

言ってしまった以上、後には引けない。チェスは必死にフィーロに縋り付く。
「僕はね、お兄ちゃん。ひどいセックスしかしたことがない。ひどい奴に、乱暴に抱かれたことしかないんだよ。
 好きな人に、大切に思われながら抱かれるって経験を一度もしていないんだ。
 僕はフィーロお兄ちゃんのこと好きだし、そんなお兄ちゃんに優しく抱いてもらえれば……
 あの男に犯された記憶を塗り替えられるような気がする。あいつに犯される夢なんかきっと見なくなる」
「待て待て待て待て!」
フィーロは右手で自分の頭を抱えて、左手でチェスの肩を掴んだ。
「それは無理だ」
「どうして?」
「俺はお前みたいな子供に欲情できる変態じゃない! 確かにお前は大事な家族だし、愛してるけれど!」
「愛してるなら、出来るでしょ!」
「愛してるよ、弟として。分かるだろ、全然違うんだ。お前とセックスするなんて、想像も出来ない」
「僕は身体が子供だから、女の子を抱いたり出来ない。……抱いてもらうしかないんだ。
 その相手は、お兄ちゃんがいい! 今、僕が、全力で愛されていると思える人に。
 あなたに……あなたに抱いてもらいたいんだ……」
「チェス……」
大人の口調へと変わったチェスに、その言葉が本気であることを悟ったフィーロは呻いた。
涙で腫れたチェスの目を食い入るように見つめ、自問していたフィーロは、苦しそうに眼を閉じた。
「……すまない……」
チェスは唇を噛んで俯いた。ここで諦めれば、きっとフィーロは何事もなかったことにしてくれる。
家族に傷は残らない。自分が間違っているのは分かっていた。
(でも、引き下がれない)
チェスはキッと顔を上げて、フィーロを真っ直ぐ見つめた。
「分かった。でもせめて……僕の身体に触って欲しい。優しく撫でてもらった事もないんだ。それだけで充分だから」
「…………そのくらいなら」
かなりの逡巡の後、フィーロはそれでも苦しげに頷いた。

フィーロとエニスは結婚してもベッドは別々だった。ダブルベッドなどではない辺りがフィーロのフィーロたる所以だ。
そのフィーロのベッドの上で、二人は向かい合っていた。服は着ていない。
「……なんか、妙な感じだな」
「そうだね」
普段一緒にシャワーを浴びるわけでもないから、互いの裸などろくに見たこともない。どうにも落ち着かない気分だ。
「さて、どうすりゃいいんだ、俺は」
「そうだね……キス、するとか」
「キスねえ……」
フィーロはふーっと息をつくと、左手でチェスの頭を引き寄せた。
眼を閉じたチェスの前髪を右手でかき上げると、フィーロは額に柔らかく唇を落とした。
「おでこって……」
「当たり前だろバーカ」
不満そうに口を尖らせるチェスの髪を、左手でぐちゃぐちゃとかき回す。チェスの頬がぷっと膨らんだ。
「ははっ! ふくれてるふくれてる。チェスのほっぺは柔らけえなー」
フィーロはチェスのぷにぷにした頬を摘んだり撫でたりつついたりして遊んでいる。
「もう、もっと真面目にやってよ!」
「真面目にってなんだよ」
「こんなふうに……」
チェスはフィーロの右手を取り、自分の薄くて柔らかい胸板に押しつけた。
フィーロがビクリと手を引こうとするが、チェスはそれを許さない。
「触って……お兄ちゃん……」
フィーロは躊躇い、迷った末に、裸のチェスを抱き寄せた。チェスに導かれるままに、そっと小さな身体を愛撫する。
「……っ……あ……っ」
「へ、変な声出すなチェス!」

