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オリジナル 兄弟もの

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )元ネタは特になし、禁酒法時代のアメリカが舞台の兄弟モノです。

大好きだった兄さんは、正直少し間抜けだった。俺とそっくりなのは少し大きめな鼻と、栗色の髪だけ。
目尻は垂れていて、口角も上がっているからいつも笑っているような顔だった。
俺と違ってスポーツだってからっきし。手先は器用だけど、嘘がつけない、騙されやすい、お人好し過ぎる
って意味ではとても不器用だった。
そんな兄さんは俺達を食わすために靴磨きをしていた。手際はいいし、真面目だし、何よりいつもニコニコ
してる兄さんには常連が何人もついていた。出勤前の事務員や警官、中にはちょっと名の売れた俳優もいたくらいだ。
『ディノはとろくさいがイイヤツだ 』。
それが兄さんと付き合いのある人間がよくいう言葉だった。
兄さんはいつも仕事が終わると、稼ぎをみんな母さんに渡していた。いや、丸々
全部ってわけじゃない。
「ヴィンチェ。おいでおいで。」
1日の終わり、兄さんはベッドの上からそう俺を呼んだ。俺は喜んで兄さんのところへ走っていく。
それからスプリングの壊れたベッドに勢いよく飛び乗った。
「今日ヴィンチェはいい子にしてた?」
「うん!今日はね、ママとご飯作ったよ!お皿も洗ったの!」
「うんうん、ヴィンチェはいい子にしてたんだね。じゃあ今日もこれあげる。」
兄さんがくれたのはニッケル硬貨。俺がいい子にしてると、兄さんはいつもチップで貰う一セント硬貨を
一つくれた。俺はそれがとても嬉しかった。別に金が貰えるからってわけじゃない。俺は兄さんが大好きで、
兄さんが俺を褒めてくれることが嬉しかったし、兄さんの笑顔を独り占めできるのが誇らしかったんだ。

俺はニッケルを貰うと、いつもそれをピクルスの空き瓶に入れていた。小さいころの俺は、瓶がいっぱいに
なったら、兄さんに格好いいシャツを買ってあげたいと思っていた。兄さんはハンサムだったから、
きっとどんなシャツでも似合うだろう。友達もみんな格好いいって羨ましがるはずだ。
子供のころはそんなことばかり考えていた。
「ヴィンチェ、もう遅いよ。ねんね、ねんね。」
兄さんがそう言うと俺は兄さんのベッドに潜り込んだ。俺にも拾ってきたボロいベッドがあったけれど、
兄さんと一緒に寝ることが好きだった。狭いし身動きもしにくいけれど、どうしても暑苦しい時以外は
こうしてくっついて寝ている。
「ディノ、明日は学校休みなんだ。お仕事、一緒に行っていい?」
「いいよ。それじゃあママにヴィンチェの分のお弁当作ってもらわなきゃ。」
兄さんはにっこり笑ってキスをしてくれた。
少し埃臭い布団に挟まれて、俺は兄さんと色々な話をした。どれもどうでもいいような話題だけど、俺は
兄さんと話すのが大好きだった。兄さんの温もりが大好きだった。

本当に本当に、大好きだった。

兄さんが殺されたのは、俺が12の時。空が高く晴れ上がった、気持ちがいい日だった。
駅前でいつも通り兄さんが靴磨きをしていた時、帽子を深く被った男が二人やってきて、弾装が空になるまで
鉛を兄さんにぶち込んだ。
その日俺は偶然兄さんにくっついきていて、偶然昼飯を買いに離れた食い物屋に行っていた。
俺が戻ってきた時、兄さんはもう死んでいた。真っ赤な血溜まりの中、兄さんは肉片や泥にまみれて倒れていた。
顔と身体にはいくつも穴ともつかない穴が開いていて、よくわからないものにまみれていた。
俺とそっくりな大きめな鼻はぶっ飛んでグシャグシャになっていた。俺は何度も兄さんを呼んだ。
もう意味がないって頭じゃわかっていたけど、呼ばずにはいられなくて、何度も兄さんを呼んだ。
いくらかして、俺は兄さんの右手が固く握られているのに気付いた。俺は恐る恐る兄さんの指をほどいて、手の内を見た。
そこには真っ赤に染まったニッケルが三枚、握られていた。
「ディノ!ディノ!!ディノ!!!嫌だよ起きて!!!ディノ!!!!」
俺は何度も兄さんを呼んだ。泣きながら呼んだ。

