ホーム > 58-269

朱の魚

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの飛来と武智の子供時代の話。エロは無し。
本編がツライ展開なので過去に遡ってみた。

そこは小さな庭の向こう側にあった。
日が落ち、辺りが暗くなり出した夕暮れ時。
人の気配のある居間の前を背をかがめて通り抜け、辿りついた障子戸の前で、収次郎は一度息を整える。
この向こうには小さいけれど、それでも独立した子供部屋あった。
そこにその人はいるはずだった。
もし眠っていたら、これだけを置いて帰ろう。
思いながら視線を落とした先には、しっかりと両手で握り持たれた少し太めの竹の筒がある。
それを片手に持ち直し、空いた手でそっと引いた障子。
中には一組の布団が敷かれていた。
そしてそこから、
「誰じゃ?」
この時、密かに零された声とゆっくり起き上がる人影。
あぁ、起こしてしもうたか。
瞬間、思う心にあったのは申し訳なさと……それでも会えた嬉しさ。だから、
「わしです。」
小さく告げ、顔を上げた。そんな自分にこの時、寝巻き姿で上半身を起こした武智は、微かに
驚いたようだった。

「体の具合はどうですろうか?」
明かりを灯さぬ薄暗い部屋の中、襖一枚を隔てた隣の部屋にいるだろう家人に気付かれないよう、
声をひそめて尋ねる。
そんな収次郎にこの時武智は、静かな笑みを浮かべながら「なんちゃあない」と答えてきた。
「ちっくと熱が出ただけじゃ。心配してもらうようなもんではない。むしろこんな夏に風邪を
ひくとは情けない話じゃ。」
自戒を込めたように呟かれる。それに収次郎は、そんな事はないですろうとしか返しようがなかった。
武智はこの春から一人、城下の剣術道場に通っていた。
そこは上司の子弟が通う名門道場で、白札とはいえ下司には変わりの無い武智が入門出来たのは
異例の事だった。
腕はある。それでも気苦労は絶えないだろう。それが祟っての今回の季節外れの熱ではないのか。
武智が倒れたという話を聞き、仲間内で口々に語りあった事を思い出しながら収次郎が視線を
上げると、そこには記憶のものより少し痩せたように見える武智の顔があった。
だからそれに思わず眉根が寄ってしまう。
するとそんな収次郎を安心させるかのように、武智はまたも穏やかに笑うと、その口を開いてきた。
「みんなは元気かえ?」
道場に通うようになってから会う回数の減った、そんな幼馴染の者達の事を気にかけてくる。
それに収次郎は素早く頷きを返した。
「みんな元気すぎるくらい元気です。特に伊蔵は武智さんに会いたいと毎日うるさいくらいじゃ。
それを涼真がなだめながら世話を焼いとりますき。」
「涼真が?」
「あいつもここんところ背ばかり伸びてと思うちょりましたが、中身も多少は成長しちょるようです。」
「またおまんは、そう言うきつい物言いをして。」
精一杯大人ぶりながら発した言葉。けれどそれに武智はこの時、怒ると言うよりはたしなめるような
苦笑を洩らしてきた。そして、
「そんなに無理をせんでもええぞ。」
ひそりと落とされた呟き。それに収次郎がえっ?と視線を上げれば、その先で武智はなにもかも
見透かしたような口調で告げてきた。
「おまんが年の割にはしっかりしちゅうのは昔からやけんど、それでも涼真とは同い年やし、
伊蔵ともさしては変わらん。それなのにわざわざきつい事を言うてつきあい方をおかしゅうせんでもええ。
今はこんな不甲斐ない事になっちゅうけんど、何かあった時の面倒はわしがみちゃるき。
おまんらは仲良うしいや。」
「……武智さん…」
「おまんはいつもがんばって、わしの代わりをしてくれようとしとるからのう。」
言いながら穏やかな笑みと共に、腕が伸ばされる。
そしてその手で優しく撫でられる頭。そのくすぐったくもあまりに守られている感触には、瞬間
収次郎の中で膨れ上がる感情があった。だから、
「代わりやなんて…思うた事ありません。」
少しだけ瞳を伏せながら言う。
「武智さんの代わりになんか、わしがなれるはずがない。わしは…わしはただ…」
少しでも助けになれたらと………
幼馴染といいながらも、自分達の集まりの中で武智は一人、その年も分別も抜きん出ていた。
だから何事も一人で背負いこみ、矢面に立たされ。
そんな武智の背中を自分はいつも頼もしく見上げていた。
すごいと尊敬し、憧れ、そしてそれと同時に少しだけ……淋しそうだとも。だから、
「わしは知っちょりますから。武智さんが……実はめっぽう、淋しがりやや言う事を…」
それは深い考えも無く、思わず口から出た言葉だった。
「収次郎?」
それ故、次の瞬間怪訝そうに呼ばれた名。それに収次郎ははっと我に返る。
「あっ、いえ、これは…そのっ」