「ご、ごめん。だけど……」
わざとじゃないんだ、そう呟くチェスに嘘はなかった。
最初は感じている演技をして、フィーロの性欲を無理矢理にでも煽ってやろうと思っていたのだが。
演技など必要なかった。フィーロに触れられたびに頭の中が痺れたようになって、身体が熱くなり、自然と声が出る。
「全然違う……」
「え?」
「身体を触られるなんて、気持ち悪くて、嫌なだけだと思ってたのに。好きな人に触られるってこんなに気持ちいいんだ……」
「チェ、チェス……」
「気持ちいいよ……フィーロお兄ちゃん」
チェスの喘ぎ声にフィーロは狼狽した。
「こ、子供がそんな声出すんじゃねえよ」
「何言ってるの、子供だって性感はあるんだよ」
「そ、そうなのか……?」
「自分だって昔は子供だったのに、忘れちゃった?」
頬を上気させ、いたずらっぽく笑うチェスの異様な艶めかしさに、フィーロは慌てて目を逸らした。思わず生唾を飲み込む。
「僕も……」
チェスはフィーロの胸にもたれかかり、胸板から脇腹を撫で始めた。
「ちょっ……お前何を……っ!」
「だって、セックスってお互いの身体に触れ合うものでしょ」
「いや、そうだけど……」
「ふふ……フィーロお兄ちゃん。すこし勃ってるよ……」
「うわっ! チェスてめえどこ……っ!」
チェスの小さな手に性器を握り込まれて、フィーロは息を詰めた。
同性同士、どこが感じるかなんて手に取るように分かる。チェスはその小さな手でどんどんフィーロを追い込んでいく。
「くそっ……やめろ……っ」
「僕のも触って……」

引き剥がそうと伸ばされた手を捕らえて、チェスは己の性器に導く。
幼いながらも張り詰めたチェスの性器に触れ、フィーロの手がビクリと震えた。
その間もチェスの手はフィーロを追い詰めていくのをやめない。
「触ってもらって、気持ちよくなったら手を動かせなくなるかもね」
「いい根性してるな、お前は……」
フィーロはこめかみに青筋を浮かべてチェスを睨み付ける。
しかし、そうしていたところで事態が好転するわけもなかった。実際、もう余裕はなくなっている。
「ええい、このっ!」
フィーロがチェスの性器を握り込むと、チェスは静かに息を詰めた。
一瞬、フィーロの性器を弄る手を止め、また動かし始める。
フィーロもチェスの性器を握った手を、静かに動かし始めた。
もはや言葉を交わす余地は無くなっている。互いの荒い息遣いだけが部屋に響いていた。
「あっ……!」
先に音を上げたのはチェスだった。フィーロの胸に額をすりつけ、荒い息を吐き、喘いでいる。
チェスの手の動きは止まっていたが、フィーロの手は止まらない。
「あっ……あっ……あああ……っ!」
チェスの身体がビクビクと跳ねる。絶頂に達したのだ。
「あれ……?」
フィーロは不思議そうな顔で右手を眺めた。ついているべきものがついてない。
「……何もつかないよ。だって、僕、子供だから出ないんだ」
フィーロの疑問を察してチェスが答えた。
フィーロはしばらく首を傾げていたが、やがてチェスの言葉の意味を悟って青ざめた。
「な……んだって?」
精通も迎えていない子供と性的行為に及んだと知ったショックに、フィーロは打ちのめされる。

「いや、お兄ちゃん。今更落ち込まないでよ」
「ちょっと黙ってろお前……」
フィーロは頭を抱えたままうめき声を上げた。
「そんなのおっ勃てたまま落ち込まれてもかっこつかないよ」
「う……」
チェスの手で強引に追い立てられた性器は、未だそそり立ったままだ。
「入れてよ……お兄ちゃん」
「それは……」
「触ってもらっただけで、こんなに幸せな気持ちなんだ。入れてもらえたら、きっと悪い過去も忘れられる」
卑怯なことを言っている自覚はあった。こんな迫り方をされて、優しいフィーロがどれだけ追い込まれるのかも。
性器に触れて絶頂に導いただけで、これほど落ち込むフィーロに、酷なことを要求しているのも分かっていた。
優しさにつけ込む真似をしてでも、今はフィーロに愛されたい。フィーロを自分のものにしたかった。
「ごめんな、チェス」
縋るように見上げるチェスの髪を左手で撫でると、フィーロはベッドから降りた。
「え……?」
ベッドにチェスを残したまま、フィーロは部屋を出て行ってしまう。
ドアの閉まる音で、チェスは我に返った。
「あ……」
フィーロが行ってしまった。
ようやく認識が現実に追いついた時、チェスは目の前が真っ暗になるような絶望感に襲われた。
――おいて、いかれた……?
――やはり、望みすぎたのか……?
――いや、最初から望むべきではなかったのだ。だから見捨てられてしまって……。
知らないうちに涙があふれ出ていた。拭っても拭っても止められない。
「行かないで……お兄ちゃん……戻ってきて!」
チェスはベッドシーツを握りしめて、泣きながら叫んだ。