兄さんの墓参りにいくと、品の良さそうな男が、二人の大男を連れて立っていた。
「ヴィンチェンツィオ?ディノの弟の。」
俺が頷くと男達は帽子を脱ぎ、頭を下げてきた。
「俺達のシマだったのに、兄さん、ディノには悪いことをした。」
男達はマフィアだった。彼らがいうには、兄さんは兄さんと似た殺し屋と間違われ、
敵対するファミリーに殺されたらしい。もう殺った奴らも割れているという。
「……それで?どうしてそれを俺に?」
「せめてもの詫びだよ。君さえよければ、“準備”はさせてもらう。」
それはつまり、敵討ちというやつなんだろう。本当に詫びのつもりなのか、何か別の意図があってのことなのか。
今考えるとその両方だったんだろうと思うが、当時の俺にはそんなこと関係なかった。
「俺はどこで誰を殺せばいいんです?」
兄さんを殺した奴らは、絶対に許さない。
俺はすぐに誘いに乗った。

復讐は実に呆気なく終わった。
奴らのドンと、兄さんを殺した殺し屋ども。
慎重にタイミングを見計らい、奴らが集まるアジトで待ち伏せた。
そして一人くる度、胸に一発。
頭に一発。
淡々と引き金を引いた。
まさかこんなガキにやられるだなんて、奴らも思わなかったろう。
本当に簡単で、単純で、つまらなかった。
死体が三つ並んだところで、俺は奴らだった物の上にニッケルを投げた。
兄さんが握ってたやつだ。証拠だとか、脚がつくだなんて考えなかった。
ただあの日から赤茶色に鈍っていた光が、また新しい赤に染まっていくのが何だか不思議で、
しばらくぼおっと見ていた。

そういえば昔、ニンジン頭のじいさんの葬式を見たっけ。
頭の悪いアイリッシュにしては気のいいじいさんで、生きてるときにはそれなりに付き合いがあった。
そのじいさんの棺桶を閉めるとき、一人の女の子が小さなコインをじいさんの瞼に置いていた。
何でそんなことするのかと聞くと、
「カロンの渡し賃なんだって。おばあちゃんが言ってた。」
と言った。どうやらあの世に行くにはコインが必要らしい。
「……ディノにはコイン、あげなかったっけ。」
顔の返り血を拭いながら、俺はポツリと呟いた。

奴らを殺したその晩から、夢に兄さんが出てきてくれるようになった。
俺はそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
奴らをやって以来、俺はファミリーに迎え入れられた。
名前もヴィンセントに変えて、仕事も斡旋してもらうようになって、前よりずっといい暮らしを出来るようになった。
知らなかったことにもたくさん触れることができた。だから色んなことを兄さんに話した。
「昨日はフルーツを買ったんだ。そしたらママがフルーツタルトを作ってくれたんだよ。こんな大きいやつ。」
「ディノ、俺ドンの叔父さんって人に会ったよ。砂漠でカジノをやってるんだってさ。
今度遊びに来いって招待されちゃったんだ。」
「週末サッカーやるんだけどさ、実は二つのチームから誘いをうけてるんだよ。
一つはドンの息子さんのチームで、もう一つは娘さんの彼氏のチームなんだよ。どうしたらいいかな。」
兄さんは微かに目を細めながらながら俺の話を聞いてくれた。
相変わらず兄さんは俺をヴィンチェと呼んでくれたし、それからハグもしてくれた。
前みたいにニコニコ笑ってはくれてないけど、構うもんか。兄さんといられるだけでいい。
夢の中で俺はこれ以上ない幸せを感じていた。