たまらずしどろもどろになってしまう。そしてその先が紡げず、どうしようにもなくなって固く目を閉じ
うつむくと、そんな自分に少しの間の後、武智は小さな問いを発してきた。
「もしかして、だからそれなのか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
だから恐る恐るもう一度目を開け、顔を上げれば、そこにはこちらを少し困った様に見つめながら、
その視線をすっと自分の横合いに落としてくる武智の瞳があった。
思わず反射的にその視線の行く先を追ってしまう。
するとそこには正座する自分の隣り、部屋に上がりこんだ時から置いてた竹の筒があった。
武智の見舞いにと持ってきた、その中には一匹の赤い金魚が泳いでいた。
病床の武智に何を持ってゆけばよいか、散々に考え、その上で子供のこずかい程度で買えたもの。
当初は彼が眠っていたらこれだけを置いて行こうと思っていた、しかし会えた嬉しさからすっかり
渡す事を忘れていたその赤い魚を、収次郎は慌てて差し出す。
「すいませんっ、これ、一匹しか買えんかったがですけど。」
両手で捧げ持った、それを武智はこちらも両手で受け取る。
そしてその中を見、微かに口元をほころばせながら、それでも武智はこの時こう言った。
「やはり、無理はせんでもええぞ。」
「えっ?」
「せっかくの小遣いをわしの為なんぞに。」
気に入っては……もらえなかったのだろうか。
向けられた言葉にやはり無難に菓子くらいにしておけばよかったか、と瞬間収次郎の胸に
重い後悔が圧しかかる。
けれど、そんな収次郎の心中とは裏腹に、この時武智のどこか軽やかな声は続いた。
「こんな事をしてくれんでも、わしはわかっちょるから。」
それはどこかで聞いたような言い回しだった。
それゆえ収次郎がはっとその目を上げれば、その正面、武智はこちらをじっと笑みを含んだような
目で見つめながらこの時、密やかな声で告げてきた。
「おまんが、実はまっこと優しい男や言う事は。」
言葉が出なかった。それどころか息をするのも忘れ、ただ目の前の人を見つめてしまう。
しかし、その時、
「…っ、収次郎!ちっくとこっちに来いやっ。」
突然、鋭く言われその手首を掴まれた。
それを強く引かれ、意味がわからないまま布団の中に引き入れられる。
「武智さん?!」
「静かに、」
かける声さえ制せられ、抱き込まれる胸元。その上に武智はこの時、2人の身を頭から覆うように
布団を被せてきた。
いったい何が?
動転し、混乱するその耳に、その時布団越しすっと何かが開かれる音が聞こえた。
自分を抱き締めてくる武智の胸の鼓動が早まったのがわかる。
そのまま押し殺される息。
そんな武智の気配に包まれてどれくらいの時がたったか。
「もう…大丈夫かのう。」
不意に頭上で呟きが零されると同時に、拘束の力が緩められ、武智の身がゆっくりと起こされる。
覆っていた布団が剥がされ、籠もった熱い空気が解放される。
上げる視線。その先で、武智はこの時部屋の襖の方をうかがう様に見遣り、そこに何の変化も
無い事を認めると、その視線を今度は布団の中でまだ起き上がれずにいる収次郎の方へと戻してきた。
「声に気付かれたかのう。様子を見に来られたようじゃったが、見つからずにすんで良かった。」
彼にしては珍しい悪戯めいた口調で囁かれ、その手を伸ばされる。
起き上がる手伝いの為の。しかしそれを収次郎はこの時取る事が出来なかった。
「…だっ、大丈夫ですき…」
なんとかそれだけを言って自分で起き上がる。
すると武智はそれにはもう何も言わず、その代わりすぐにその視線を布団の影になっている部分へと向けた。
「これも見つからずに済んだようじゃ。ありがとうな、収次郎。大事にする。」
言いながら再び手に取られたのは、筒の中の金魚だった。
優しい声色。穏やかな笑み。告げられる感謝の言葉。そして……
それが限界だった。だから、
「あのっ…わし、そろそろ帰りますき。」
「そうか?」
「武智さん、お体には気をつけて。」
「おまんも、大分暗くなってきたから帰り道には気ぃつけや。」
こそこそといとまの言葉を交わして、逃げるように飛び出た武智の部屋。
辞する時、武智の顔をまともに見る事が出来なかった。
行きにあれほど気をつけた庭先をどのようにして駆け抜けたか。暗い夜道をどんな風に家まで辿りついたか。
記憶は一切ない。
ただ一つ覚えているのは…熱。
夏だった。昼の熱気がまだ冷めやらぬ外の空気は蒸し暑く、しかしそれ以上に熱いのは記憶の中の温度。
覆う布団の中で抱き寄せられ、閉ざされた視界の代わりに触れて知った感覚。
わずかに着崩れた襟元からのぞいた肌に押し当てられた自分の頬がそれからいつまでも熱かったのは、
おそらく彼の人の病のせいだけではないはずだった。