「何もいらないから、そばにいてよ、お兄ちゃん!」
今、フィーロに背を向けられたら……何を頼りに生きていけばいいのか分からない。
「うわっ! なに泣いてるんだチェス!」
ドアを開けて戻ってきたフィーロが、ギョッとしてチェスに駆け寄る。
「お兄ちゃん……!?」
「どうしたんだよ、泣くなよ……」
縋り付いて泣きじゃくるチェスを、フィーロは懸命になだめた。
「よかった……戻ってきてくれて……」
「はあ? 何言ってるんだ?」
「だって、ごめんって謝るから……もう僕のこといやになっちゃったんだと……」
「ああ、それはその……俺は経験ないから分からないけど……こっから先は痛いんだろ? だから、ごめんなって……」
そう言うと、フィーロは手に持っているものを差し出した。
「オリーブオイル……?」
「なんか滑りのよさそうなもの探したんだけど、これぐらいしか無かった。悪いな」
「それ、取りに行ってたの……?」
身体からへなへなと力が抜けた。
見捨てられたのでは無かったという安堵と、紛らわしいことするな、という怒りが同時にこみ上げてくる。
「どうしたんだよ。蜂蜜もあったから、あっちの方が良かったのかな?」
「ううん、それでいいよフィーロお兄ちゃん」
チェスは慌ててフィーロを止めた。蟻に集られでもしたら目も当てられない。
「こうなったら、最後まで付き合ってやるよ。……今回だけだからな」
「……ありがとう」
フィーロはチェスの唇に、そっと触れるだけのキスをした。

「こんな感じで……いいのかな?」
フィーロはオリーブオイルを纏わせた指を、そっとチェスの秘部に差し入れた。
「う……」
途端にチェスが苦しそうに眉を寄せる。
「い、痛いのか?」
「少しね。気にしないで続けて……」
「でも……」
「ここでちゃんとしてくれないと、後でもっと痛いから……。
 と言っても、いつも無理矢理突っ込まれてたから、本当のところは良く知らないんだけどね」
そこまで言われて続けないわけにはいかなかった。
フィーロは恐る恐る、チェスの中を探るように指を動かす。チェスは小さくて狭くて、壊してしまいそうで怖かった。
傷つけてもすぐに再生する、そう分かっていても乱暴に扱うことは考えられない。
出来うる限り優しくしてやりたくて、慎重な動きになった。
そんな緩い刺激でも、チェスの中に甘いしびれが溜まって、また幼い性器が張り詰めていく。
フィーロの指が自分の中で動いているのだと思うだけで、身体が熱くなった。
――本当に、違う。好きな相手にしてもらうって、なんて気持ちいい。
「ああ……っ」
自然と艶を帯びた声が漏れた。さすがに今度はフィーロも動揺しない。感じさせるために触っているのだから当然だ。
チェスの反応に安心したのか、フィーロはもう少し大胆に指を動かし始めた。
抜き差しの度にオイルがくちゅくちゅと音を立てるのが、次第にフィーロの性欲を煽っていく。
フィーロの息が荒くなっていくのを聞いて、チェスの中に期待と喜びが膨らんできた。
フィーロが自分で欲情してくれている。それが今日の、この時だけのことだとしても嬉しくてたまらない。

「指……増やすぞ……」
「うん……」
宣言通り、チェスの中に差し込まれる指が二本に増やされた。圧迫感は増したが、我慢できないほどではない。
かき回す指が、小さなしこりに触れた。
「あうっ……!」
途端にチェスの身体が激しく跳ね上がる。思いもよらない過敏な反応に、フィーロもビクリと肩をすくめた。
「え……? ここ……感じるのか?」
フィーロが恐る恐る、といった感じで再び同じ場所をもう少し強く押してみる。
「あっ……ああ……っ!」
チェスはビクビクと震えながら、フィーロにしがみついた。
子供の薄い爪が食い込んで痛いが、それがチェスの身体を苛む快楽の深さを示している。
「すげえな、おい」
「やっ、お兄ちゃん待って…………ああああッ!」
チェスが再び射精を伴わない絶頂を迎えた。
ガクガクと痙攣しながらしがみついた手の小さな爪が、フィーロの腕の皮を破る。
刺すような痛みにフィーロは思わず顔をしかめるが、滲んだ血も裂けた皮も、みるみるうちに再生していく。
「え、チェス、もしかして今ので……イッた?」
「……そ、そこ……触られると男は誰でも感じるんだよ。お兄ちゃんだってそうさ……」
「マジで!? ケツに指突っ込まれる趣味ないから全然知らなかった!」
「……僕だって別に趣味じゃないよ」
「……ああ、悪ぃ……」
チェスの性的知識は強姦によるものなのだ。そこに本人の意志は存在していない。
フィーロは自分の軽率さを恥じた。

「謝らなくていいよ……。こんなに気持ちよくイかせてもらったの初めてだし」
「そ、そういうことを恥ずかし気もなく堂々と言うな!」
フィーロは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ね……多分もう、入れても大丈夫だと思うんだ」
なるべくフィーロの負担にならないように、出来る限り軽い口調で、チェスは続きを促す。
「あ、ああ……」
いよいよか、とフィーロはぎこちなく頷いた。はっきり言って未知の領域すぎて、ここから先チェスをどう扱えば良いのか分からない。
探せば、セラードに喰われた者の中に男色家がいるかもしれないが、あまり記憶を覗きたいとは思えない。ラブロの記憶など論外だ。
チェスの小さな身体の上にのし掛かって、脚を割り広げる。それだけでも凄まじい背徳感に襲われた。
本当にこのまま進めて良いのか。まだ引き返せるんじゃないか。
どれだけためらってみても、縋るように見上げてくるチェスの瞳を裏切れなかった。
左手でチェスの腰を抱え、右手で己の性器を握って狙いを定める。
(これ、ホントに入るのかよ……?)
あまりに狭い入り口に、また躊躇する。どう見てもフィーロのものとサイズが合わなかった。
こんなところに滑りもなく突き入れられるラブロという男はなるほど鬼畜と呼ぶしかない。
「お兄ちゃん……」
(ええい、くそっ!)
チェスに急かされて、フィーロは覚悟を決めた。右手を添えた性器を狭いチェスの中へ慎重に、慎重に押し込んでいく。
「う……っ……」
チェスが苦しげな声を上げた。見れば、顔を歪めて、両手でシーツを力一杯握りしめている。
「チェス、つらいのか?」
「いいから続けて……」
――そうは言われてもなあ……
チェスの顔から視線を戻して、ギョッとした。