仕事を終わらせると、いつものようにニッケルを投げた。
瓶の中から適当に掴んできたものだ。数は気にしないで持ってきたから、もしかしたら足りないんじゃ
ないかと思ったけど、足元に転がっている死体五つ。ニッケルは十二。余裕で足りる。
杞憂というやつだったらしい。
この仕事ももう随分慣れたけれど、俺はこういう詰めがまだ甘い。
ドンやファミリーのお偉方はこうやって俺が残すニッケルを目印に、息のかかった警官に始末を頼んでいるらしい。
だから本当はもっときっちりやらなくちゃならないんだけれど。
兄さんが死んで以来、どうも現実感が湧かない。
それにうまく頭がはっきりしないというか、何にも興味が湧かないようになったし、どうでもよくなった。
夢の中で兄さんと会える時以外、俺はそれこそ夢遊病患者みたいだ。
それなら兄さんのいないこっちが夢で、兄さんがいるあっちが現実なのかもしれない。
ああ、それなら納得がいくし、その方が俺も嬉しいな。
「お前らもそう思うだろ?ははっ。」
一番のデブを爪先で小突きながら独り言を呟いた。当然変事なんかない。
馬鹿だなあって自分でも思う。
それから、そんな馬鹿な自分のことを兄さんに話そうと思った。

仕事に行くとき、俺はいつも瓶の中からニッケルを持っていった。兄さんがくれたニッケルはどんどん
減っていった。
兄さんを殺したファミリーや、そいつらとつるんでいたファミリー。
その他にも、兄さんを殺した奴ら、いや兄さんを殺したこの街。
みんな殺して、みんなきれいにしていったから。
ニッケルはどんどん減っていった。減れば減るほど街はきれいになった。
「ディノ、俺ね、願掛けしてるんだよ。あの瓶が空っぽになったら“掃除”は終わり。
きれいさっぱり、終わりってさ。」
兄さんにそう話したら、兄さんは悲しそうな顔してハグをしてくれた。
「そんな顔しないでよ、ディノ。もうちょっとで終わりなんだからさ。ね。ディノ、俺頑張るから。」
兄さんは何も答えてくれなかったけど、そう約束してから、俺は仕事に出かけた。
瓶の底からかき集めたニッケルを全部ポケットに押し込んで、行きつけの店が並ぶ裏路地を通って行く。
いつものコースだ。果物屋、レストラン、煙草屋。見慣れた街をフラフラと歩く。

「ヴィンセント・ダイノス?」
知らない声が聞こえた。新しい名前を呼ぶ声が。
ゆっくり振り向くと同時に、何か熱いものが胸が抉られた。
「ああ、そうか…」
撃たれた。
そうすぐにわかった。周りが騒がしくなって、悲鳴なんかが響いた。
俺はのろのろと近くに停まっていた車にもたれ掛かる。
胸の熱い部分を見ると、シャツが赤く濡れていた。白と赤のコントラストは、何度も見てきた光景だ。
そしてその光景の先にあるものも俺は知っている。
俺は重い腕を持ち上げ、ポケットをまさぐった。
シャラっと軽い音がして、いくつかの欠片が掌に転がり込んでくる。霞む目を凝らして、その欠片を見てみる。
鮮やかな赤に染まったニッケルが三つ。
「ふふっ…これで、ディノに……渡せるか、コイン……」
誰かが俺を覗き込んだ。
せっかく兄さんに、俺のエゴで十年間こっちに縛り付けた兄さんにコインを渡すチャンスなんだ。
他の奴なんかに絶対に渡してなんかやるもんか。
俺は手を堅く、堅く握り締めた。
かわいた、軽い音がした。
意識が遠退く。
ふと目の前に光が指して、誰かがそっと手を差し伸べた。
「やぁ、ディノ……会いたかった…ずっとずっと、あい、たか、た……」
「……ヴィンチェ、もう大丈夫だよ。ゆっくり寝よう。ねんね、ねんね。」
「…う、ん……」
俺は兄さんの手を取ると、ゆっくり瞼をおろした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )以上です。後うっかりしてましたが元ネタは実在した
ギャングです。駆け足な展開でしたが、それは腰のヘルニアの痛みがそう
させたのだと思います。ヘルニア痛いです。

  • すごく…たぎります… -- 2011-02-12 (土) 01:49:44

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