「収次郎が寝込んだ?」
道場へ通う道すがら、久方ぶりに会った仲間達に捕まりそう教えられ、瞬間武智は驚いた声を上げていた。
「武智さんが治ったと思ったら、今度は収次郎さんじゃき。」
「いったい、いつ…」
「数日前やそうです。香尾が言うには夜遅くに帰ってきた日に鼻血を出して寝込んだんじゃと。」
「鼻血?悪い病気じゃないがか?」
「ここんところ暑かったからのぼせたのかもしれんなぁ。」
「収次郎さん、普段から血の気が多いからのぉ。」
心配しているのか、からかいまじりなのか。そんな言葉を交わす仲間達の中から、この時涼真が
自分に向けて、話しかけてくる。
「それで、今からみんなで収次郎さんのお見舞いに行こうっちゅう話になっちょったんですけど、
武智さんも一緒にどうですろうか。」
無邪気な声色。先日収次郎が言っていた通り、背は順調に伸びているようだが、まだ声に幼さの残る
遠縁の幼馴染に、武智は少しだけ返事に困る。
見舞いにはすぐに行ってやりたかった。
しかし自分も数日寝込んでいた分、道場通いをこれ以上休む訳にもいかず。だから、
「悪いが、今日は無理じゃ。その代わり……明日、明日うかがわせてもらう様にするからと、
収次郎や飛来家の方には伝えておいてくれ。」
そう告げれば、途端腰にぶつかるように巻きついてくる腕の感触があった。
「えーっ、武智さん一緒に行けんがか?」
見下ろせば、そこにはこちらを見上げてくる伊蔵の大きな目があった。
「せっかく久しぶりに会えたのに、一緒に行けんのはやじゃやじゃ!」
こちらは涼真より更に幼い仕草で自分に縋りついてくる。
そんな伊蔵の頭を、武智はこの時優しく撫でてやった。
「すまんな、伊蔵。今度また時間作るき。そん時また一緒に遊ぼうな。」
「今度?まっことに?」
「ああ、まっことじゃ。」
言い含めるように告げ、その手を離させる。
そして「じゃあ、わしらは行ってきますきに」と立ち去る一団を見送って、武智は再び道場へのその歩を進めた。
「収次郎が寝込んだ……わしが風邪をうつしてしもうたんじゃろうか?」
歩きながら数日前、夕暮れ時に自分を訪れ、見舞いの品を置いていってくれた収次郎の姿を思い出す。
あの時は元気そうじゃったが。しかし狭い部屋の中で、自分の寝ていた布団の中にまで引き入れて
しもうたからのう…
「もしそうなら収次郎には悪い事をした…」
そう一人ごち、武智は約束した明日へと思いを馳せる。
家にうかがうなら、今度は自分が何か見舞いの物を持って行かねばならない。
はたして収次郎は何が好きだったか。
記憶を辿り、考えを巡らせ、その末に武智は今日、絵具を買って帰ろうと思う。
色は朱。それで、
今晩、金魚の絵を描こう。

『わしは知っちょりますから。武智さんが……実はめっぽう、淋しがりやや言う事を…』

耳に蘇る収次郎の声。
自分にそう告げた彼にもう一匹同じ金魚を与えてやれば、それはそろいで淋しさも少しは減るだろうか。
思う脳裏にひらりと赤い尾ひれが揺らめく。
それはこの時、優美な色鮮やかさで収次郎を想う自分の心を染めていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
放送で思いっきり金魚が大写しになって焦りまくったのはナイショ。
専スレで今もシュージローが元気なのは癒しです。

このページを共有:
  • このページをはてなブックマークに追加 このページを含むはてなブックマーク
  • このページをlivedoor クリップに追加 このページを含むlivedoor クリップ
  • このページをYahoo!ブックマークに追加
  • このページを@niftyクリップに追加
  • このページをdel.icio.usに追加
  • このページをGoogleブックマークに追加

このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP