僕の恋人。
更新日: 2011-04-24 (日) 17:55:09
先日発売された、まぜこいホットドッグの坂風です。
萌えーてなって勢いで書いた。楽しかった。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
真夜中。突然の訪問に目呆け眼を擦りながら部屋に招き入れて茶を出した僕に、風間さんは朗らかに告げた。
「驚かないで聞いて欲しい。実は、デキちゃったみたいなんだ」
「…………はあ」
驚くというより、呆れた。
何がデキたのかと聞くほど野暮ではないけど、だからって信じれる話しじゃない。
あからさまに胡乱な顔をしているだろう僕にニコニコと笑いかける風間さんは、一体何を考えているんだろう。
前々から、少し…いや、大分、変わった人だと思っていた。付き合うようになって、少しはわかった気になっていたけど、やっぱり、変な人だ。
寝起きで跳ねてる後ろ髪を撫で付けながら、なんて言おうか考えていて。ふと、気付いた。
時計を見れば、時刻は0時を過ぎていた。そう、つまり、今日はもう4月1日。
エイプリルフール、だ。
「………」
気付いたそれに、僕はなんだか酷く疲れた気分で床に転がった。
うとうとしていた所を起こされて、こんな真夜中に何の用事かとほんの少し緊張もしていたのに。
ああ、眠気が戻ってきた。いっそこのまま寝てしまおうか。
「坂上君、キミ、その態度はないだろう。そりゃあ混乱する気持ちもわからなくはないが、これは現実だ。二人の将来もかかってるんだから、ちゃんと起きて考えたまえよ」
フローリングの床にべたりと張り付いたまま身動きしない僕に風間さんの声がかかる。
そうですね、現実ですね。いっそ夢オチならよかったですよ。
というか、どうせつくならもっとちゃんと、一瞬でも信じるような嘘を用意して欲しいと思うのは僕の我侭でしょうか。それとも、聞いた瞬間に笑うべきでしたか? だったら僕のリアクション間違いですね、すみません。謝るんで、今の所は帰っていただけないでしょうか。明日また会いましょう。その時にはちゃんとリアクションしますんで、今はこのまま寝させてください。
「……坂上君?」
黙ったまま床に寝転がっていると、膝を引き摺って近寄った風間さんが僕の肩を揺さぶる。
閉じた目もそのままで無視していると、また、名前を呼ばれた。
その声がなんだか弱弱しく聞こえて、そぅっと、薄目を開ける。
「ねぇ、ちょっと…」
風間さんは、凄く困った顔をしていた。途方にくれた、でもいい。
…寂しそうだとか、泣きそう、でも、いい。
「………さかがみくん」
ぽつりと、もう一度。呟くように僕の名を呼んでから、風間さんの手が肩から離れていく。
このまま行かせちゃいけない。
がばりと起き上がって、引きかけた腕を掴む。驚いた顔で僕を見る風間さんをそのまま強引に引っ張って、一緒に床に転がった。
二人分の体重の乗った勢いでいい音をたてて打ち付けた後頭部が痛い。我慢だ。
「さ、坂上君…?」
胸元に顔を押し付けられたまま、風間さんが戸惑った声で僕の名を呼ぶ。
背中に腕を回してぎゅうと抱きしめたら、少しの間があって、僕の背中にも腕が回った。
ちらりと見れば耳まで真っ赤にした風間さんが僕の胸に顔を埋めている。
僕は、幸せ者だ。
好きな人が傍にいてくれて、抱きしめれば返してくれる。そりゃちょっと変わった人だけど、それも知っていて好きになったんだから、嫌だとは思わない。
困った人だなと思う事もあるけど、嫌いになんてなれない。むしろ、そんな所が可愛かったりもする。
たとえば、今とかも。
こんな夜中に訪ねてくるだなんて、きっと、一番に嘘をつこうだなんて思い立ったんだろう。
そうしてどんな嘘なら僕が驚くか考えて、どんな嘘をついて信じさせるか考えて、色々色々考えて、それで、どこかで方向を間違えたんだ。
どこでどうしたらそんな方向にいくのか不思議だけど、風間さんだから、まぁしょうがない。
きっと風間さんが知ったら憮然とするだろう理由で納得して、僕はくすくすと小さく笑う。
「…なに笑ってるのさ」
「別に、なにもありませんよ」
納得いかないのだろう風間さんは少しだけ唇を尖らせて、それに僕はまた笑う。
ああ、ああ、本当に、もう。
「………それで、キミはどうしたい?」
「え?」
「…………」
まだ続ける気らしい。あのまま済し崩しにすればいいのに、妙な所で律儀な人だ。
だけど、呆れるにしろ笑うにしろ、なんだか今更だ。それに今の僕なら、他の反応もできる。
「……いや、いい。なんだかおかしな空気にしちゃったね。もう止めようか、こんなはな」
「嬉しいです」
努めて明るく早口で言ってた風間さんにかぶせて、口を開く。
僕の言葉に風間さんは一瞬ぽかんとした顔を見せて、それから、疑わしそうな表情で僕を見た。
「ホントにぃ?」
「ええ、もちろん。風間さんに似てて欲しいなぁ、そうしたらきっと可愛いですよ」
頭の中で風間さんをそのまま小さくした男の子と、少し柔らかい感じにした女の子を想像する。
うん。凄く可愛い。これで性格が僕みたいに普通だったら、人生勝ったも同然じゃないだろうか。
見た目が全てとは言わないけど、見た目も大切だ。中身は育てる方にかかってるから、僕が頑張ろう。
想像している内に、なんだか楽しくなってきた。
この若さでパパは困る気もするけど、子供の幼稚園だとか小学校だとかで若いパパと評判になるのも悪くはない。
そうしたら、隣にいる風間さんはなんて噂されるんだろう。子供とそっくりだからって、ママには見えないし。あれ、ひょっとして僕がママ扱い? いやでも、その頃には僕だって背も伸びて男らしくなってる筈だから大丈夫だ、きっと。
小さくてもいいから一軒家に住んで、家族四人、楽しく仲良く幸せに暮らすんだ。
その内、長男は独立して家を出て、長女は結婚……嫌だ、誰が嫁になんてやるもんか。ずっと家にいればいい。
「っ、は…あははははははっ」
「!」
大きな笑い声で我に返った。
しまった。すっかり入り込んで、何時の間にか口に出していた。
痛々しい妄想を聞かれ大笑いされた恥ずかしさに、顔が真っ赤になるのがわかる。
「そ、そんな笑わなくてもいいでしょう!?」
元々は風間さんが言い出した事なのに、なんだか理不尽だ。
怒鳴る僕に風間さんは「ごめんごめん」と思ってもないんだろう軽さで答えて、笑い涙を拭ってる。
重ねて文句を言ってやろうと口を開きかけた僕は、出かかった言葉を喉で止めた。
目の前、風間さんが笑う。
その顔はとても楽しそうで、嬉しそうで。幸せそうだった。
「でもね、ボクに似ればそりゃ可愛いだろうけど、キミに似た子も勝ち組だと思うよ」
伸びてきた手が僕の頬を撫でる。
犬や猫を撫でるような気安い仕草で撫でながら、風間さんは目を細めて笑う。
それは本当に楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで。
この人は僕の事を好きなんだって、そう、感じさせてくれる笑顔だった。
「…え、あ、あれっ?」
腰に腕を回して強く引き寄せると、パジャマ代わりのスエットは布越しに確かな熱を風間さんに伝えた。
慌てた様子で僕から離れようとする風間さんの足に足を絡ませて抵抗を封じながら、僕は思う。
この人は、本当に。
なんて可愛くて、愛らしくて、いとおしい人なんだろう。
数日後。
春休みは塾通いなんてクラスメートもいるけど、特にレベルの高い大学を目指すでもなく成績が悪いわけでもない僕は、ほぼ毎日、風間さんと会っている。
今日もまた、何をするでもなくぶらぶらと街を歩いて、今は公園のベンチで一休みしている所だ。
「喉が渇かない? 坂上君、キミちょっとさっきの自販機で買っておいでよ」
「さっきって、入り口じゃないですか…通った時に言ってくださいよ」
ぶつぶつ言いながら、ベンチから腰を浮かす。風間さんと付き合いだしてから、僕のサイフには小銭が増えた。
「コーラでいいですよね」
「いや、オレンジジュースにしようかな」
あれ、珍しい。…あれ? そういえば、最近の風間さんはコーラを飲んでない気がする。
缶やペットボトルよりビンの方が美味しいと拘りまで持っている人なのに、どうしたんだろう。
「炭酸の飲みすぎで胃の調子でも悪くしましたか?」
「なに言ってるのさ。まあボクも飲みたいのは山々だけど、糖類をあまり摂るのはよくないって聞くからね。でも、好きな物を我慢するのもストレスで良くないって言うだろう? ねぇ、どっちがマシだと思う?」
「…………えっと」
何に、とは愚問なんだろうか。
いつもの調子で言いながら、そのくせ、ほんの少し頬を染めて照れくさそうに僕を見る風間さんは、そういえば最近、少しだけお腹周りがふっくらしてきた気がする。
太りましたか、なんて、失礼すぎて言えないし、元々痩せてる人だから気にはしなかったんだけど、もしかして。
いやでも、まさか。だって、あれは。そんなこと、あるわけ。
「そうだ。ネットで調べてみればいい。坂上君、キミの家にパソコンあったよね。後でお邪魔するよ」
だから今の所はオレンジジュースね、と付け加える風間さんに、だったら僕の家に向かいながらジュースを買えばいいんじゃないかと思いながら、それでも言えなくて、「はい」とその場を後にした。
ちらと振り返れば、木陰にあるベンチに腰掛けたままの風間さんが小さく手を振る。早くいけ、の動作にも見えるけど、気のせいだ。
そうだ。気のせいだ。糖類控えてる人が太るだなんて、そんな。こうして遠目で見ると全体的にラインが柔らかくなってるように見えるのだって、きっと、気のせいに違いない。
だって、ある筈がないじゃないか。そうだよ、だって僕らは男同士なんだから。いくら風間さんが変わった人だからって……あ、でも、風間さんは………月…、いやいや、だからって、そんなこと……。
「……いや、ないよ。ない。ないない。あは、は…ははははは……」
渇いた笑いを溢す僕を、頭上の昼月が静かに照らしていた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
スンバなら卵くらい産めるんじゃないかと思う。ありがとうございました。
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