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音→日

今期アニメ・Angel Beats!より。4話後を音無視点で捏造
音無→日向止まりです
二人に萌えが抑えきれない今日この頃

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

空の眩しさに、打ち上がった白球が溶けて見失いそうになる。
彼の目がその行方を捉えきれていたのかはわからない。
けれど、掲げたグローブにボールが吸い込まれていくのがフラッシュバックした瞬間、俺は叫んでいた。
たとえ届かないとしても、走らずにはいられなかった。

「あーあ。優勝目前だったのになー」
「チーム結成すら無理そうな状況からよくやったよ」
「ほんと、人望の差が歴然でしたからねっ!」
「黙れチビレスラー」
「なんですってえぇ!」
グラウンドを後にする道の途中、後ろから日向に肩を引き寄せられた俺は、されるがまま、引きずられるように歩いている。
過剰スキンシップにもそろそろ慣れてきた。端からは間に合わせピッチャーの奮戦を労っているようにも見えるだろうか。
負け試合だったのに、日向はいつもと変わらないどころかそれ以上に、人好きのするまっすぐな笑顔を隠しもせずに向けてくる。
敗北に貢献したユイも相変わらず賑やかだ。こんなことを言ったら容赦なく関節を決められそうだが、
同じレベルでいじり倒し合える日向をわりと気に入ってそうな感じがする。
俺はというと、きっとどこかばつが悪いような、照れくささと安堵が混じったような、よくわからない表情をしていると思う。
「おまえなんてこうだっ」
「いでっ!」
ものすごい音がして、ブーツを履いたユイの渾身のローが無防備な日向の膝下に入った。
「わ」
肩を組まれているから、当然崩れる日向と一緒に沈みそうになる。腰を掴んで体重を支えた。なんとか転倒は避けられた。
俺にぶら下がった状態で日向が背を震わせている。
「大丈夫か?」
「あのアマ……」
ユイは、汗臭い野郎二人がべたべたあつくるしいんだよ! と俺を巻き込んだ捨て台詞を吐き、親衛隊の女の子達の輪へと駆けていった。
最後尾の俺達にきゃんきゃんくっついて歩くのも飽きたんだろう。
でも俺は、彼女に内心ものすごく感謝していた。
あの時ユイが日向に―――。
でも、日向への仕打ちを考えると礼を口にするのもなんとなく憚られて、そのことは黙っていた。

俺達は、死んだ世界戦線という妙な組織に所属している。
ここは死後の世界で、仲間はみんな死んだ連中。
しかも、俺には生きてた頃の記憶がなく、死んだ理由さえわからない。
現世で自分がどんな人間だったかは知らないが、免許もなしに銃火器を使うことになるとは想定していなかったと思う。
それも一人の女の子相手にだ。
記憶が飛んでるのであいにく有効活用できないが、そういった武器の類は生前の知識をもとに製造・調達するという、
とんでもDIY設定がおまけでついてくる。
現実世界なら間違いなくあの世逝きであろう怪我を負ったって、もう死んでるから死にはしない。
時間が経てば治癒してしまうのだから、本当に何でもありだ。
とにかく、挙げればきりがないくらいにまともじゃない。戦線のメンバーも相当な個性派揃いである。
でも悪い奴等じゃない。オペレーションの一環とはいえこうやってつるんだり、本部で他愛のない雑談をしてる時なんかは、
置かれている状況の奇怪さがどうでもよくなることが、最近はたまにある。
けれど、この前の作戦中の出来事は、頭から離れそうにない。
実行部隊が天使エリアでの侵入ミッションを行っている間、陽動部隊は体育館で大規模なライブを始めていた

その最中にオーディエンスの前で消えた岩沢。
彼女が話してくれた、無念のうちに絶たれた短い生涯。
かき鳴らされるアコギのストロークと静かな激情を湛えた歌声が、まだ耳に残っている。
歌いきった後、ギターだけを残して岩沢はどこにもいなくなってしまった。
誰にも何も告げず、彼女は彼女の最期を迎えたのだ。

既に肉体的には死んだ人間が死を迎えるとはどういうことなのか。
それは、ここで抗うことを辞めた時に訪れる。
天使に従って模範生徒になるか、あるいは、生前の苦悩から解放されて満たされたと感じるか。
どちらにせよ、思い残すことがなくなったら、俺達は消滅してしまう。
死んだ世界における最期とはそういうことだ。

生徒会チームとの決勝戦。アウトあと一人の場面で、日向がこの世界に来た理由の断片を教えてくれた。
日向は震えていた。そんなあいつを見たのは初めてだった。
日向自身よく覚えていない、とは言っていた。野球少年だった日向は野球によって人生を狂わされ、
そして恐らく自責の念を抱えたまま、ある日敢え無く命を落とした。
「何も考えられなくて、あの時と一緒で。俺とボールと空しかない感じも」
9回裏1点差でツーアウトランナー2・3累、打球はセカンドフライ。
グローブを構える彼の姿に岩沢が重なった。
日向が消えるイメージが脳内で再生される。
俺はあいつに消えて欲しくないと強く願い、叫び、走っていた。衝動だった。
その時だ。ユイが力の限り突っ込んでいったのは。
それがなければ日向は捕球していただろう。今考えても背筋が寒くなる。
「けど、全然同じじゃなかった。だいたいこのチームめちゃくちゃだからな」
「確かにな」
「それに、ここにはお前がいるから」
―――今、なんて。
不意を突かれて相槌も打てない俺に、日向は続ける。
「今日はちゃんと思い出せるぜ。音無、俺の名前を呼んだだろ」
「……」
「ありがとうな」
日向の声がくすぐったい。耳が熱くなる。
お前のこと結構気に入ってるとか、俺にはお前が必要だとか、こいつのストレートな物言いに多少の免疫ができた頃だと
思っていたのに。
強く胸が締めつけられて、何も言えずに俯いた。
あんなところで勝手に消えさせない、ぐらい吐いて格好付けられたらいいのに。
お前に消えて欲しくなかった、と今ここで言えるほど素直になれたらいいのに。
どっちもできなくて、ただ下を向いて、自分の気持ちをかみしめる。

知り合ってほんの短い間に、日向が俺を気にかけてくれるのを、自然と受け入れていた。
それが元々の日向の性格によるもので、たとえ俺だけに向けられるものじゃなかったとしても、それでもいい。
失いそうになってわかった。
俺も日向のことが大事だ。
日向が好きだから大事にしたい。失いたくない。
強く湧き上がる感情を何度も確かめる。
これからも、お前が一人で勝手に満足していなくなってしまおうとしたら、俺は全力で妨げる。
俺にもお前が必要なんだ。
この思いだけは、お前が消えるなんて形で終わらせたくない。
「そんな顔しなくても、お前を残して成仏なんて心配だからできない!」
「……おう! 頼むぜ」
どんな顔してた、とは聞けなかった。
間近の日向はやっぱり笑っていた。置いていかれそうになった子どもに向けるような、優しくてあたたかい笑顔を見て、
日向の言葉はきっと嘘じゃないと思った。

死ぬ前の記憶をなくした俺は、いったい何をしたら満たされたと感じるんだろう。
俺が消えそうな時は、日向に引き留めて欲しい。
そう願っている。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

勢いで書いてから本編見返して辻褄合わせたのは内緒
そうだね侵入班はライブ見れなかったね…
二次創作が増えるといいなーと思っています
ありがとうございました


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