「チェ、チェス。裂けてる、血、出てる!」
「そりゃ裂けるよ。そんな大きさのもの入れるんだから」
「痛いんじゃないのか……?」
「まあね。でも仕方ないよ。すぐに治るんだし気にしないで」
言った傍から流れた血が生き物のようにチェスに吸い込まれていく。
「むしろ途中で止められる方が、また裂けて痛いんだけど」
「う……わ、分かったよ……」
フィーロは意を決して、しかしゆっくりと腰を進めていく。
「う……っ……くぅ……っ」
チェスは唇を噛み締めて背筋を貫くような痛みに耐える。
久々に味わう痛みは他のどんな痛みにも似ていなかった。
だが今日は違う。ただ苦しいだけの痛みではない。
チェスを貫いているのはフィーロだ。
優しく、愛情を込めて、チェスのことを大事に想って抱いてくれている。
そう感じるだけで、引き裂かれる痛みも、甘い痺れに変わっていくようだった。
「くっ……」
狭くて小さいチェスにきつく締め付けられ、フィーロも顔を歪めてうめき声を上げた。
互いに苦痛を伴う交わりに、自然と汗が滲んでくる。
「お兄ちゃん……」
気遣うチェスの髪をフィーロは左手で撫でる。じっとりと汗が出て、前髪が張り付いていた。
「大丈夫か? チェス……」
お互いの身体が密着するほど、フィーロはチェスの中に深く入り込んでいる。
チェスは限界を超えて押し広げられ、かなりの苦痛を感じているはずだ。
「平気だよ……僕の中にいるのがお兄ちゃんだから……すごく嬉しいんだ」
「チェス……」

「やっぱり痛いし、苦しいけど……でも気持ちいいよ、フィーロお兄ちゃん……」
「チェス……!」
フィーロは最大限にチェスをいたわりながら、ゆるゆると腰を動かし始めた。
「ん……ああ……っ!」
苦痛と快感が一度に襲ってきて、チェスは甘い喘ぎ声を上げる。
――こんなの、知らない。
――これが、こんなに気持ちよかったなんて……!
チェスは夢中になってフィーロの首に縋り付いた。チェスを見つめるフィーロの眼差しはどこまでも優しい。
「好きだよ、お兄ちゃん」
「ああ、俺もチェスが好きだよ」
フィーロとチェスの『好き』は家族としてのそれだ。
身体を結ぶような真似をしても、その感情にぶれが全くないことを確認できて、二人は微笑み合う。
次第にフィーロの腰の動きが速くなった。
「あっあっ…ああっ……」
小刻みに揺さぶられながら、チェスがあられもなく喘ぐ。フィーロに縋り付く腕に力が入った。
上気した顔には幸せそうな笑みが浮かんでいる。
「チェス……!」
フィーロがチェスの中で果てた。精液が勢いよくチェスの中に叩きつけられる。
「あ……あああっ!」
熱い迸りを受けて、チェスもビクビクと身体を跳ねさせながら達した。
二人は抱き合ったまま、荒くなった息を整える。
「ずっと傍にいさせてね、お兄ちゃん……。エニスお姉ちゃんと、三人で一緒にずっと……」
いつもは素直に言えない言葉も、今は自然に口から出て来る。
チェスの顔には、外見相応の子供らしい笑顔が浮かんでいた。
「ああ。俺たち家族だからな。当たり前だ」
フィーロは慈しむようにチェスを抱きしめた。

「ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません」
アパートのドアを開けて、エニスが帰ってきた。
エニスの口調はフィーロと結婚した今も相変わらず敬語だ。
「おかえり、エニス」
「……あの、フィーロ。今晩は外で食事をするはずでは?」
それなのになぜかフィーロはエプロンを着けて夕食の支度をしている。
フィーロはにやっと笑って、ソファの方を指さした。
「……まあ」
ソファではチェスがすやすやと眠っていた。毛布はフィーロが掛けたようだ。
「気持ちよさそうに寝てるだろ?」
「ええ、起こさない方がいいですね」
眠るチェスの横に腰掛けて、エニスはチェスの髪を優しく撫でた。
チェスの口元に笑みが浮かぶ。
「可愛いですね」
「ああ、可愛いな。寝てる時は」
「フィーロ」
「冗談。起きてる時も可愛いさ」
エニスはにっこりと微笑んで、またチェスを愛しげに見つめている。
チェスが目覚めた時に見るのはエニスとフィーロの笑顔だ。
それは、これからもずっと変わらない。絶対に変えさせない。
家族の光景に、フィーロも目を細めた。
――この眺めを、この笑顔を守るためなら、何だってしてみせるさ。
フィーロは自分の家族を、命がけで守っていく決意を改めて固めた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
書き始めてから「しまった両方受けだ」と気付いた。まあいい。
フィーロがチェスをフェルメートから守ってくれると信じている。


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP