追い盛り
更新日: 2011-04-24 (日) 18:23:05
D.S.のcome on animal's forest(和訳)
学芸員とマ.ス.タ.ー
今更再開して再燃したのでついうっかり。
勢いだけ。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
ここはある村の博物館。
二十四時間開放された入口を入って直ぐの大きな柱時計の前に置かれた事務椅子に座り、時折はあ…と溜息をついている青年がいる。
彼はこの博物館の学芸員、名をフータという。
彼は近頃寝不足に悩まされていたが、今ついている溜息の原因はそれとは違う。
先程、化石の鑑定をしてほしいと訪れた女性との会話のせいだ。
その女性はこの村に引っ越してきてから毎日、化石を掘り出しては寄贈、昆虫を採取しては寄贈、魚を釣っては寄贈と、博物館に通い詰めである。
そして博物館の地下にある喫茶店にも通い詰めである。
その喫茶店は眼鏡を掛けた穏やかで無口な中年男性がマスターをしている、何の変哲もないただの純喫茶である。
しかしそのコーヒーは絶品で、村人の中にもファンが多い。
そしてそのコーヒーこそが、例の溜息の原因となった会話のタネだった。
先程例の女性が訪れた際、フ.ー.タは寝不足からの溜息をついてしまった。
当然のことながら女性はフ.ー.タにどうしたのかと尋ねた。
女性が訪れたのは昼で、普段ならばフ.ー.タは昼間居眠りをしているのだ。
フ.ー.タは最近眠れない、コーヒーの飲み過ぎかも知れない、と答えた。
女性は笑いながらそうかもねと言った。
「確かにコーヒーに入っているカフェインにはですね、神経を興奮させる作用がありますです、ハイ」
女性はうんうんと頷く。
「しかしですね、わたくしの場合、特別なブレンドを頼んでいますから!」
女性がきょとんとした顔でフ.ー.タを見る。
「ピジョンミルクですよ。あれはカフェインとは逆に神経をリラックスさせるんです、ハイ」
「ああ、ピジョンミルク!それなら私もたまに入れてもらってますよ。甘くてまろやかになって、凄く美味しいですよね!」
フ.ー.タは思い返しながらやっと気付いた。
自分は毎日喫茶店に通い詰めの彼女に少しばかり嫉妬していたのだ。
フ.ー.タは喫茶店のマ.ス.タ.ーに、淡い恋心を抱いている。
男同士であるし、下手を打つと親子ほどの年の差がある。
決して伝えることはないだろうが、それでも彼を独占したいと思う気持ちはあり、実際にそうできているような心持ちでいたのだ。
しかし、自分以外に喫茶店に毎日顔を出す、しかも女性が現れ、知らず知らず気は焦ってしまっていたのだろう。
それで、恐らく自分以外には出したことのないであろうピジョンミルクの話をして、彼女には、「へえ!そんなのがあるんですか!良いなあ」というようなことを言ってほしかったのだろう。
それがどうだ、自分だけが知っている味と思っていたそれは、独占などできていなかった。
彼女も自分も、マ.ス.タ.ーにとってはただの大切なお客様でしかないのだ。
フ.ー.タの溜息はますます深くなるばかりであった。
夜が更け、村が静まり返る頃、博物館を訪れる人などいなくなる。
フ.ー.タはその時間帯、喫茶店に行くのが習慣であった。
既に昨日となってしまったが、少しばかり苦々しいことがあったとて、それは覆らない。
例え独占できていなかったとしても、愛しいものは愛しいのだ。
「こんばんはー」
「あ…、フ.ー.タさん…」
マ.ス.タ.ーは少し眠そうな眼をしていたが、優しい笑顔でフ.ー.タを迎えた。
フ.ー.タはコーヒーを飲まずとも既に癒されながら椅子に腰掛けた。
「いつものお願いします」
「はい…。あ、ピジョンミルク、入れときます…?」
思わずうろたえそうになったのを何とか留め、フ.ー.タは普通を装って首を縦に振った。
「じゃあ、入れときますね…」
磨き抜かれた白いコーヒーカップがソーサーに乗り、差し出される。
深い焦げ茶色にピジョンミルクを加えて甘いベージュになったコーヒーから立ち上がる香気を孕んだ湯気が心地良い。
一口飲んで、ほっと一息つくと、フ.ー.タの心にあった独占云々という重いものは、どこかへ消え去ってしまっていた。
この時間だけで良い、二人切りの時間があれば、それで良い。
そう思いながらフ.ー.タはいつしかマ.ス.タ.ーをじっと見つめてしまっていたらしく、マ.ス.タ.ーは困ったように俯いて「あの」と口を開いた。
「はい、あ、なん、何でしょう」
「あ…、えっと…」
フ.ー.タが自分の恥に気付いて取り繕えきれずに返事をすると、マ.ス.タ.ーはカウンターに隠れた棚から何やら取り出してフータに差し出した。
「これ…、良かったら…」
「あ、サブレですか?」
それはどこかの銘菓としても知られているらしい鳩の形に似せて作ったサブレだった。
「ありがとうございます、遠慮なく頂きますです、ハイ」
「あの…、それ…」
「ハイ?」
「特別…ですから…」
「…え?」
マ.ス.タ.ーの意図することが分からないフ.ー.タが聞き返すと、俯いていたマ.ス.タ.ーが顔を上げた。
薄赤く頬が染まり、困ったように眉を寄せている。
「フ、フ.ー.タさんのために…、一つ余分に…、買ってきましたから…」
フ.ー.タは自分の思考が停止するのを感じた。
余計なことを考えず、マ.ス.タ.ーの言葉だけを反芻することを脳が命じるのだ。
しかしそれではいけないとフ.ー.タは何とか口を開いた。
「あっ、あ、…あり………ありがとう、ございます…」
元からくりくりとした目を更に大きく丸くして自分を凝視するフ.ー.タに圧倒されつつも、マ.スタ.ーは好意を感じたのかにこりと微笑んだ。
フ.ー.タはシナプスが焼け切る様を脳裏に描きながら、不自然なのだろうと分かりつつも笑顔を作った。
翌日からフ.ー.タの溜息のタネはサブレを食べるか食べないかになったが、それが解決するかどうかは神のみぞ知るという奴である。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
途中ナンバリングミスがあり済みません。
そして主人公(女)登場注意記載も抜けて済みません。
化石コンプしたのでこれからの夏でたっぷり虫を捕まえます。
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